【お問い合わせ先】
一般社団法人読み書き配慮
〒169-0072 東京都新宿区大久保3-14-4毎日新聞社早稲田別館5階
あるよ相談についてお問い合わせ
その他サービスのお問い合わせ
武井 本日は発達性ディスレクシア研究会の理事長で、読み書きの発達障害の研究の最前線で活躍していらっしゃる宇野先生をお招きしました。先生は言語聴覚士でもあり、発達性読み書き障害や特異的言語障害があるお子さんを対象とした知能検査や認知検査にも携わっていらっしゃいます。臨床の現場でも豊富な経験をおもちの先生に、今日は専門家の立場からお話を伺いたいと思います。先生、どうぞよろしくお願いいたします。
宇野先生 こちらこそ、よろしくお願いいたします。
武井 先生は実際に教育の現場で子どもたちに読み書きのスキルや語彙力を高める指導もされていますが、発達性ディスレクシアの問題に関して感じていらっしゃる課題はありますか?
宇野先生 たくさんあります。ありすぎるでしょう(笑)。
まず僕自身の課題として、英語で論文をいっぱい書かないといけない(笑)。実は日本語話者の発達性ディスレクシアというのは他の言語とはいろいろと異なる点があるのですが、その実態がなかなか伝わっていないんじゃないかと思うんです。でも、英語で発信すると海外の人が見てくれて、逆輸入でうまくいったりする。
今、僕は、読むスピードを上げるトレーニング法を研究しているのですが、それを1年以内に公表したいと思っています。そのためにはまず論文にしないといけない。科学者は根拠が必要ですから。
菊田 私も読み書きに関する論文を読むことがありますが、ある論文で、「多くの子どもたちが入学前にひらがなは自然習得する。自然習得しない子どもたちは何らかの問題を抱えているわけで、幼稚園の年長さんで一度スクリーニングをかけるというのはどうか」と発表されているのを読みました。
宇野先生 年長児の時期にスクリーニングをかけるというのは、私も同じ考えです。
年長さんに11月頃に、拗音以外のひらがな71文字を読んでもらった場合の正答率は約93%です。小学校1年生の夏休みにふつうに練習すると年長さんのときに読み書きの習得度が低かった子も9割は追いつきます。一方、年長さんのときにひらがなのトレーニングをすると習得度は伸びるのですが、トレーニングしていない子も伸びるので結果に差がなくなってしまうのです。
武井 それは驚きですね。
宇野先生 そうしたことを考えると、年長さんでは徹底したトレーニングはしない方がいいんじゃないかと思います。
年長さん100人ぐらいを対象に、家庭でどのぐらい練習するとひらがなの読みに効果があるのかを調べたことがあります。すると、実は練習の効果はほとんどないんです。もちろん、年中さんでも年長さんでも習得が早い子はいます。でも、できない子は、家で親御さんが一生懸命練習しても習得度が伸びず、教えたことがなかなか身につかない。結果的に長時間、教えることになります。一方、良くできる子は教えなくても自分で読めるようになっちゃうので、親はあまり教えなくて済むわけです。そのような様相になっている。
だから、統計的には、年長さんでの家庭でのトレーニング時間の長さは習得度に影響しませんでした。ですが、小学校入学後にトレーニングをすると1年生の夏休みに伸びる子が多い。トレーニングの効果が出るんです。
武井 以前に講演会で先生がお話されていたつくば市と取手市の一部で実施されている取り組みのことですね。
まず、11月頃の就学時健診でひらがな10文字を読むスクリーニングを実施する。その子どもたちに小1の7月にSTRAW-Rという読み書きの検査を実施し、夏休みの間にご家庭でトレーニングしてもらう。そして、9月にもう一度STRAW-Rを実施する。そんな流れだと聞いています。
そのトレーニングはどんな形で受けるのですか? 何か特別な環境やシステムが必要なのでしょうか?
宇野先生 いえ、ふつうに家でできます。
菊田 そうなんですか! ご家庭でのトレーニングではどのようなことを行うのでしょうか?
宇野先生 それぞれの家庭のやり方で自由に取り組むんです。
菊田 つまり、それぞれの家で自由に練習するということ?
