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一般社団法人読み書き配慮
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高橋 前任校の特別支援学級は3学級あったけど、特別支援学級って、講師が配当されるのは通常2学級までなの。
だから、通常講師は「1学級に最大6時間の範囲で配当する」ということになっているけど、3学級になった時に講師申請の書類が来なかったわけ。でも、「3学級以上はダメだよ。」とは配当基準に書いていないわけです。都教委は「必要に応じて配当する」というわけ。で、区の担当者に「書類をよこせ」と。こちらから言わないと配当されないから、毎年申請をかけると、必ずゼロ査定で戻ってくるから再申請をかける。だから、毎年60枚ぐらいの資料を準備してやっていたら、最後の年は、最初から20時間の加配がついてくるようになったんだよね。
菊田 先生は制度をよくご存じだから戦えるということですね。
高橋 この業界はね、そういうのを勉強して戦略を立てていかないとダメだよ。
菊田 そうなんです。私もまったく同じ考えです。だから、私も制度を勉強しました。
制度を知らないと保護者として戦えないと。それで、この読み書き配慮を立ち上げたというのもあります。
先生は、教務主任もされていますよね?
教育計画を立案して時間数を決めたりするのは、法令に基づいて決めている。その辺の学校の制度のことを知り尽くしていないと教務主任はできないですよね。
高橋 知り尽くしていないとできないかはわからないけど。
菊田 やっているうちに、知り尽くすのかな。
高橋 教務主任をやる前から、特別支援学級ってそもそも僕がなったころは、教育課程は、区教委じゃなくて東京都に出すことになっていた。だから、僕のケンカの相手は、市区町村の教育委員会ではなくて、都教委だったんだよね。ずっと教育課程の問題で都教委員と話し合うときに、骨を折ってて、松葉杖で行ったことがあって、それが、伝説になっているらしいけどね(笑)
一時期、特別支援関係の指導主事の中では、ブラックリストに入っていたらしい。文句ばっかり言ってたからね(笑)
武井 それだけ、切り込んでいく人が先生しかいなかったということですね。
菊田 制度を知らないと、切り込んで行こうにもできないですしね。
高橋 そうなんだよね。
それが現場の弱さでもあるんだけど、特別支援学級の設置校の約7割の管理職は、特別支援学級のことを知らないんだよね。
菊田 支援学級は自立活動をすると決められているんだけど、「自立活動」ってなに?っていう感じの校長先生もいると聞きます。
でも、これ(冊子)を読んで、高橋先生はすっごい良く知っていらっしゃる管理職だと思ったんですよ。管理職がこんなに詳しく特別支援やインクルーシブ教育が書ける学校って強いなと。
高橋 特別支援学級の先生たちによくいうのは、「圧倒的に力をつけなきゃだめだよね。」ちゃんと勉強しろと。学校の先生たちは、そこの意識が弱い。ちょっと勉強すれば、僕たちって、法律でがんじがらめになっているんだ、ってことがわかるわけ。一方で、法律があるから、身分も保証されているし。まったくそういうことを意識しないまま教員生活を送っていく人が多いよね。
菊田 制度でがんじがらめのようにも見えるけど、この教育制度があって日本の教育は一定の水準を保っているっていうところもある。
高橋 みんなそこまで読んでないから。たとえば、出勤簿に押印するというのも、ちゃんと法律で決められているわけ。どこに書いてあるんですか?っていうと、市区町村の条例の中に書いてある。上は、憲法、教育基本法、学校教育法、施行令、施行規則ってあるけど、その下に、市区町村で管理責任を負っているから、市区町村の条例に基づいて。
だけど、みんなそんなの読んで仕事しているわけではないから。管理職になると法律根拠はどうなんだって、説明できないと困るんだよ。って受験の時に言われるんだよね(笑)。
学習指導要領が改訂になった時、交流教育を進めるって書いたからって、当時帝京大学の先生だった大南先生は鼻高々で言ってたけど、「進みませんよ。学習指導要領なんてみんな読んでいないんだから」、って僕は言ったんだよね。
菊田 学習指導要領を読んでいない先生が少なからずいるって、驚愕ですけど、現実ですよね。
高橋 小学校なんて読んでいる方だと思う。
菊田 自立活動の本は、160円なのに、それを自腹で買うことを拒む先生が珍しくはないって聞いて、愕然としました。
高橋 そうそう。買わないね。特別支援学校の学習指導要領だって、うちは校長室にあるけど、無い学校の方がほとんどじゃない。
高橋 特別支援教育をしている教員の中には、何もしないでいると自分の存在意義が見いだせないから手を出しすぎちゃうというのがあるの。
ほっとけばいいの。
菊田 読み書き配慮をやっていると、ホントは通常級をやりたいのに、特別支援教室の担任になっちゃったんです。とか、特別支援学級の担任になっちゃったんです。と悩んでいる先生に出会うことが少なくないんです。
高橋 それはね、楽しくないからなんだよ。特別支援教育を訓練とか思っているから、楽しくなくなっちゃうんだよ。ぼくは、卒業生を土曜日とかに呼んで授業をして、それを高橋ゼミと呼んでたんだけど、一方で先生たちには授業づくり研究会と呼んでいて、若い先生たちに僕の授業を見てもらったりしていた。楽しく授業をすることを伝えたくて。まあ、要は、ほっとけばいいの。
