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今、全国の教育関係者から注目を集めている学校があります。東京・世田谷区の桜丘中学校。地域の子どもたちが通うごくふつうの公立中学校です。
訪れたのは2月。休み時間の校舎は窓が開け放たれ、教室の中は明るい雰囲気です。あれ? ふだん見慣れている公立中学校の風景とはどこか違う。なぜだろう、と周りを見回して気がつきました。パステルカラーのパーカーを羽織った女子生徒たち。教室の隅で談笑する男子生徒は人気ブランドのロゴ入りのトレーナーを着ています。「こんにちは!」と明るく挨拶してくれた男子生徒の足下に目をやると、真っ白なシューズにカラフルな靴紐が結ばれていました。
「制服は着ても着なくてもいいんですよ」と校長の西郷孝彦先生。よく見ると学校指定の紺色のブレザーに混じって私服姿の子がいます。言われなければ気がつかないほど、自然に教室内の風景に溶け込んでいました。
「校則なし」「制服の着用は自由」「遅刻を取らず、早退も自由」「携帯電話もスマホもパソコンも持ち込み可」等々。
こうした取り組みは、これまでの公立学校の常識とは一線を画しています。校則と生活指導が当たり前だった学生時代を過ごしてきた人たちにとってはちょっとした衝撃であり驚きであり、なかには不安を抱く人もいるかもしれません。
曰く、「遅刻OKなんて怠け癖がついて生活リズムが狂うのでは?」「タブレットを持ち込んだら授業に集中できない」「学校でスマホゲームをしてもいいのか?」「自由を認めすぎて学校が荒れるだろう」等々。
確かに気になりますよね。実際に自分の目で確かめてみようと、2年生の理科の授業にお邪魔しました。
「すみません、ちょっと遅れました」。先生が教室に入ってくると、それまでのざわめきがすーっと引いていきます。チャイムは鳴りません。先生はそのまま黒板に向かうと電気抵抗の公式を書き始めました。生徒たちの視線が集まります。さっきまで大声でふざけあっていたというのに、切り替えの早いこと。先生の一言に一人の生徒が突っ込みを入れ、どっと笑いが起こりました。和気あいあいとした雰囲気のなか、テンポ良く授業が進んでいきます。
「子どもたちの顎が上がっている。みんな先生を見て、よく話を聞いていますね」
見学していた読み書き配慮のスタッフが言いました。よそ見をしたり、手元をいじっている子は見当たりません。みんな前を向くか、ノートにペンを走らせています。机の上にタブレットやパソコンを開いている生徒が二人。後ろ姿から集中している様子が伝わってきます。
公式の復習が済むとプリントが配られました。みんな一斉に取りかかります。一人の生徒がタブレットで入力を始めました。
「授業で使うプリントは予めPDF化して事前にメールで送ってあるんです」と西郷先生。校内にはWi-Fiが整備されていて、生徒は自由に使うことができます。試験前にはYouTubeで勉強する子もいるとか。でも、動画を見て遊んだり、ゲームをする子が出てこないのでしょうか。
「最初は面白がってやってますね。でも、必要ない子はだんだん使わなくなるんです。わざわざ授業中にする必要がないので」
タブレットやスマホだけでなく、授業中に寝ていてもマンガを読んでいてもいいのだそうです。生徒が寝るのは先生の責任だと西郷先生。「だって、面白い授業だったら寝ないでしょ。子どもの態度は先生の授業への評価なんですよ」
先生方にとっては、ある意味で過酷な環境です。教える側も勉強は必須。先生同士、切磋琢磨して教師としての力量をどんどん伸ばしていきます。その結果、授業が面白くなる。すると生徒たちが目をキラキラさせる。それを見た先生たちはもっといい授業をしたくなる、その繰り返し。この学校にはそういうプラスのループができ上がっているようでした。
「例えば帰国子女で休み時間にTimeだとかNewsweekを読んでいる子がいる。その子が試験を受けなかったからと言って、英語の評価で2とか3とか付けますか?」
西郷先生からの質問です。うーん、残念だけれど、たいていの中学校では付けるんじゃないでしょうか。
「うちは付けません。だって、試験はその子のその時点での学力を確認してその生徒には何が必要かを知るための資料に過ぎないからです」と先生は言います。
成績はふだんの様子から理解度を総合的に判断して付けるもので、試験は子どもたちの力を伸ばすための手段のひとつである。そんな考えから、桜丘中学校では今年度から定期考査をなくすことにしたそうです。
「スモールステップという考え方です。大きな目標を達成するのではなく、目標を細かく分けて小さな目標を一つ一つクリアしていく。1回のテストで100点を取るのは難しくても、10点ずつのテストを10回やれば達成できる子はたくさんいます。それを世田谷区が実施するeラーニングと組み合わせようと思ってます。教科書を使うより、生徒たちも楽しく勉強できるでしょ?」
こうした試みが子どもたちの学びに、そして将来に、どんな影響を与えるのか。結果はすぐには出ません。現在の受験制度や社会の有り様を考えると、一筋縄ではいかなそうです。それでも、生徒たちの生き生きした表情に希望を持ちたくなります。
「内申や受験があるからしかたないのかもしれないけれど、せっかく5があっても2ばかり気にしている。でも、苦手なことは誰にでもあります。場合によってはそれをほっておくことがあってもいいんじゃないでしょうか。一人一人の得意なところを探して、伸ばしてあげたいですね」。
子どもたちを見つめる西郷校長の視線は温かでした。
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