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菊田 学校紹介を見ると楽しそうなイベントがたくさんありますね。
西郷先生 学校の生活って、毎日毎日、ルーティンワークで進んじゃうんですよ。だから、たまには日常とは少し違う楽しみがあるといいんです。アートの世界と同じです。
7月の「浴衣の日」なんて面白いですよ。この日は1日、浴衣で過ごしていいんです。世田谷区には教科「日本語」というのがあるんですが、着物を通して日本の文化を理解することにもなる。地域や保護者が協力してくれて、浴衣を持っていない子は無料のレンタルで朝早く着付けをしてくれるんですよ。
菊田 本当だ!(学校紹介のパンフレットを見ながら)浴衣で授業を受けてますね。
西郷先生 こっちはハロウィンの写真です。先生が「魔女の宅急便」のキキの格好をしているでしょ。
菊田 アメリカの学校みたいですね。これは誰が仕掛けているんですか?
西郷先生 生徒会がやろうって言って呼びかけました。こういうのがあると不思議な感じがして楽しいでしょ。アメリカには「パジャマデー」っていうのもあるらしいですね。でも、パジャマデーをやろうと言ったらさすがに生徒に否決されました(笑)。浴衣卓球大会も否決された。せっかく浴衣を着ているんだからスリッパ履いて卓球大会を…。すみません、脱線しましたね(笑)。
菊田 生徒さんたちがみな生き生きしていますね。不登校からの復帰率が多いのもうなづけます。
西郷先生 不登校でわざわざ転校してくる子もいるけれど、復帰率は50%くらいです。やっぱり一瞬でも学校に来られなければ接しようがないから難しい。嫌々でもいいから、1回でもいいから来てくれればチャンスがあります。
菊田 そのチャンスに、先生はどのように働きかけるんですか?
西郷先生 そうですね、こんな例がありました。
緘黙(かんもく)で前の学校でも一切しゃべらなかった女の子がいました。区内の学校を転々としたけれど駄目で、うちで受け入れることになったんです。転校が決まってお母さんとふたりで校長室に来たんだけれど、やっぱり黙っている。だから僕は「この学校は校則がなくて着るものも自由だし、髪の毛の色だって自由だよ」という話をして、その日は帰って行きました。
次の日、その子が本当に髪を染めてきたんです。それを見た先生たちが、「似合う!」「かわいい!」って褒めた。そうしたら、フルタイムではないけれど毎日来るようになりました。要は本当に自由なのか試したんですよ。
菊田 なるほど。先生方がどんな反応をするか、見ていたんですね。
西郷先生 はじめは一言も話さなかったんですが、そのうち少しずつ話せるようになりました。後で聞いてみたら、一致団結とか熱血教師みたいなのが駄目だったみたい。先生たちの押しつけるような言動も理不尽に感じられて、一切しゃべらないと決めていたそうです。
でも、この学校に来てみたら髪を染めて行ったのに先生たちに褒められた。それでびっくりしたんですね。当然怒られる、叱られるに決まっているって思っていたのに、「かわいい」「すてき」って言われたんだから。
菊田 それって先生方がみなさん、その子の「チャンス」を狙っていたということでしょう? それに、「髪の毛を染めるのは問題行動だ」ではなく、「似合っていて、すてき」と思う感性を先生一人一人がもってらっしゃる。
西郷先生 狙っていたかどうかはわかりませんが(笑)。でも、誰だってかわいければ褒めるでしょう? 「すてき」って思うでしょう? 一生懸命おしゃれして来た子は褒めてあげなくちゃ。
西郷先生 一人一人、いろんな理由があるんです。それを「子どもだから駄目だ」「それは違う」って頭ごなしに決めつけたら、その子を完全否定することになるかもしれない。
もう卒業した子なんですが、拒食症で外では一切飲み食いしない生徒がいました。なんとか校長室には来ていましたが、社会と断絶して何にも興味が無い。水も一切飲まないから身体を悪くしてね。ただ一つ、関心があったのが、「おしゃれ」でした。この学校に来たのも制服がかわいかったからだそうです。
その子にとって、社会との接点はそれしかなかった。そういう大切なもの、志向だとか、価値観だとか、人間として大切なものがなくなってしまったら、もしかしたら生きる意味がなくなってしまうかもしれない。
だから、その子とは、「青山っていう場所があってね、ファッショナブルな街でおしゃれなお店がたくさんあるんだって」というような話をしました。すると、「行きたいんだけれど、自分は行けない」って言う。一緒に行こうよ、って誘うんだけど、「食べないから出かける体力がないんです」って。「じゃあ、なんとか食べる方法は無いかな? まずはジュースでも飲もうよ」。そんなふうにその子との接点、引っかかりを探して、そこから少しずつ考えていく。
菊田 その子の価値観に寄り添っている。本当に人間を育てているという感じがしますよね。先生は一人一人の尊厳を大切にしてらっしゃる。
人としての尊厳ってお互いにリスペクトすべきものだけれど、教育現場ではややもすると失われがちです。その尊厳に芯から向き合っていたら、価値の押しつけもないだろうし、困っている子がいればそれがどんな困難であれ、自然に配慮が届いていく。そういうことが、先生が今、この学校でやっていらっしゃることの「核」のような気がします。
西郷先生 大人も子どももありませんから。僕は今でこそ、こんな感じだけれど、もともとは人づき合いが苦手だったんです。びっくりするでしょ? 今の性格はみんな子どもたちのおかげ。生徒たちからいろいろなことを教わりました。自分の人生がものすごく楽しくなった。だから今は、その恩返しをしているようなものなんです。
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