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あるよストーリーバンクの”これから”について。文部科学省初等中等教育局 田中裕一特別支援教育調査官に聞きました。(2019年2月インタビュー)
武井 去年の秋から事例を集め始めて、今日(2月21日現在)までに160件以上の投稿がありました。読み書き配慮のストーリーバンクで順次、公開していますが、ご覧になっていただけましたでしょうか。
(掲載日現在 投稿数262件 公開数107件)
田中 はい、見せてもらいました。
まだ投稿数はそんなに多くないですけれども、どういうお子さんに合理的配慮としてどんなことが行われたかが簡潔にまとめられていたと思います。
武井 ありがとうございます。田中さんがイメージされていたものと違いはなかったですか?
田中 前回、インタビューを受けたときに、こういうデータベースがあるということはとても重要なことだという話をさせていただきました。その思いは変わっていません。
そして今回投稿を見せてもらった感想は、今言ったように、基本的に「簡潔」というところがいいなあ、ということです。
実は、「事例が簡潔である」ということはとても重要なんです。
例えば、「こういうお子さんがいてて、こうこうこういう感じでこんなことをたくさんやりました」ってわーっと情報が出てくるのは、読む側が理解することが難しい場合があります。そうじゃなくて、こういう困りごとに対してピンポイントにこういうことをしました、っていうのは、読む人にとって非常にわかりやすいんです。
武井 困ったことがあると、参考にしたいと思って似たような事例を探すんですが、たくさん情報があってもごちゃごちゃに混ざっているとかえってわかりにくい。
でも、同じような問題に対処した人の事例がピンポイントで簡潔に示されていれば明快です。
国の方でも合理的配慮の事例を集めたデータベースを開設していますよね?
田中 国立特別支援教育総合研究所が出しているデータベースですね。「インクルDB」で検索すると出てきます。「インクルーシブ教育システム構築支援データベース」というんですが、これは基本的には学校の実践事例です。
ひとりのお子さんが抱えている困りごとはひとつということはなく、たいてい、いっぱいありますよね。インクルDBでは、あるお子さんについて困りごとが列挙されている。そして、その子がどんなお子さんで、その原因はどんなことが考えられて、学校がこんな取り組みやあんな取り組みをしました、っていう流れが載っています。学校の実践事例として読むものなので、ある特定の問題にどう対応したか、というつながりはちょっとわかりにくいかもしれません。
武井 読み書き配慮のデータベースとは目的というか、性格が違うということですね。
田中 そうです。
読み書き配慮の事例でも、実際にはそれだけをやっているわけじゃないと思うんです。
例えば、書くことに困難がある子がいたときに、「タブレットを使いました」って言っても、実際の配慮はそれだけではないことも多い。違う教科では違う配慮があったりしたと思うんです。そういうことはデータベースの表面からは読み取りにくい。インクルDBの事例はひとりの子に対して行ったことをまとめてガシャッと載せているからすごく分量も多いし、つながりは?ってなったときに、読む人によってはわからないかもしれません。だけど、学校の先生が実践の例として読むと、僕も学校の先生だったのでわかるんですが、すごく理解できますね。
いずれにしても、どちらのデータベースも数が必要です。
武井 今まで多くの方が事例を寄せてくださいましたが、なかには「うまくいかなかった事例も投稿していいですか」とおっしゃる方もいらっしゃいます。「そういう事例も大歓迎です」って私たちはお答えするんですけれど、それに関して田中さんはどうお考えですか。
例えば、「やらなかった」事例というのも意味があるんでしょうか?
