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菊田 西郷先生は強い思いがあって校長先生になられたとか。「管理職にならなければ改革はできない。校長になってやりたいことがあるから校長を目指したんだ」。そんなお話をちらっと伺ったんですが、その辺のことを少しお聞かせください。
西郷先生 僕は最初、養護学校にいたんですよ。そこの子どもたちはすごく好きだったんですが、どうしても中学生ぐらいの年代の子どもたちを教えたくて、そこに3年ほどいて普通の区立中学校に移りました。年代的にもそうだったんですけど、荒れた学校でね。でも、その学校がよかったんです。
菊田 昭和50年代半ば、金八先生の頃ですね。
西郷先生 着任前に校長先生に呼ばれて行ったんですが、生徒たちが廊下で段ボールを燃やしてたき火をしているんですよ。煙がもうもうとしているのに誰も注意しない。最初、意味がわかりませんでした。「そうか、たき火をしているのか。外ですればいいのにな」、そんな感じ(笑)。
とにかく、みんな遊んでばかりで言うことを聞かない。だから先生たちも力で押さえつけるんです。体罰みたいなものもあった。でも、1年生は押さえられても、2年、3年になると抑えきれなくなるんですね。もう一部の生徒は無法状態でした。
菊田 たいへんですね。
西郷先生 当時、職員室で喫煙できましたから、先生がたばこを吸いながら生徒を注意しているんですよ。喫煙した生徒に「おまえな、たばこは身体に悪いんだぞ!」って説教している。
これは違うんじゃないか、って思いました。で、そう言うと、「若造のくせに」って返される。そんなことを繰り返すうちにだんだん心の中に芽生えてくるわけです。「これじゃいかん」。「何を言っても聞いてくれない。管理職にならなくちゃだめだ」。その辺から校長になろうと思い始めました。
菊田 その学校にはどれくらいいらしたんですか。
西郷先生 10年くらいです。いわゆる「不良」って呼ばれる子たちがなついてくれてね。そういう子たちがみんな僕のクラスに集まってきた。
菊田 ええ?
西郷先生 だって、かわいそうだから。そういう子たちは他のクラスに行くと先生たちから怒られたりしてつらく当たられるでしょ。だから僕が面倒を見ます、って言ったんです。そうしたら、僕のクラスだけ校舎の端っこに追いやられて。L字型の校舎の長い方に普通のクラスがあって、短い方に1クラスだけ「隔離」された(笑)。さすがに生徒たちが気づいてね。「なんでおれたちだけ、ここなんだよ!」って言ってバリケードを作った。机なんかを積み上げて、「他の先生は来るな!」って。
いやー、最高に面白かった(笑)。その子たちとはいまだに毎年バスを借りて遠足に行ってますよ。
菊田 力で押さえつける教育が王道だった時代ですよね。でも、先生は「怒られちゃったらかわいそうでしょ」っておっしゃって生徒に向き合ってこられた。荒れている子たちも一人一人に理由があるって思っていらしたんですね?
西郷先生 環境的に恵まれない子も多かったから。それなのにさらに学校でまで恵まれないというのはかわいそうでしょ。だからせめて中学校くらいは楽しく卒業してほしいな、って思ったんです。
菊田 大切なのは中学校での3年間を楽しく過ごすこと。今、先生がやっていらっしゃる教育の原点ですね。
西郷先生 でも、そんな中で今も心に残っている子がいます。女の子なんだけど髪の毛なんていつもまっ茶色に染めていてね、鑑別所は行くわ、家出はするわ、とっても悪いんです。でも、僕にだけはなついてくれて、かわいがっていました。なんとか卒業させようと思って。
…順調だったんです。だけど、最後にシンナーを吸ってしまった。それで卒業式に出られなくなりました。保健室に連れていかれて警察に保護されたんです。様子を見に行ったらその子が鏡を見てるんです。で、まっ茶に染まった髪の毛を触りながら、「アブラ虫みたい」って言うんです。つまり、ゴキブリ色だって。だから、「そんなことないよ、きれいだよ」って養護の先生と一緒に褒めてね。彼女はその後すぐに施設に行ってしまいました。
菊田 切ないですね。
西郷先生 そうしたら、何年か後に偶然、その子に会ったんです。コンビニで、赤ちゃんを抱っこしていて、旦那さんだと思うんだけれど男の人が一緒にいて。声をかけたかったけれど、かけませんでした。かけちゃいけない気がして。ニコニコしていてね。それが最後で、もうその子には会ってません。…余計な話でした(笑)。
西郷先生 まあ、そんなこともあって管理職になろうと思ったんです。全然勉強しないで生徒たちと遊んでいるばっかりでしたが(笑)。それでも節目節目で目をかけてくれる校長先生や同僚の人たちとの出会いがあって、誰か紹介してくれたり、「勉強しなさい」って言ってくれた。それでいろんな研究会に行って勉強するようになり、軌道に乗りました。
今、僕がこうしているのはその方たちのおかげです。だから、僕も若い先生たちには同じように「勉強しなさい、若いうちにもっと勉強しなさい」って言ってます。
菊田 この学校は20代、30代の若い先生方が多いですよね。
西郷先生 他の学校から異動してくる先生もいますが、僕は基本的にこの学校が初めてという新規採用の先生に来てもらっているんです。だから、うちの学校の生活指導主任は4年目、教務主任は5年目の先生です。
菊田 お若いですね。自治体によっては4年目はまだ新米扱いで、個別指導の先生がついたりするんですよ。
西郷先生 能力があればできちゃうんですよ。年功序列なんて関係ない。うちの学校では2年目の先生の研修に教育委員会から派遣された指導者がつくんですが、2年目以降はあまり役に立ちません。1年目で相当な実力がついている初任者も多いので、教科内容や進んだ指導方法については、アドバイスすることが難しいんです。
菊田 すごい。どうしてそんなに実力がつくんですか?
西郷先生 若い先生同士、競争しているからでしょうね。この前、まだ教員になって1年半の先生が3Dプリンターを使った研究授業をやりました。全国初です。授業中に子どもたちが3Dプリンターをプログラムして心臓の模型を作ったんですよ。
菊田 心臓って言うと理科の授業ですか? 面白そう!
西郷先生 先生たちがいろいろチャレンジしてます。「エッジを立てましょう」って僕は言ってるんだけれど、自分の得意なところを突き詰めていって勝負する。だからすごく面白い。
うちでは研究授業が年間に30回以上あるんですが、この前はオール・イングリッシュで料理教室をやりました。それがよかったので、体育の先生もオール・イングリッシュに挑戦したんです。そうしたら、これが大失敗。体育ってあんまりしゃべらないんだね(笑)。見ている人がみんな、「こりゃ、駄目だ。体育でオール・イングリッシュやっても無駄だ」って(笑)。そういう大失敗もあるけれど、それがまた面白いんです。それに、やってみなくちゃわからないですから。
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