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一般社団法人読み書き配慮
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最初の願いはひとつだけ。授業を受けたい。
大分県にお住いの甲斐真澄さんは、3人兄弟のお母様。読み書きに困難を抱える息子さんの小学校時代、そして現在通う中学校での配慮について、お聞きしました。
ひとつ目標をクリアしたら次の目標が見えてきた
潤樹くんは小学校高学年のころに登校できない時期があったそうですが、中学2年生の今、学校生活はいかがですか。
真澄さん 実は学校は嫌いなんですって(笑)。だけど、勉強は楽しいらしい。学校に行けなかった頃、いろんなところで講義を受けたけれど、本人に言わせるとやっぱり学校の授業は違うみたいです。教室だと教科書に載っていることや先生が教えてくれること以外にも、お友達がいろいろ言ったりしますよね。それで話が脇道にそれたりする。すると、ぜんぜん関係のない情報が入ってきたりする。そういうのが面白いらしいんです。
授業のライブ感みたいなのがいいんでしょうか?
真澄さん ちょっと脱線した話が面白かったり、いろんな意見が出てきたりするのが楽しいんでしょうね。だから、学力とは関係なく、ただ授業を受けたい、というのがありました。だから中学生になってからは、とにかく授業を受けられるように、ふだんの授業の中で配慮をお願いします、とういう感じでやってきました。
そうして1年たって、最近やっと成績が気になりだしたみたいです。授業を受けていくなかで本人もそれなりに結果がほしくなってきたらしく、「テストで点を取りたい」って。「そのためにはテストについても配慮してもらわなくちゃいけないね」ということになりました。それでテストで点が取れるようになってきたら、今度は高校入試をがんばりたい、というふうになってきたところです。
ひとつ目標をクリアすると新しい目標が次々できてくるという感じ?
真澄さん 最初から「中学に行ったら次は高校だよ。だから高校入試を目指してがんばろう」という感じでガツガツガツってやっていたら、ちょっと違ったかもしれません。そうじゃなくて、「学校で授業受けるっていいよね」、「授業を受けたらテストもあるんだよね」、「テストをきちんと受けられるなら高校も行きたいよね」というふうに一歩一歩進んできたところです。
学びたいから学校へ行くし、学びたいから先を目指す。知的欲求に引っ張られながら気がついたらここまで来ていた。理想的ですね。
真澄さん もうひとつ中学に通い始めて変わったことがあります。潤樹は好きなことは一生懸命やるけれど、嫌いなことは一切しないというタイプで、中学になってすぐの頃は好きな勉強ばかりしていたんです。それが、学校でいろいろ刺激を受けたことで興味が広がってきたのか、いろんなことを学びたい、っていうようになりました。
前はテストのときもテスト範囲とはぜんぜん違う勉強をしていたのが、今はテストのために「ここをきちんと集中して勉強しよう」ってやるようになった。なんというか、ちょっと「ふつう」になってきた感じ(笑)。
わくわくするような話ですね。
真澄さん 依然としてこだわりはあるんだけれど、ふつうの考え方に近づいてきたのかもしれません。小学校のときは先生に「こうしなさい」って言われて仕方なくやっていましたが、最近は周囲を見ながら自分で考えてやっていることが、けっこう周りと合ってきたように感じます。
たぶんそれは、みんなと一緒に勉強できるようになったから。これまで潤樹はひとり友達と離れて過ごしてきました。自分だけ違う環境にいたんです。それが中学生になって、教室でおおぜいの友達と過ごすうちに、みんなと一緒にできるんだ、というのがわかってきたんだと思います。今は周りに合わせているわけでもなく、「ふつう」になってきました。
そういう話を聞くとうれしいですね。人は社会のなかで生きていかなくてはならないから、子どもたちには多くの人たちと入り混じるということを学校で学んでほしいですね。
苦手なのは変わらない
