【1】マネジメントメッセージ
一般社団法人読み書き配慮
代表理事 菊田史子
辰年の2024年、これまで以上に読み書き配慮には、様々な力が結集するようになりました。企業と言わず人と言わず課題意識を同じくする思いと力が集まる様は、龍に向かって風雲が、音をなして集まる様にも似ています。社会はコロナ禍以前の活況を取り戻してきました。社会の活気が学校現場をも明るくする中で、コロナ禍で傷ついた子どもたちをケアする取り組みは、日常の営みとして丁寧に続けられています。 「令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(文部科学省https://www.mext.go.jp/content/20231004-mxt_jidou01-100002753_1.pdf)によれば、小中学校における不登校の児童生徒数は対前年度比で22.1%もの増加となりました。大幅な増加傾向はこの2年続いています。
読み書き困難(ディスレクシア)の子ども達はコロナ禍の対面の授業が行われなくなった学校で、学びに躓くケースが続出しました。耳からの音声言語による情報が閉ざされ、文字言語に情報源を頼らざるを得ない場面が増え、ギリギリまで耐えてきた読み書きサバイバルがキャパオーバーになったのかもしれません。
読み書き配慮が行う「読み書き苦手な子どものスクールKI・KU・TA(機器も・駆使して・楽しく学ぶ)」では読み書き困難(ディスレクシア)の参加者のうち、不登校傾向にあった子どもの登校行動の回復率は60%に及びます。
激増する「不登校」の影に読み書きへの疲れや諦めがないのか、その可能性も視野に入れた観察が求められます。 読み書き困難(ディスレクシア)への対応に、動き始めた学校や教育委員会も増えています。読み書き配慮が各地の教員・学校関係者向けに講師を務める研修会の熱量も、一段と高まってきています。「これまでの自分がいかに読み書きに困難を抱えた生徒に適切な支援ができていなかったか思い知らされた/(国語・教員)」「書けるようにさせなければと思っていたので、(講演を聞いて)楽になった/(通級・教員)」「ICTが発達している今の時代、無理やり読み書きができるように指導する必要はないと、非常に納得した/(スクールカウンセラー)」「改めて教員が自身をアップデートしていくことだけでなく、同僚を、学校を、社会をアップデートしていかないといけないと感じた/(教員)」など、参加者からは熱のこもった感想や決意が寄せられています。これを受けて、配慮を希望するお子さんが持参する私物の機器でも学校のインターネットに接続するという柔軟な対応に動き始めた教育委員会もあります。
教育が本質を見極めるとき、読み書きの問題は解決に向かいます。昇龍が力強く空に登っていくごとく、人々の力を結集させ、解決へのうねりを更に加速させていかなければなりません。
後段で詳述しますが、読み書き苦手な子どものスクールKI・KU・TAの参加者数は23年度末の累計で110名を超えました。24年度も東京で3クール、地方は夏に名古屋、春には九州を予定しています。KI・KU・TAプログラムを各地で手軽に受講していただく未来を目指して開催してきた、URAWSS講習・ICT指導者講習、クロムブック講習、教員・専門職向け講習会は、24年度 KI・KU・TAインストラクターOJTもスタートさせ、さらに拡充していきます。もっと身近にデータベースを使っていただくために、23年度に無料化した事例データベース「あるよストーリーバンク」も、24年度には更に拡充していく考えです。併せて他社との協業も拡大してきています。NHKやNHK厚生文化事業団、朝日新聞などメディア各社との連携は、取材に留まらず企画・連載・実験協力などと、協業を一層深めてきています。23年度にはNTTコミュニケーションズが手がけるアプリ開発への協力も始まりました。読み書き困難(ディスレクシア)の人の学びをサポートするこのアプリ開発は、25年の事業化を目指して24年8月、いよいよ資金調達を開始する段階に入ります。
昇龍のごとく、読み書き困難(ディスレクシア)解決へのうねりを加速させて進む読み書き配慮を、2024年度も引き続きご支援ください。
一般社団法人読み書き配慮 代表理事
菊田史子
スマホでご覧になる場合はこちらのPDFで
【2】事業の状況
当法人は、子どもたちが読み書きの困難さを抱えていても本質的な学びの機会が与えられることを主たる目的として2018年に設立
以降、当事者と社会の双方に対して読み書き困難とは何かを周知し、どのような困難な状況にあるかを検査により客観的に可視化し
た上で、困難を抱えた子どもたちを支援する事業活動を進めてきました。以下では今年度(2023年度)における事業の進展状況につ
き報告します。
1. KI・KU・TA事業の展開
読み書き困難を抱える子どもを対象としたスクールKI・KU・TAは、9週間で組まれたプログラムを1期(クール)として東京で年間3
期実施しています。今年度も第5,6,7期を東京で開催するとともに、地方開催として仙台と静岡で短期集中プログラムを実施し、約
50名の生徒が卒業しました(活動の様子はKI・KU・TAのホームページ(kikuta.website)をご覧下さい)。また朝日新聞厚生文化事
業団より、「発達障害とともに生きる豊かな地域生活応援助成」の対象にKI・KU・TA事業が選出され、2月の朝日新聞で紹介されま
した。
KI・KU・TAが子どもに効果を発揮する理由の一つが、スクールで教える側に同じような困難を抱えている身近な先輩がおり、そこ
から意図せず自然と子どもたちが刺激を受けている点にあります。また卒業した1期生が配慮を受けて高校入試をクリア、高校生プ
