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「しない配慮」もある
幸子さん 小学校3.4年生のときの先生がとても理解のある先生でした。それまでは、「この宿題は漢字を2回にしてもらえますか」とか、「家でやる分だけでいいので、こういうふうにさせてください」みたいなお願いをちょこちょこしてたんですが、基本的にこちら主導でした。
それが、3年生になって転任してきた先生が、いちばん最初の面談のときに、「おかあさん、わたしにお任せください。おかあさんと私が同じ方向を見ていれば大丈夫なんです。ご安心ください」っておっしゃった。「わたしが息子くんのことを理解すればクラスが理解する。だから、お任せください。なにか心配なことがあれば言ってください」って言ってくださったんです。
すごい!
幸子さん その先生、N先生の授業は全部プリント学習で、「読む」「書く」「考える」を分ける勉強方法でした。
「はい、みんなで考えてください」って言って考える。「では、みんなが今考えたことを言ってください」と言って発表させる。「はい、書いてください」って言って書く。書いている間は、みんなしーんとしていて、先生がぐるぐる机を回っていい意見には丸をつけたりしながら歩いている。そして、ふだん手を挙げられない子に、「○○さん、いい意見だったから発表してくれる?」って促したり。
息子はその先生のもとですごく伸びて、そのときに漢字をやる余裕ができました。それまでは余裕がなかったんです。「読む」については2年生の時にタブレットでデイジー(録音図書の情報システム)を入れようとしたんですが、いやがって受け付けませんでした。だから全部、私が読み聞かせていました。
なぜか音声をいやがるときありますよね。
幸子さん それが、読み聞かせていないのに全部ストーリーを覚えているようになりました。なんでだろう?と思っていたら、先生が単元の前に必ず音声を聞かせていたんです。まず全員に聞かせてから授業してたんですって。
あとで先生に聞いたら、「この子にわかりやすいことは全ての子にわかりやすい方法でもあるんです。だから、やってます」っておっしゃってました。
すばらしいですね。ぜひ先生たちに知っていただきたいですね。
成功体験が前に進む力になる
幸子さん 5年生のときに担任が替わりました。授業のやり方も変わって、「読む・書く・考える」をやらなくなってしまった。それで息子は混乱して、パニックになりました。
そのとき、BEAMっていう音声教材があるよ、って言ったらすごい使うようになったんです。あれだけデイジーをいやがってたのに。たぶん、N先生の授業を通して音で聞いたら理解できるっていうことがわかったからだと思います。国語のテストなんて、暗記していたから全部100点でした。それくらい学習の力がついていた。BEAMも自分の意思で聞くようになりました。
できるっていうのを実際に体感しないとわからないですよね。
幸子さん 「読む・書く・考える」がなくなって息子のノートは真っ白になりました。そのとき、「パソコンを使いなさい」っていうのは簡単だったけれど、私は「もう書くのをやめなさい、白紙でいいから」って言ったんです。「聞くだけにしなさい。聞いて考えて発言するだけに絞ったら? 成績なんてどうでもいいから理解しておいで」。
そうしたら、全部、理解するようになって成績が上がりました。「聞く・考える」に絞ればできるんだ、というのを実感できた。それで、6年生になってポメラ(ワープロの小型携帯版)を入れました。だから、ポメラでノートテイクするようになるまで、ノートが真っ白な1年間がありました。
1年間、聞くことだけに集中したんですね。
幸子さん 余裕がないときに配慮を入れても何もできないと思うんです。余裕がなければ何か負荷をかけて勉強しようっていう気持ちにならない。やっぱりタイミングって重要でしょう? 今このタイミングで無理に合理的配慮をしてもだめ、っていうときがある。
「何もしない」という配慮もあるのかもしれません。息子はその1年間で、「聞けば理解できる。ぼくはちゃんと勉強できる」っていうことを実感できたみたいです。
「何もしない」配慮。それを受け入れてもらう配慮ですよね。ちょっと意外な発想ですが、「何もしない」なら学校の許可もいらない(笑)。
幸子さん ついついICTとか、入れたくなっちゃうんだけど(笑)。
例えば、忘れ物しないように連絡帳を書いたりするでしょう? 写真を撮る方法もあるし、記号で書くという方法もある。でも、息子の場合、記号で書いても読めないし、写真を撮っても後で見ない。そもそも、ノートを見ない(笑)。電話で聞くとか、いろいろやってみたけれど、最終的には「じゃあ、覚えてきたら?」ってなりました。パソコンに例えるなら息子はワーキングメモリーは強いけれど、処理速度が遅いタイプ。だから覚えるのはそんなにたいへんじゃないし、覚えるだけなら先生に配慮をお願いする必要もないわけです。
ただ、じーっと見て覚えるんですね。うちの子は無理だけど(笑)。
幸子さん その子によっていろんなやり方があるんですよね。ディスレクシアをひとくくりにしたり、読み書き障害をひとくくりにしちゃうと、「写真を撮ればいいんですよね!」ってなっちゃう。でも、うちみたいなタイプは写真を撮っても何にもならないんです。
カメラを学校に置いてきちゃったり(笑)
幸子さん そうそう(笑)。だから何もしないのも配慮。中学になって持ち物が増えたけれど、忘れ物はあまりしません。むしろ、書いて何とかしようとしていたときの方が忘れていたかも。
メモを取らないのもノートが白紙のままなのもちょっぴり勇気が要るけれど、それでうまく行くケースもある。やり方はひとつではないんですね。
だれもが安心して学べる環境を
幸子さん 息子は今も、「ぼくの人生を変えてくれたのはN先生だ」って言ってます。「ぼくは2年生のとき学ぶことをあきらめたけど、学ぶことが楽しくなったのはN先生のおかげだ」っていつも言います。
2年生のとき、ストレスで鉛筆を噛んでいました。赤鉛筆を噛んだときなんて、まるで血だらけ。それをやめさせるために先生が注意をする。声をかけるとか、カードを出すとか、一般的に言われる合理的配慮をいろいろやったし、私からも注意しました。でも止まらなかった。
3年で担任になったN先生は何も言いませんでした。「おかあさん、大丈夫です。このクラスのなかでは私がトップですから、私がいいと思えばいいんです」。そう言って、息子が噛むことをスルーした。そうしたら、だんだん噛まなくなってきたんです。
それでも少しだけ残っていたけれど、先生は「いいんです」と言って、放っておいてくれた。そうしたら、最後、自分で鉛筆の両端を削りました。「ぼくはこうすれば怖くてかじれないから」って。そうやって、自分で方法を編み出したら一切噛まなくなりました。
すごいですね!
幸子さん それまで、両端に金属をつけたり紙やすりをつけたり、噛むための物を別に持たせてみたりしたんだけど、効果は無かった。むしろ、そんなことをするとどんどん悪化するんです。
いろいろ対策をしても息子は変わらなかった。でも、「安心して噛んでいいよ。私がいいんだからいいのよ」っていう空間になった瞬間、「ああ、やめよう」って思えたみたいです。
そういうのがいちばん根本的な配慮なのかもしれませんね。
幸子さん そうなんです。必要なのは、障害のあるなしに関係なく誰もが等しく学べる基本的な環境。本当は、合理的配慮がない世界が来ることがいちばんなんです。今は難しくても、いつか、配慮を必要としない環境、配慮をしなくてもみんなが安心して学べる環境が実現したらいいな、と思います。
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