真澄さん 2学期が始まって1週間くらいたった頃かな、潤樹が泣いたことがあったんです。原因は作文(笑)。夏休みに作文の宿題が全部で5つ出たんです。作文は得意で書けば結果を出せるんですが、書くのは嫌い。「好き」と「得意」がずれている。だから、宿題もなかなか始められず、夏休みの最後の最後にパソコンで一気に5つ、書き上げました。
ところが、始業式が始まってすぐ作文の宿題がまた2つ出た(笑)。それですっかりやる気をなくしてしまって。でも、学校の先生は書かせたいんです。
いい作文を書くから頑張ってほしいんですね。
真澄さん 本人はパソコンに向かっただけで頭がフリーズしてしまう状態。それで、「できない!」と言って頭を抱え込んで泣き出してしまったんです。しかたがないので先生に相談するようアドバイスしたらお手紙を出したらしいの。
本人が言うには、「僕の苦手は書くこと・読むこと・考えをまとめることで、作文にはその3つが全部盛り込まれている。だから僕にとってはいちばんたいへんなことで、マインドマップを使ったりパソコンを使ったりして書けるようにはなったけれど、苦手じゃなくなったわけではない」。
他の子どもが2、3時間で仕上げるような作文を、息子は1日かけてマインドマップをつくって、それを5時間かけてまとめる。字を見るだけで吐き気がするのに、5時間もパソコンに向かって書き続けなくちゃいけない。頭の中がどうかなりそうな気持ちはよくわかる。
たくさん努力してできるようになったけれど、苦手であることは変わらないんです。パソコンを使ってノートも取るけれど、潤樹の場合、字を見るだけでものすごく疲れてしまう。ノートをガンガン書かせたり、テストを受けさせたりしていたけれど、実はすごく疲れていたんだな、ということを再認識しました。
親や周囲は結果を求めがちですが、結果と過程は全然違いますから。苦手であることは変わらないし、結果を出せたとしても楽に出せたわけじゃないんですよね。
真澄さん そうなんです。機器を使っても苦手なことは苦手だし、いやなことはいや。努力して努力していい結果を出せたとしても、そこに至るまでの過程は本当にきついんです。この子はたいへんな思いをしてきたんだな、と改めて思いました。
先生が気づいてくれた
真澄さん 先週、テストがありました。潤樹は拡大のプリントと拡大の解答用紙でテストを受けているんですが、社会のテストのとき、問題を読んでいる途中でどこを読んでいるかわからなくなってしまったんですって。同じところを何回も何回も読んで、すごく疲れた、って。
そうしたら社会の先生が声をかけてくれた。「何回も何回も読んだってことは、読めなかった、っていうことだよね」って。
試験監督をしていたら潤樹が時間ギリギリまで解いている。社会は得意なはずなのに、なぜこんなに時間がかかるんだろう、って不思議に思っていたんですって。それで、これは上手に読めていないんだ、って気づいたそうなんです。
すごいですね!
真澄さん 先生に言われるまで、潤樹自身も、問題を読めていなかったことをわかっていなかったんです。それで、試しに問題を読み上げたら、ササッと答えられた。それを見て先生は、「次のテストでは問題を読み上げてみようかな」なんてことを言ってました。
何点取れたという結果だけではなく、先生は過程を見てくれていたんです。
教育現場では生徒の状態を見てわかるということを「実態把握」といい、実態把握に基づいてそれぞれに合った支援を考えることが大切とされています。この先生がしていらっしゃることが、まさにそうですね。
真澄さん きちんと気づいてくれる先生は子どもたちのことを上手に見ているし、一手間かけてくれています。例えば、問題を拡大コピーするにしても、潤樹がわかりやすいように大問を囲ったり、問題と問題の間に境界線を引いたり。大問1と大問2の間を線で区切ると、そこで問題が切り替わったことを本人が理解して問題を行き来することがなくなる。そんなことに先生が気づいてくれるのが、本当にありがたいです。
次回PART2に続きます。お楽しみに。
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