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朝、子どもたちが笑顔で学校に出かける。教室で友達と楽しく過ごす。授業を通じてさまざまな学びを得る。当たり前のことのようですが、その当たり前が難しくなることがあります。そんなとき、本人や家族の悩み苦しみに寄り添い、プロの目線で向き合ってくれるのが、学校であり、先生方です。
現場の先生方はどんな思いで生徒に向き合っているのでしょうか。多くの生徒と接してきた経験からの気づき、合理的配慮の実施にまつわるエピソードなどについて、都内区立中学校に勤務する、鈴木浩二先生にお話をうかがいました。
菊田 今日はお忙しいなかお時間をいただき、ありがとうございます。お話を伺うのを楽しみにしていました。どうぞよろしくお願いいたします。
鈴木先生 こちらこそ、よろしくお願いします。
菊田 小学校にも中学校にも読み書きに困難がある子が少なからずいますが、中学校では特にそれが不登校やふだんの適応の悪さにつながっているように感じます。そして、多くの先生方がその子たちのために合理的配慮をしてあげたいと考えていらっしゃるけれど、前例がないためになかなか進まないという現状があると思うんです。
鈴木先生 そういう面はあるかもしれないですね。
菊田 中学という大事な時期に必要な配慮を行うことで、その子の将来への道が開けてくる。だから、先生方の背中を押すためにも、たくさんの事例を紹介していきたいと私たちは考えています。鈴木先生はそうした配慮を積極的に実践なさっているそうですね。ぜひお話を聞かせてください。
鈴木先生 私の話で参考になるのかどうか(笑)。
Aくんは1年生のときに担任した生徒でした。それで、ふだんの様子を見ているうちに、障害とまでは言えないことも含めて、いろいろな場面で有意差があるっていうのがわかってきたんです。
特に書くことが苦手というか、できませんでした。黒板に書いてあることを写すこともできない。表現すること、例えば作文なども書くことができない。とても時間がかかってしまう。表現したいことがここまで出てきているんだけれど、書いて表すことができないんです。
ただ、Aくんはもともとパソコンが好きで、総合の授業なんかで試しにパソコンを使わせてみるとすごくスラスラできるんです。文章も書けますし、何かを表現するときもパソコンソフトの技術を使ってどんどん作品化できる。
菊田 例えばどんな作品ですか?
鈴木先生 総合ではよく調べ学習をするんですけど、そのまとめなどです。例えば、調べたことを新聞にまとめたりするじゃないですか。あれを書くとできないんですけど、パソコンを使うとパッパとできるんです。
菊田 面白いですね!
鈴木先生 今の子たちはそういうのに慣れているし、パソコンが得意な子は他にもいます。だから何でもかんでもパソコンを導入すればいい、ということになるとちょっと難しいんですが、彼は特に得意で。しかも、書くことができない。面倒くさいから書かないわけじゃなくて、本当にできない。ノートも取れませんでした。一生懸命書いているんです。でも、やっぱり見落としてしまうというか、「写す」という作業がすごく難しいようでした。
鈴木先生 私も本を読んだりして知ったんですが、おそらく、黒板からノートに目を移すときに視覚からの情報を一回遮断してしまって、別の違う対象に向かおうとすると情報が欠落してしまうということがあるみたいなんです。そこからさらに「書く」などの手を動かす作業をしようとしても、情報が伝わっていかない。彼の様子を見ていても、ああ伝わっていないんだな、というのを感じました。
菊田 お詳しいですね。もともと関心がおありだったんですか?
鈴木先生 特別支援学校に行きたかったこともあって、少し勉強してたんです。Aくんは友達との関係など、人間関係がうまくできないという面があったんですが、ADHDなどがあると学習にも影響があることが多いので、気にしていました。
菊田 それでもしかしたらディスレクシアなのかな、と気づかれたわけですね。
鈴木先生 今、学習障害ってよく言われますけれど、ノートを写さない子ってけっこういっぱいいるので(笑)。ただ、書きたいけれど書けないという子には、板書の内容を書いた紙を横に置いてあげると写せたりするんです。全員ではないですけど、どうしても遅れてしまうとか、本当に写せないという子が必ずいるので。
菊田 そういうことをもともとやってらっしゃった?
鈴木先生 初任の研修のときにそういうことを習って、実際に何回かやってみました。そうしたら本当に書けるようになる子がいて。そういう特性の差があるんだな、っていうのがすごくよくわかりました。だからその一環として、パソコンを使うのもいいんじゃないかと思ってやっています。
菊田 なるほど。そうしたサポートを初任の頃からされていたんですね。だから柔軟でいらっしゃる。そしてAくんに気がつかれた。Aくんは板書計画を横に置いてあげても書き写すのは難しかったですか?
鈴木先生 そうですね。難しかったです。
菊田 そうなるともちろん成績も上がらないですよね。
鈴木先生 だから、彼にとって何がいいのか、いろいろ試すわけです。それこそ数学だけじゃなく(鈴木先生は数学担任)、総合の授業では絵なんかもやってみました。総合は学級担任が見るんですが、その子にどんな特性があるかな、というのを考えて進めます。いろんな子がそれぞれ特性を持っていて、得意なものがある。Aくんもそれを生かせたらと思ってパソコンを取り入れました。
とはいえ、行き過ぎると「じゃあ、板書したのを写真で撮ればオッケーじゃない?」ということになってしまいます。Aくんとも、「写真を撮れば楽だよね」っていう話が出ましたが、「そうではなくて、楽なことを選ぶのではなく自分ができることをやっていこう」ということになりました。
菊田 同級生の反応は?
鈴木先生 怖かったのは、Aくんがパソコンを使うことで他の子たちもパソコンでやりたい、ってなりますよね。パソコンが得意な子はAくん以外にもいっぱいいますから。でも、彼の場合は面倒くさいとか楽だからという理由ではなくて、本当にできないから、そのために必要なんだということをクラスの子たちに理解してもらう必要がありました。
菊田 先生が説明なさったんですか?
鈴木先生 はい。まずは周りの子たちの理解がないとできないので。保護者の方にも了承を取って、「できないから使うんだ。だから特別扱いとか、うらやましいってことではなくて、できないことをカバーする上でのツールとしてパソコンを使うからね。」という話をクラスでしたんです。自分もやりたい!ってなるかな、と思ってたんですけど、生徒たちは「それならしょうがないね」って。説明したらみんなわかってくれました。
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