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配慮を求めるということ。その過程で考えたこと。
大分県の中学2年生 甲斐潤樹くんのお母様、真澄さんとの対談。小学生からiPadを利用するなどの配慮を得てきましたが、教室の中で起きた問題についてお聞きしました。
つらいこと、うれしいこと、いろんな経験を経て今がある
潤樹くんが支援を求める姿勢はおだやかですね。焦らず、できるところから少しずつ理解を求めていく。それがとてもうまくいっているようです。
真澄さん 入学したときにはガツガツって配慮を求めたんですよ。10個ちかい項目を挙げて、たたみかけるような勢いで。でも、ぜんぜんうまくいかなかった。それでその度に潤樹が先生に言うんです。「ほら、また拡大するの忘れた」とか(笑)。
先生に対して「ほら、こうじゃない、ああじゃない」っていう言い方をするので見ているこっちがハラハラする。当然、先生もご機嫌ななめになってきますよね。そんなことが何回か続いた後、あるとき彼、気がついたんです。「あ、わかった!」って。「配慮を求めるにはね、相手に対して細心の配慮をしなくちゃいけないんだ」(笑)。
そのことに13歳で気づけるのはすごいですね。
真澄さん 家では「僕は配慮を求めていいんだ。それはあたりまえのことなんだ」って言っていても、先生には「こういうことをしていただけると、とても僕は見やすくて助かるんです。だからお願いします」なんて言って、とても丁寧なの。何かを頼むときも相手を見極めて、本当にわかってくれる人にお願いしたり。
本当はコミュニケーションが苦手なのに相手を慮ったり相手に対するリスペクトをどう表現したらいいかということをしっかり考えて実行していますね。
真澄さん 「この子はこんなに自己主張ばかりしているけれど、どうなんだろう? 社会に出ても人とうまくやっていけないんじゃないか」って前はよく思ってました。でも、支援を求めてたくさんの交渉をする中で鍛えられたのかな、そのへんの大人の人よりも上手にできるようになったかもしれません。
最近は学校や先生に対しても、私がいろいろ言うよりは本人が子ども目線で伝えた方がいいみたいです。その方が先生たちも聞いてくれる。親の出番は減ってきそうです(笑)。
担任の先生が変わると
真澄さん 親ができるのは後方支援だけ。授業の内容にしてもテストにしても、親は見ていないから実際のところはわかりません。だから学校のことについては先生にお任せします、って言うしかない。そういう意味では先生次第というところもあります。息子は今年、担任の先生にとてもよく理解していただいて、物事が一気に進んだ感じがします。
先生との連携がうまくいくと、支援も本人にフィットした形になっていきますよね。逆に支援が担任の先生との関係に左右されることもある?
真澄さん そうですね。担任の先生が替わったときに引き継ぎがうまくいかないと、またゼロから始めなくちゃいけない。小学校のとき、そういうことがありました。担任に恵まれていろんなことがうまくいっていたんですが、新しい先生になった途端、全てがガラッと変わってしまった。一気に突き落とされるように。それで、潤樹は学校に行かなくなりました。
担任が替わったのがきっかけですか?
真澄さん 一切がだめになってしまったんです。パソコンもipadもなにもかも。4年生の時はipadを学校に持っていって自分の使いたいときに自由に使わせてくれました。授業中に写真も撮ったし、ノートも取った。先生はipadに書いた文章を見てくれて「うん、いいよ」なんて声をかけてくれていました。
でも、5年生になったら、そういったことがいっさいだめになった。というか、先生が対応しなくなったんです。ipadに書いたものは見てもくれない。「あっているよ」とか「間違ってるよ」ということも言ってくれず、ipadを使っていることを完全に無視していました。
授業で「みんな、ノートを出してください」っていうときも、「潤樹さん、ノート出てないわよ」って。でも潤樹はノートを取っていないのだから、出せるわけがない。
そんなことが続いたら、潤樹がipadを使わなくなったんです。代わりにがんばってノートを取ろうとした。でも、やっぱり無理なんです。一生懸命やってもできないから、もうどうにかなりそうになって…。そして、学校に行かなくなってしまった。
つらかったですね。それが5年のときですか?
真澄さん そうです。でも、担任の先生は、「わたしはipadを禁止してません。使わなくなったのは本人です」って。
確かにそうなんですが。例えば「はいノート出して!」っていうのを、潤樹の方で「ipadは使っちゃいけない」というように受け取ってしまったというのはあるんだけれど…。
ipadではなくノートを使わなくちゃいけないんだ、って思ってしまったんですね。
真澄さん 空気が読めない子なのに、不思議なところだけ深読みしすぎ(笑)。でも、やっぱりきつかったです。たぶん、先生自身がipadを授業で使うということに納得していなかったんでしょうね。
潤樹によると、先生次第でクラスの雰囲気は変わるんだそうです。先生が受け入れてくれてたときは、クラスのみんなからも「ずるい」とか「なんで潤樹くんだけ?」みたいな話は出ないんですって。だけど、先生が受け入れていないときは、お友達もみんなそういうふうになる、ということを小学校の頃に言ってました。
「してあげる」と「あたりまえ」
真澄さん 去年、中一のとき、ちょっと学校でいろいろあったんです。そのときにうちの子が言ったのが、「先生は僕のことを見下しているんだよ」。
先生はプリントを拡大してくれたりパソコン使わせたりしてくれている。僕のような人たちにとって、それはあたりまえのこと。だけど、先生は僕に「してあげてる」と思ってるでしょ。先生が「してあげてる」って思ってるから、僕は友達から「ひいきされてる」とか「ずるい」とか言われる。先生が「あたりまえ」と思ってくれていたら僕はずるいなんて言われなかった。そんなことを、そのときの担任の先生に言っちゃった。
先生に直接言ったんですか! 勇気がありますね(笑)。でも、よく見抜いている。潤樹くんの言うとおりだと思います。
真澄さん 先生の「してあげている」という気持ちが本人だけでなく、周りの子たちにも伝わるんでしょうね。
でも、2年生になって担任が替わったら、クラスの雰囲気が変わったんです。メンバーは去年と同じなんだけれど、今年の方がみんな温かいというか。先生が潤樹への配慮をあたりまえのようにやっているから、周りの子たちの気持ちも違うのかな、と思います。
子どもたちはそういうことを敏感に感じ取りますよね。「してあげている」というのは相手を一段下に見ているというか、尊厳を傷つけている。本来は先生と親と本人は対等であるべきなのに。
真澄さん 尊厳を尊重してもらっているから支援があるんだと思うんです。むしろ、こどもの方がお互いの尊厳を大事にしている気がします。黒板の写真を撮ろうが、パソコンを使って作文を書こうが、対等に見てくれる。
誰かと話しているとき、「この人、僕を対等に見てないな」「僕の尊厳を認めていないんだな」って感じることほどつらいことはないと思います。
真澄さん 傷つきますよね。支援を求める度にそんな思いを繰り返して。でも、同時にいろんな人に救ってもらってもきました。そうした体験を重ねながら歩いてきて、人との付き合い方を学んできたというか。つらい経験をしてきたから、人のつらさがよくわかるようになった気がします。
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