【お問い合わせ先】
一般社団法人読み書き配慮
〒169-0072 東京都新宿区大久保3-14-4毎日新聞社早稲田別館5階
あるよ相談についてお問い合わせ
その他サービスのお問い合わせ
先輩たちの体験が、きみの可能性を広げてくれる
今、息子さんは中学2年生だそうですが、中学校で配慮を受けるようになった経緯を教えてください。
幸子さん 息子は小学校で配慮を受けていて、6年生のときにはノートテイクにパソコンを使っていました。中学に進学するときも申し送りはされていたんですが、中学校側が配慮を受けていない状態を知りたい、ということでしばらく様子を見ることになりました。
たいへんではあるけれど、大切なことですよね。
幸子さん そうなんです。配慮を受けていない素の姿を知ってもらうことがすごく重要だと私も思っていて。息子も、「ああ、いいんじゃない? 僕が何ができなくて、どうがんばっているのか知ってもらうチャンスだよね」という反応でした。
前向きですね。でも、配慮がゼロになるというのは簡単なことではなかったはず。
幸子さん 入学してすぐに作文があったんです。パソコンで打ったものを清書したんですが、まるで写経。音楽でも校歌を書き写す宿題が出ました。写す部分だけ見えるように見本の紙を蛇腹に折って、真横に置いて書いて、また折って、みたいな。でも本人は、「これを出すことで僕のことをわかってもらえるから、やる」と言って、週末いっぱいかけて写していました。
ほとんど修行(笑)。がんばりましたね。先生方も疑っているわけじゃないんですよね。それに、素の状態を知ってもらうのはとても重要で、そのステップがないと、困難を抱えているということが先生方の意識から抜け落ちてしまいがちになる。
幸子さん 小学校では担任の先生がいつも見ているから、「わかっているのに書けない」とか「こんなにがんばってもできない」ということを理解してもらいやすいけれど、中学校はそうじゃない。息子の状態を知ってもらって、合理的配慮が必要な子なんだというのを証明するしかなかったんです。とはいっても、たいへんでした。「写すだけで3時間かかりました」って提出したら、先生が「3時間? じゃあ、時間をかければできますね」って。
親は家で必死にがんばっている姿を見ているけど、先生は提出された結果でしか判断できないですからね。
幸子さん だから、提出物には全部書きました。「これは3時間かかりました」とか。何度も折って蛇腹になった見本の紙も付けて。
扇のようなやつですね。
幸子さん そうそう、扇と宿題をセットで出すんです(笑)。
学校と学校、先生と先生をつなぐ
幸子さん 1ヶ月たった頃、先生と面談して「まずは家庭学習をパソコンで」ということになりました。パソコンを使うのは他の生徒さんたちから見えないところ、学校では先生に提出するだけ。いきなり授業中に使わせてくださいというのは難しいですが、そういう形なら先生も受け入れやすかったようです。
授業のノートテイクは意外にハードルが高かったです。ゴールデンウィーク明けから国語と理科で許可されましたが、プリント学習やワーク学習が中心の教科はなかなか認められませんでした。
テストでの配慮はどうでしたか?
幸子さん その頃、同じ区内の中学校で「書字・識字に困難のある生徒の定期考査等への合理的配慮について」ホームページ上で公言していることを知りました。その学校ではすでに実績があるようでしたので、そのことを担任の先生や校長先生に伝えました。
「息子も不安です。親である私も不安です。先生方も不安だと思います。だから、配慮がどのように行われていて、中学校側にどんな負担や不利益があるのか確認していただけませんか」、そう言ってお願いしたんです。
そうしたら担任と校長先生がさっそくその学校と連絡を取って話を聞いてきてくださいました。それで、1学期の期末考査では拡大コピーや別室試験を認めてもらうことができました。
他校の事例を知ることで、先生方の配慮に対する心理的ハードルが下がったのかもしれませんね。
幸子さん 助かりました。でも、やっぱりそれだでけでは足りなくて。家で家庭教師に読み上げてもらうと90点取れる問題が、学校のテストだと20点しか取れない。能力を発揮できないもどかしさがありました。
先輩の事例が突破口に
幸子さん 同じ頃、NHKで都内の中学3年生のYくんが合理的配慮でテストをパソコンで受けている様子が放送されることを知ったんです。「これだ!」と思いました。
たまたまYくんのお母さんと知り合いだったので、「息子の中学の校長先生と、そちらの校長先生をつながせてほしい」とお願いしました。そして、先方の許可を取った後、こちらの校長先生に事情を説明して、校長先生同士で情報交換してもらったんです。その結果、「確かに何の問題もないようです」ということで、前向きに考えてもらえるようになりました。
