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先生の存在は思っているよりずっと大きい。
中学2年生 甲斐潤樹くんのお母様、真澄さんとの対談は最終回。小学校時代、不登校も経験した潤樹くん。現在の中学校での配慮と進学についてお聞きします。
必要な配慮を必要な人に。先生の気づきが子どもたちの可能性を伸ばす
学校での潤樹くんはいかがですか?
真澄さん 部活もやっているし、仲のいい友達もできて楽しく学校に通っています。でも、ふつうでいう「仲のいい」とは、少し違うかな。「いい距離感の友達」という感じ。息子はひとりになる時間も必要で、ときどきひとりになりたくなるんです。「ひとりが好き」というよりも「ひとりでいるのが楽」ということらしいんですが。
それをわかってくれている友達は、ふだんは仲よくしていても、潤樹がすーっと離れたときには何も言わずに離れていてくれる。いい距離感を取っていてくれる。いらないことを言わないし、しない。友達っていいな、って思いながら見ています。
小学校高学年のころに登校できない時期もありましたが、潤樹くんはずっと学校に行きたかったんですよね?
真澄さん かわいそうだったなと今でも思います。当時は「勉強しなくていい」環境でしたから。ノートは取れないし、「書けないんだからいらないでしょ」ということでプリントももらえない。やることがないから外に出ちゃうんだけど、「戻っておいで」ということばもない。
1日中、ひとりで中庭で虫を取っているような感じだったから、みんなと一緒に勉強するということがなかったんです。4年生のときは作文で入賞もしていたのに、6年生になったら「書けないから作文はいいよ」、「宿題もできないからしなくていいよ」って。
「しなくていい」というのを配慮と思っているんですね。
真澄さん たぶん、先生からしたら「無理しなくていいよ」という配慮であり、やさしさなのかもしれません。でも、それって違いますよね。だから、卒業のとき潤樹が言ったんです。「先生の行き過ぎた親切が大っ嫌いでした」って。
よかれと思ってのことなのかもしれないけれど、そのせいで学ぶ機会を失ってしまう。間違った配慮によって逆に学ぶ権利を奪われてしまうことになります。
真澄さん コミュニケーションの問題もありますよね。確かに、「作文を書くとすごく疲れるんです」って先生に言ったのは私(笑)。「授業に集中すると疲れます」っていうのも確かに言った。「宿題にすごく時間がかかります」っていうのも確かに私が言ったことなんだけど、だからといってそういうことを全部カットして、「やらなくていい、無理しなくていい」って言われてしまうと…。
伝え方が難しいですよね。
真澄さん そうなんです。こちらが思っていることとぜんぜん違う受け取り方をされたりする。先生も質問してくれればいいんですが。
「じゃ、宿題は出さない方がいいんですかね?」なんて聞いてくれれば、「いや、そういうことじゃなくて」っていう話ができるんですけど。話し合いがなかったからおかしなことになっちゃった。そういったことを親の方も学んできました。
高校進学に向けて
真澄さん この間、支援会議があって高校進学に向けて動き始めました。市の教育委員会の先生も入って進めてくださってます。でも、話を聞いていると「ちょっと違うんじゃない?」っていうのもやっぱりある。「行きたい高校と支援に理解のある高校との折り合いをつけましょう」みたいな。
行きたい高校はあるんですか?