菊田 授業づくり研究会って、大事だと思うんです。先生方は大学で授業作りを学んできたわけではないから。通常級でも特別支援でも、目的は子供に生きる力を育むってことで、育てるって本来ものすごく楽しいんじゃないかなって。
たぶん、悩まれている先生方は教授法がわからないんだと思うんですよ。先生がおっしゃる「ほっとけばいい」の意味がわからない。だからか、到達点をいたずらに下げるというのがある。でも、それは子どもの自己肯定感をさげるでしょう。特別支援は到達点を下げるものだ、と思っちゃうみたいで。
高橋 それはね、昔いった水増し教育だとかね、特殊教育はもともと歴史的には、「この子たちに読み書き教えてどうするんだ!」というのがあって、生活力をつけて社会に送り込むのが教育の務めだという考えがあったからね。
その時代は、知的な遅れがあったら、勉強ではなくて実務的なことを学ばせるというのがあった。適正就学というのがあったからね。
菊田 昔は障害のある子供は学校に行かなくてもいいよっていう、就学猶予っていう制度があったんだけど、それがなくなって、養護学校が義務化になる適正就学になった。適正就学って、教育委員会が通常級か養護学校を含む特別支援かを決めちゃうっていうことですよね。今は就学相談になって、教育委員会は保護者の意向を聞くことになっていますよね。
高橋 養護学校を義務化したっていう事のメリットは、知的な遅れがある子にも義務教育が保障されたという点では、やっぱりそれはプラスなんです。でも、養護学校ができたことによって、別学体制というのが確立してしまって、障害があるんだから特別支援学校・支援学級でしょう、というものになっちゃった。だからその当時は、障害があったらそういう学校に入れるというのが主流で、それを適正就学と呼んでいたわけですよ。いまだに引きずっている管理職が居たりするわけ。「いやいや、今はそうじゃないんだよ、本人と保護者の意思が優先なんだから」と説明はするんだけど、なかなかこういうことを説明できる管理職はいないから、見学に来た親が、「こういうことをちゃんと説明してくれた先生がいなかった」と言うんだよね。
菊田 そうですよね。だから、障害の種類も軽重も問わず、とにかく全部通常の学級で受け入れようっていうフルインクルがいたずらにもてはやされてしまう。インクルーシブシステムって呼ばれる今の制度は本来、親が自分の目で選んで、子供にどの教育サービスを受けさせるかを考えなければいけない。教員1人に対して、8人ないし15人の子供という、手厚い特別支援で育てるか、35〜40人の通常級で育てるか。子供にオーダーメイドのカリキュラムを作る特別支援で育てるか、一斉授業を主とする通常級で育てるか。
高橋 フルインクルは、ダンピングと一緒なんですよ。ただ、入れちゃうだけ。
最終的に、「じゃあ、学習はどうするの?」といった時には、「学習はがんばっているんだけど(ついていけてない)ね」っていう話で終わっちゃうわけですよ。
本人の人生だから、親や本人が通常級にずっといたいって言うんだったら、僕が親によく言うのは、「通常学級に未練があるのなら、最初は行った方がいいよ。」と言っています。だけど、本人がSOSのサインを出したのなら、すぐに特別支援に替わってきた方がいいよ、って。
菊田 私は、教育委員をしながらたくさんの学校を回って、そういうお子さんに通常級の現場で出会ってきた経験もあって。親御さんには絶対に見に行った方がいいよ。と言っているんです。通常学級でどうやって過ごしているのかということを親御さんは知らなきゃいけない。親御さんがこだわりがちだから。お子さんは早い段階からSOSを出しているのに、そのことを親御さんが気付かない。親御さんが通常学級、通常学級とこだわるなら、毎日でも行って、見た方がいいと思うんです。
高橋 まあね。それはそれであるけれど、一方で家庭問題もあるからね。お母さんはわかっているけれど、おじいちゃん、おばあちゃん、お父さんが許さないとか。
菊田 おじいちゃんおばあちゃんに「しつけがなっていない!」と言われちゃうということもある。
だからって、通常級で一緒にそこにいればいいっていう話ではないから。
高橋 一緒にいればいいという話だったら、勉強はできない。僕は一緒にいたいということを先行するなら、「勉強には目をつぶれよ」って言ってます。ただ、その子に合わせた勉強をそこでしないというのなら、あとあと影響するということも事実としてあります。
「これこそがインクルーシブだ!」と言った時点でインクルーシブじゃないからね。
菊田 先生の考え方、姿勢そのものが、インクルーシブだと思う。インクルーシブってきれいごとのように言うけれど、きれいごとじゃないと私は思っていて。人間と人間が対峙しないと、インクルーシブじゃないと思います。うちでは兄弟げんかをさせると、「なんだ!俺は障害者なんかじゃねぇ。」ってやるわけですよ。それがまさにインクルーシブで、お互いを認め合うことだと思うんです。一方で「あんた、そういうことやるから障害者だと思われるのよ!」ってやりあう。全然きれいごとじゃない。
高橋 障害のある人には優しくしましょう。ってあるじゃない。でも、嫌な奴は嫌なんだよ。
それを「障害があるからちゃんと接しましょう」って指導してはダメなんだよ。
菊田 障害があるから、ではなくて、人間として向き合うってことですよね。
高橋 そうそう、要するに、人として普通に付き合えばいいだけ。
次回は、「LDの子への対応」についてお話を伺いました。
7月1日会員限定での公開です。どうぞお楽しみに。
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