田中 やっぱり「実際にやった事例」がとても参考になりますが、かと言って、やったことがない事例は取り上げません、っていう話になると、それはそれで違いますよね。
「こんなこともできるよね」っていう話も大事だけれども、「うまくいかなかったこと」や「実際にはやらなかったこと」にも意味があると思うんです。
気をつけなくてはならないのは、読む側の経験によって受け取り方が違うと言うこと。
つまり、できなかった、とか、うまくいかなかったっていう事例が載ったときに、「この困難に対してこの合理的配慮はだめなんだ」と思ってしまう人と、「読んでみたけど、あかん原因はここやったんだ」「この障害に対してこの合理的配慮がまずかったわけじゃなくて、途中経過の読み取りが違ったんだ。もしかして学校と保護者の話し合いの仕方がまずかったんじゃないか」というふうに考えることができる人もいるわけです。
受け取り方は読んだ人の経験によって変わってくる。だから、事例がたくさん載るのはすごくいいことだと思うんですけど、事例の情報をどう判断して、どう生かすかは読み手に任されてるというか、そういう面はあると思いますね。
そういう点からも、うまくいった事例とうまくいかなかった事例の両方が掲載されていることは、よいことだと思います。
武井 データベースを活用する上で気をつけた方がいいということはありますか。
田中 これは合理的配慮の注意点と一緒なんですけど、「この障害もしくはこの困難、イコール、この手立て(合理的配慮)」っていう型にあてはめちゃうと、それはそれで違います。
なぜかというと、学校によって環境も違います、子どもの状態もさまざまです。その地域のもっているリソースもさまざまなので、その子にとって何がいいかはその都度変わる。「この事例イコールこの手立て」っていう公式に当てはめるのがちょっとつらくなるんです。それがいちばん大きな注意点ですね。
公式に当てはめて考えてみて、子どもに合えばいいですよ。でも、合わなかったらつらいのは本人です。子どもがいちばん災難なんです。でも、合わない可能性はあるわけです。私もいくつかの事例でそんな経験をしました。わかりやすい例で言うと、読み書きに障害がある子にタブレットを使いたいって言ったときに、よく話を聞いたら、タブレットがいい子もいるけど、デジカメで黒板を撮ることのほうが大事な子もいる。録音することが役立つ子もいた。書けないから、読み書きが苦手だからタブレット、というのは違うんです。
だから話が最初に戻りますが、事例が多いっていうのが大事です。同じような、似たような状態像に対して、タブレットもありましたよ、デジカメもありましたよ、録音もありましたよ、っていうようにいろんな事例を見られるのがいい。というか、それがいちばん重要なんです。
「同じような状態だから同じ方法だ!」とならずに、たくさんの事例の中から子どもの状態に合った手立てを見極めるということが非常に重要になると思います。
武井 決めつけない、ということですね。
田中 そうです。
うまくいかなかったという事例が、別の人にとってはうまくいく事例だった、ということもあるかもしれません。
結局、事例を生かせるかどうかは、読む側の判断による面も大きいんです。そこをどいうふうに読んでもらうか。なかなか難しいですが、そういうことを意識してもらえたらいいかな、と思います。
武井 投稿してくださる方の思いもいろいろです。「ちっちゃな事例でもよかったら」「ひとつだけしかないんですけど」と言って投稿してくださる方がとても多い。みなさん、「お役に立つのなら」という気持ちで投稿してくださっているようです。
そういう流れをどうお感じになられますか?
田中 やっぱりデータベースは役に立つんですよ。
投稿する人は、「ちっちゃい事例、ほんの私の、ほんのささいな」って言うかもしれないけど、その情報を求めている人にとっては、事例がどれだけ大きな勇気を与えてくれるか。いやいや、おかあさんおとうさんが思っているほど全然ちっちゃくないですよ、って思うんです。
僕もさまざまなところで「こんな事例ありませんか」って聞かれるんですが、僕が「知っています」「ありますよ」って言うことだけで、勇気をもらったという方、多いです。「こういうことが他の学校でもあるんだ」って。「私が初めてかと思ってました」って。
だけど、「いや、そんなことないですよ。同じような事例がありますよ」っていうのを聞くと安心しますよね。ってことは、おそらくその人だけじゃないんです。そういうふうに思っている人が1人いるってことは、全国を見たらけっこういると思うんですよ。
そうしたら、やっぱりちっちゃくないですよね。その一事例がものすごい多くの人に、勇気を与えることになる。同時に、こんな事例があるんだってことを全国に広げることになります。非常に重要だと思いますね。
だから、ちっちゃいと思わずに、どんどんどんどん投稿してもらっていいんじゃないでしょうか。
※このインタビューは2月に実施されたものです。
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