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【入試】はじめてづくしの受験と配慮
ぼくが決めた道【1】
2022年に公立高校の入試で、道内初のタブレット受験を経験した大久保さん親子にお話を聞きました。
(取材は2022年夏実施)
高校はICT最先端校
菊田 まずは、現在通われている高校についてお話を伺えますか?
大久保(母) 通っている高校は、北海道の道立普通科高校になります。いろんな不自由さ、生きにくさを抱えた子たちも集まってきています。大学進学を目指している生徒もいます。様々な生徒が集まっている高校です。
そして、この高校は地域で一番進んでいるであろうというところが、まさにICTなんですよ。ギガスクールが始まる前の年にすでにオンライン事業化していたんです。だから、コロナが来ても、別に問題なかった。もう、軌道に乗ってるんです。
菊田 すごいですね。
大久保(母) 道立高校は、BYOD(私物端末の使用【Bring Your Own Device】)になってるんですけど、今年からこの子たちがギガスクールの1年生の状況です。初めて「学校端末を持ってきてください」じゃなくて「必要だったら、この機種のこのレベルの同等のものであればBYODなんでも持ってきてください」っていう状況なんですよね。
OSバラバラなんですけど、町費でもうすでにギガ前より小中校ios全員1人1台貸与してるので、air dropでものをもらったり、Apple TVでプレゼンしたり、授業したりっていうところは、もうすでに先生方の中でノウハウがあるんです。
菊田 それは心強いですね。
困難を極めた受験時の配慮申請
大久保(母) 高校の選定は、彼が小学校6年生の時から始めていました。その頃は、その高校では今のようにICTが活用されてはいませんでしたが、恐らく彼が受験するころにはICTが浸透していることを想定して、志望校の1つに入れたいと思いました。
今BYOD 1年目なので、昨年度の3月31日に全道の道立学校に一応回線は入ったんです。ただ、運用がうまくいってないんです。受験の時に何を1番嫌がられるかっていうと、通信を嫌がられるんですよ。解答用紙を彼の端末に入れてグッドノートに貼って解答したい。
それは中学校の定期考査でも学力テストでもやっていたことなので、教育委員会の方に「それができないと彼は困る」と言った時に、「USBでお願いします」と言われました。「じゃあ、学校の方のwi-fiは使えませんか?」という話をしたら「入学したら使用できますが、入学試験は入学してないので使うことはできません」と、でもこれは絶対言われるだろうと、もう4年前に想定してたんですよね。「だったら回線を使わないair dropだったらどうですか?」とお伝えしました。説明としては、わかりやすく「air dropは昔で言う赤外線通信」っていう言い方をしたんです。何がセキュリティの違反になるのか考えてくださいと聞きました。
大久保(子) 僕もこの話し合いが本当にすごく辛かったですね。高校に行ってある程度ノウハウを積みたいとこもあったので。実は、いま通っている高校の他にもう一校、工業高校も志望校に入れていました。結局、話し合いのスタートが遅く、合理的配慮の協議の時間切れで志望校から外れてしまいました。
大久保(母) 北海道の合理的配慮のルールというのは、受験をする前にまず協議をします。その後にシミュレーションをします。まず出願が1月中旬なんですけど、私たちのイメージでは、中学3年の夏休み中に協議やシュミレーションができたらと思っていました。しかし、協議は10月スタートだったんです。それで、もう一つの志望校である工業高校とは協議ができませんでした。
中学3年生の10月って、内申点に関わる最後の大きなテストが控えていたりとか、受験に関わる学力テスト、実力を見るテストがある。まさにその月でした。2週間前に勉強できるんですけど、その協議が入ったら、彼、勉強できないんですよ。それを2校って言った時に、1か所で協議してくれればいいんですけど、各学校に出向くんですよ。結局、志望校であるのに工業高校とは協議ができませんでした。
子どもっぽさを経験したかった中学校時代
大久保(子) 義務教育の良さ、楽しさが全く分からないまま学校を出ることになりました。中学校と共に義務教育終了したんですよね。スタートラインにも立てなければ、チームプレイ、私はあまり得意じゃないんですけど、それの良さもわからない。なんかすごい屈辱というか。僕の中では、「いや君、子どもだね」とか「ああ、いいね。そういう子どもっぽさ」って言われるようなことをもっとやりたかったんですよね。