宇野先生 ご家庭に任せる、ということです。
「あなたのお子さんは濁点がまだ十分ではありませんね。小さい字のちゃ、ちゅ、ちょがまだ十分ではありませんね。それを読み書きできるように、家で自由に練習してください」。
そうすると徹底的にやるご家庭もあるでしょうし、「ちゃんと練習しなさい」というだけで、後は1週間に1回テストするというご家庭もあるかもしれない。
菊田 例えば、書くことが苦手な子には「何か書いてみようか?」って声を掛けるとか、日記のようなものを書かせてみるとか?
宇野先生 そんな感じです。何をどういうふうにするかは各家庭に任せる。
「ごくふつうのやり方で」というのがミソで、ふつうに教えて読めたなら問題ないわけです。ふつうに教えたけれど読めない、そういう経験は特別支援を受けるベースになる。だからプロセスが大事なんです。「教えてないからできないんだ」というのと「教えたのに難しいんだ」という違いへの「気づき」が重要になる。
武井 なぜ書けないのか、ということへの気づきですね。
武井 ところで、STRAW-Rは先生が開発された読み書きについての検査ですが、どういう部分を測ることができるのですか?
宇野先生 読み書きの習得度です。誰でも実施できるようにつくられていて、特に心理士さんなんかは必ず検査ができるようになっています。正確性と流暢性の両方がわかります。集団での読み書きの検査方法は、私たちのグループが作成した「どう向き合いますか?ディスレクシア(支援編)」というビデオの中で説明しています(詳細は連載第3回で)。その他に、RAN(ラン)という自動化能力をはかる認知検査も入れてあります。
書きの流暢性を見るのは難しいんです。書き終わるまでの時間を測定すると手指の運動能力が含まれるので、文字の形態を想起する力を切り離すのが難しくなるんです。ですからSTRAW-Rでは書取課題を用いているので音声提示から書き始めまでの時間を測定することになっています。私の知る限り、英語圏では書字に関して標準化した検査はないのではないかと思います。英語圏の人は書字障害に興味がないというか、書くことを日本語話者よりも大事に思っていないようです。たぶん、タイピングの文化なんですね。
武井 書けなくてもタイピングしちゃえばいい!という考えなんでしょうか。タイピングができれば生活する上では困らないのかもしれませんね。
宇野先生 そうなのかな、と思ったりもしますが、でも、香港のグループの先生方は、中国の文字は(アルファベットではなく)漢字(正確には中国文字)だから、綴るって大事だよねという考えです。ぼくらと共通の考えなんですね。実は書いて覚えるという文化は、漢字文化圏だけだともいわれているんですよ。
菊田・武井 えーっ、そうなんですか!!
武井 興味深いですね。でも、こんなに苦しんでいるのに。書いて覚えなさい!と言われ続けてきましたから…。
宇野先生 日本だけでなく、中国、そして韓国ももともと漢字文化圏だったから、「書いて覚えなさい」と言われている。英国の大学で教鞭をとっている日本人の先生に伺ったんですが、お嬢さんがまだ小さかった頃、日本式に「書いて覚えなさい」と声を掛けたそうなんです。そうしたら、「そんなの日本人しかやっていないでしょう。私たちイギリス人はそんなふうにして覚えないの!」と言って、スペリングテストで満点取ってきて驚いた!という話をされていました。
次回7月30日公開のあるよセレクトは、あるよ(有料)会員限定です。
ドラマ『発達性ディスレクシアとは?』
ディスレクシアの子どもたちが、どういう状況におかれているのか、意外に気づかれにくいその実情についてのビデオです。
次回のあるよセレクトでは、「再現ドラマで学ぶ、見過ごされがちなその事例について」、動画をご覧いただけます。
ぜひ、お見逃しなく!!
★現在公開中のあるよストーリーはこちらからご覧いただけます★
【お問い合わせ先】
一般社団法人読み書き配慮
〒169-0072 東京都新宿区大久保3-14-4毎日新聞社早稲田別館5階
あるよ相談についてお問い合わせ
その他サービスのお問い合わせ