先生同士で直接話をすることで、配慮のことをより身近に、リアルに考えてもらえるようになったのかもしれませんね。
幸子さん そう思います。各教科の先生方にもYくんの番組を見てほしいとお願いしました。中間テストの後だったので、全ての教科の先生に、「漢字の問題で明朝体のところは何も読めなかったようです」とか、「拡大コピー、ありがとうございました。でも、少し小さかったみたいです。次回は120%でお願いします」、「行間が狭かったようで、字がぐちゃぐちゃ動いちゃったみたいです」という具合にメッセージを付箋に書いてお渡ししたんですが、その付箋の裏に、「この番組で中3の生徒が合理的配慮を受けています。見てくださると助かります」って書き添えたんです。
そうしたら番組を見てくださった先生が何人かいらして、まず英語と国語のテストでパソコンを使わせてもらえることになりました。英語の先生は「よく発言するのに書けない。これはおかしい」と思っていたみたいで。国語は漢字テストで書けなかった文字を全部、部首毎に色分けして書いて提出する、ということをすごくていねいにやっていたんですが、それを先生は見ていたから、「これは本当にたいへんそうだ」というのをよくわかっていらした。
努力の結晶ですね。それが配慮につながった。
幸子さん その後、学年末に全国や都の学力テストがあるでしょう? あれは成績には関係ないので、試しにパソコンを使わせてほしいと頼んだんです。すると、「いいですよ」って二つ返事で許可が出た。パソコンでテストを受けたら全部、平均点以上でした。ふだんは20点台だったりするのに。
能力を発揮できたんですね。
幸子さん それで先生が「え?」って思ったらしくて。「全部、点数が上がりました! 理科なんてすごかったですよ!」って言うから、心の中で「でしょ?」って(笑)。それをきっかけに、2年の1学期からは全ての教科でパソコンの許可が下りました。
息子が配慮を受けるようになったいきさつはこんな感じです。Yくんの事例が最初の突破口でした。同じような状況でがんばっている先輩の事例が、すごく力になりました。校長先生同士、学校同士、つながってもらえたことも大きかったと思います。
複数の選択肢から自分に合った方法を
幸子さん もうひとつ、事例に助けられたことがあります。
息子の志望校に合理的配慮を受けている生徒さんがいるんですが、その子がたまたま知り合いの知り合いだったんです(笑)。それで、お母さんに連絡を取っていろいろ教えてもらっていました。
当時、私は息子の授業にスキャナーを持ち込むことを希望していました。Yくんも使っていたので、うちも導入したらどうだろうって。それで、そのことを彼女に相談したんです。そうしたら「よく考えて」って。「先生にも息子さんにも負担をかけない方法を考えた方がいいよ」って言われました。
確かに、息子は不器用なのでスキャンするのも時間がかかるし、データをやりとりするのは先生にも手間をかけさせることになる。器機は作動音が気になるから保健室に置かせてもらうにしても、スキャンや出力のたびに教室から行き来するのはたいへん…。考えてみるとけっこう負担が大きかった。
そうしたら彼女が、「うちはベタ打ちでやってるよ」って教えてくれました。
ベタ打ちというのは、書式に関係なくただテキストだけを打ち込んでいくことですね。
幸子さん なるほど、と思って先生に相談してみました。「解答をベタ打ちでするのはどうでしょう? 「問1○○ 問2□□」 っていうふうに書いていく方法はいかがですか?」
そうしたらすぐオッケーが出たんです。スキャナーは学校にとって負担だったろうし、私たちも「どのタイミングで準備するんだろう、どうしよう」って心配していたので、その分の負担がなくなりました。
誰かにとってよい方法が自分にも当てはまるとは限りませんよね。
幸子さん そうなんです。誰かがタブレットを入れたといっても、それが他の人にも役に立つとは限らない。息子には合いませんでした。協調性運動障害があるから沈まないキーボードは押せなかった。逆にうちはパソコンを使っているけど、パソコンのキーボードが苦手な人もいると思います。
目の前の事例を全部取り入れる必要はないんですよね。私も、試験の配慮を求めたときはYくんの事例を学校に伝えて交渉し、スキャナーの導入では高校の先輩の事例を参考にさせてもらいました。多くの事例を知って、その中から自分に合ったものを選べたらいいな、と思います。
次回は1月20日「自分を知ること、そして、カミングアウトするということ」を公開予定です。
★現在公開中のあるよストーリーはこちらからご覧いただけます★
【お問い合わせ先】
一般社団法人読み書き配慮
〒169-0072 東京都新宿区大久保3-14-4毎日新聞社早稲田別館5階
あるよ相談についてお問い合わせ
その他サービスのお問い合わせ