大人に囲まれて話し合いとかっていうのも、確かにまあいい経験ではあるんですけど、どうしても自分がこういうハンデキャップを持ってるせいでできなかったことっていうのをもうちょっとやりたかったな。今となれば全然いい経験だし、全然悪いことではないんですけど。
菊田 年齢不相応の苦労をしちゃう部分もありますよね。その結果、年齢よりも成熟が早い部分もある。確かに悪いことばかりではないけれど、私も息子の時には、大人の事情でこうなっているのは可哀想だなと思ったりしました。
当事者でないと分からない現場の苦労
大久保(母) ICT使えるっていうのは、すごく大事だし、その後にどうやって協議に繋いでいくかっていうのもすごく大事なんですけど、よく菊田さんがおっしゃるように、すごい負荷なんです。本当に現場感覚でどれくらい伝わってるのかってなると、当事者にならないと分からない。
中学校の2年と3年の担当の先生は、彼を最後の最後までサポートして、見離さずやってくださいました。だけど、体を壊されました。データの管理は、その先生が全部やってくださっていたので、大変だったのではないかと思うんです。
先生方全員がwordやexcelを使ってるわけじゃなくて、一太郎の方もまだいらっしゃるんですよ。そのデータを紙で上がってきたものを全部入力して、それをさらに間違いがないかチェックをして、読み上げをしてといった膨大な作業をしてくださっていました。
大久保(子) この先生が中3の夏休みに理数系のフォローアップをして、学びなおしをしようと言ってくださったんですけど、体壊しているのを知っていたので、僕と母は先生が倒れるくらいならこのまま受験まで一緒にいてくださる方がいいと思って、フォローアップをお断りしました。
道内初の本人所有のタブレットを使用した受験
大久保(母) (受験時の配慮の協議は)おそらくこの交渉が道内で初事例だったんですよ。ただ、教育委員会側に新聞社が取材をかけた時にパソコンでの受験は事例があると言われたそうです。
菊田 どういうことですか?
大久保(母) あの記事は「タブレット受験」が初だっていうことなんです。でも、「PCでの受験」は前例があるということでした。そのPCの道内の受験例はどうやってやったのっていうのは個人情報なので一切クローズなんです。というとことが、実のところです。
大久保(子) (シミュレーションについては)高校へ行き、高校の先生方、教育委員会の方等7,8人がいる状況で説明しました。例えば、「文字数指定回答では、ワードに打ったものをグッドノートにコピーアンドペーストをすることによって、1回打つ手間も省ける。2回打たずとも1回書いて、かつ文字数も数えられるので、大体これでみんなと一緒の条件になれるんです」って話をしたんです。そうしたら、その時に、「普通の子に比べて楽だよ」って教育委員会の方が言われたんです。僕は、「あの、どこら辺が楽か教えてもらっていいですか?」と聞き返しました。
これは推測ですけど、一瞬頭回ったのは、他の子は文字数カウントがないと思ったので、だから僕言ったんですよ。「グッドノートでテキストボックスは、縦書きにするとマスが切れてはまらないんです。縦書きであらかじめ書式作ってくれたら、文字打ちながら『多いな』『少ないな』となると思うんですけど、テキストボックスはできないんです」「文字数カウントのことであれば、皆さんは書けば文字がどこまで書いたかわかるじゃないですか。もし、コピペのことも懸念されているのであれば、問題用紙に練習で書くなら話は別ですけど。僕、このまま回答したいので、みんな回答する時は1回で書きますよね。じゃコピペでもいいですよね」と言ったんです。
菊田 その状況でよくそんなに論理的にそれで、しかも怒りもせずに、わかるように説明できたと思うわ。その力がもう素晴らしいと思う。
大久保(母) (息子が言ったことは、)「僕だって、何十点、何百点、人に差つけて受かりたいわけではないです。気分も良くないし」って。「じゃあ、どこをどうしたら、僕はみんなと同じスタートライン立てるんですか?」と言ってました。すごいこの子、冷静だなと。
菊田 ほんとにすごいわ。ほんとかっこいい。
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【予告】
次回2話は、5月1日公開です。
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