真澄さん いくつかしぼってきてはいます。その中には、今現在、配慮を受けている子もいなければ配慮についての話が出たこともないという学校もあって。相談したときにどんな反応が返ってくるか全くわからない。でも、第一段階の交渉は中学校がしてくれるようです。まずは中学校が高校側と話した上で、私と息子で相談に行きましょう、ということになっています。
最初の話し合いは中学校が間に入った方がうまくいくことが多いようですね。
真澄さん だけど、それで潤樹の希望どおりにいくかというと、必ずしもそうではなくて。中学校側は、「いくつか当たったなかでうまくいくところを選びましょう」という意識なんですね。本人の希望よりも、うまく話がまとまりそうな高校に行きましょう、という感じ。親としては、本人が行きたいところに行かせたいと思うんですが。
でも、先生方が前向きに動いてくださっているのは本当にありがたいです。どうしても配慮のことが優先になりがちだけれど、まだ1年あるのでコミュニケーションをきちんと取ってうまく持っていけたら、と思っています。
誰かのための配慮がみんなのための配慮に
真澄さん 入学した頃は、学校でふつうの生活が送れるように、というのが第一でした。みんなと同じように過ごせること、一緒に授業を受けられること、それが大事だった。小学校のときは一人だけ別扱いでみんなと勉強する機会がなかったから、教室で友達と一緒に授業を受けるということがあの子にとっては新鮮なんです。だから今、とても楽しいんじゃないかな。
授業を受けるうちに勉強への意欲も出てきたようですね。
真澄さん 結果は求めていなかったけれど、いろんなことがいい方向に変わってきました。学校の対応について言えば、最近、評価のあり方を変えてもらったんです。
通知表では提出物も評価の対象になるでしょう? そこを配慮してもらえることになりました。具体的には「期日までに出すことにとらわれない」ということにしてくれた。「出さないときも申告すれば認めます」と言ってもらえたんです。
それは大きな進歩ですね。実際になにか変化がありましたか?
真澄さん 期日の延長を認めてもらえたことで、今まで出せなかったものも提出できるようになりました。例えばテストのやり直しでも、1週間で全教科やり直して提出するというのは、あの子の力からすると難しい。やり直しとは言えないような、とても雑なものになってしまいます。
でも、遅れて出すことを認めてもらえたので丁寧に作業ができるようになりました。ノートの提出も期限を気にしなくていいので、パソコンで清書したものをプリントアウトして貼り付けて、きちんとした形で出せるようになった。そうしたら、通知表の評価がすごく上がったんです。
期日までに提出することを評価するのではなく、中身を見てくれているということですよね。それが評価につながった。
真澄さん 期日を延長してもらっただけで自分のやり方でできるようになりました。今までは、ほとんど手書きできていない雑なノートを出していたのが、時間をかけて工夫したオリジナルノートを作れるようになった。納得のいくノートが形として残ることでモチベーションも上がったみたいです。
それこそが主体的な学びですね。
真澄さん そうしたら、先生方の間で「今、この子に配慮としてやっていることは他の子たちにとってもあたりまえのことなんじゃないか」っていう話が出たそうなんです。「この書式でこういう感じで作って、この日までに出しなさい」というのではなくて、それぞれの子どもたちに合った形でやらせてみたらどうだろうか、というんです。
配慮は障害の有無に関係なく、必要なときは誰もが受けていいんだということに先生方が気づいたんですね。
真澄さん でも、その一方で、配慮が必要な子がクラスにいることを負担に感じる先生もいる。やっぱり、考え方だと思うんです。
潤樹がやっていることを見たときに、「これは他の子にも当てはまる」っていう場面はたくさんあると思います。できないことがあっても工夫すれば能力を伸ばせる。配慮するということは、本当にその子を伸ばす教育ってなんだろう、ということを考えるきっかけになるんじゃないかって思うんです。
追求していくと教育者としても面白いはずですよね。
真澄さん 4年生のときの担任の先生が潤樹のためにいろいろ工夫してくださったんですが、その先生に言われたことがあります。「この1年、潤樹くんと過ごして全てがガラッと変わった気がします」って。
今年の社会の先生も同じようなことを言ってました。「いろいろ細かいことをお願いしてすみません」と謝ったら、「いやいや、潤樹くんに配慮するということが、実は他の子にとってもすごく役に立っているんです」と答えてくれた。
「潤樹くんを見ていると、他の子に対しても、こうやって教えてみようかな、ああやって教えてみようかなって、いろいろな案が浮かんでくるんです」。
そう言われたことがとてもうれしかった。潤樹はできないことがたくさんあるけれど、この子のための配慮が、他の誰かのための新しい配慮につながるのかもしれない。そういうふうになったらいいな、と思います。
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