ログラムに参加していた子が大学入試を突破し、今度はKI・KU・TAで教える側に回るといった動きも起きています。110人を超えた
KIKUTAの卒業生が、前述したアプリの開発に協力してくれるなど、KI・KU・TAは一方的な支援ではなく、相互に支援が循環する場
になりつつあるのです。
こうしたこともあり、【1】で述べた通り、不登校傾向にあった子どもの登校行動の回復率が60%になる等、KI・KU・TAの効果を示
すエビデンスが多数集まるようになりました。この活動を他の方々にも実施して欲しいとの願いを込め、7月にKI・KU・TA のノウ
ハウを「読み書き困難のある子どもたちへの支援」(金子書房)という書籍の形で公開しました。
2. 支援の普及
(1) ICT機器の活用
KI・KU・TAプログラムの中心軸には、読み書き困難さを克服するためのICT(iPad等の情報通信機器”ICT”)活用法があります。但
し、子どもたちにICTを与えれば問題が解決するのではなく、読み書き障害の特性に合わせた活用方法を教えることが重要です。こ
のため私たちは、北陸大学教授の河野俊寛先生に、ICTの活用方法を教える指導者向け講習や、クロムブックの利用講習を開催して
頂き、ICTを読み書き障害の支援機器として広めてもらうためのノウハウをお伝えする活動を行っています。今年度はICT指導者向け
講習を地方でも開催しました。
(2) メディアや学会、講演会での発信
読み書き障害の社会的認知が支援につながるとの思いから、昨年度に引き続き、メディア等での発信を続けています。NHKのハー
トフォーラム登壇は5年連続となり、KI・KU・TAの活動は9月に日本経済新聞社会面のトップを飾りました。また朝日新聞の子育て
メディアであるEduA(https://www.asahi.com/edua/)では菊田が連載を掲載し、大きな反響を呼び起こしました。他方でLD(学
習障害)学会や各地で講演や研修会を行い、読み書き障害を周知するとともに、私たちの活動を紹介しています。
(3) データベースの無料化
当法人の設立時の主たる事業であったデータベースを、これまで有料で公開していた分を、無料で閲覧できるようにシステム改修を
行いました。読み書きに困難を持つ子どもに関する事例のデータベースとしての、あるよ「ストーリーバンク」は、今後の活動内容
も踏まえ、更に充実させてゆく予定です。また読み書きに困難を持つ当事者、教員、療育関係者、大学関係者や保護者の声をお伝え
してきた「あるよセレクト」も無料公開中です。
(4) 様々な支援活動の追及
この他にも、発達障害の方々が持つ能力を社会に活かすための就労支援アセスメントツールを早稲田大学梅永先生に講義頂いてお
り、子どもたちの将来を見据えた活動も行っています。また知的財産分野でご活用されている野口弁護士をお招きし、学校から適切
な配慮を得るための講習会も開催しました。従来通り、個別の相談事業も承っております。今後も様々な施策で支援の普及に努めて
参ります。
3. 検査の拡充
一般に発達障害は、目に見える障害ではないため、当事者の困難さが周囲や社会に理解されにくく、それが当事者に負担となり、二
次障害を含めたより困難な状況を作り出す要因となっています。読み書き障害においても事情は同じで、その社会的認知や当事者の
自己理解において、障害の状況を可視化・客観化することが欠かせません。このため私たちは北陸大学教授の河野俊寛先生に
URAWSS IIという読み書きの困難さを検査し可視化するツールを学ぶ講習会を心理士の皆様向けに開催して頂くとともに、KI・KU・
TAに通う子どもたちや保護者に対して、有資格者(心理士)による読み書き検査をお勧めしています。
但し、心理士の作成した検査所見は、不慣れな当事者や保護者に任されても扱いが難しいため、検査所見をエビデンスとして学校に
提出し、読み書き障害への配慮の実施を学校にお願いすることに活用するよう、当事者や保護者に働きかけてきました。その結果、
配慮や支援が叶ったという事例が寄せられるようになりました。今後は読み書き検査の場所を、地方を含め増やしてゆくことで、検
査の利便性の高い体制を構築して行きます。
【3】当法人の事業体制と運営状況
当法人の本年度における事業体制と運営状況につき、以下の通りご報告します。
1. 業務の適正を確保するための体制と運用状況
(1) 業務の適正を確保するための体制
当法人の理事の執務が法令及び定款に適合するため、また業務の適正を確保するための体制は以下の通りです。
・ 理事会は、法令、定款、社員総会決議に従い、経営に関する重要事項を決定すると共に、理事の職務執行を監督しています。
・ 代表理事は、定期的に、自己の職務の執行状況を理事会に報告しています。
・ 社内規定を整備し、恣意性を排除した上で、コンプライアンスに則り、当法人を運営しています。
・ 監事は、重要会議へ出席し、理事から必要に応じて報告を受け、監査の職務の実行性を確保しています。
(2) 業務の運用状況
当期の業務の適正を確保するための体制の運用状況は以下の通りです。
・ 本年度は理事会を4回開催し、代表理事が業務執行の状況を理事会に報告しました。
・ 職務執行の決定を適切かつ機動的に行うため、理事会以外に理事・監事が2か月を目安に情報連絡会を開催し、経営方針、その
他職務に関する重要事項を協議しました。
・ 法令や個人情報保護に関する社内規定に則り、情報を管理・整備しています。
・ 監事はすべての理事会に出席し、理事の職務状況を聴取し、関係資料を閲覧しました。
2. 役員に関する事項
2024年3月31日現在
氏名 役職
菊田 史子 代表理事
河野 俊寛 理事
武井 夏野 理事
武井 典明 監事
【4】財務に関する事項
尚、補足すべき重要な事項はありませんので、附属明細書は作成していません。
以上