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一般社団法人読み書き配慮
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野中 先ほど、本人にもフィードバックというお話がありましたが、本人が検査結果を知る意味について、先生の考えを教えて下さい。
川本 はい。やっぱり生活していく上で、2年生、3年生ぐらいになってくると、自分の得意・不得意って、結構分かってくると思うんですよね。そして、自分の得意不得意、好き苦手といったことを適切に理解しておくことって大事だと思うのです。
例えば、みんなが板書を終わってるのに自分だけ終わらないなとか、先生の話を聞こうと思っているのに何か入ってこないなとか、そういう違和感とか困り感がある子に対して、
「それはあなたが悪いわけではなくて、みんな得意・不得意があって、あなたはここがちょっと苦手なんだよね。」というところを専門家から伝えてもらう。そうすることで、 自分には苦手なところがあるけれど、でも、得意なところがある。それを補うタブレット やPCの読み上げ機能などのツールもあるし、先生がちょっと工夫してくれるだけで「あ!自分も聞けるんだ」とか「こういう方法でもいいんだ!」というところに繋がっていけば、生活のしやすさも変わってくるし、本人の自尊感情の維持にも繋がると思うんですよね。なんとなく「なんでこんなにできないのかな?」「こんなにできないのは自分だけなのかな?」というモヤモヤをずっと抱えながら生活しているのは、やっぱり気の毒だなと思います。
そこは保護者よりも、やっぱり第三者が伝えて、先生や保護者が、日頃の生活でフォローしていくという流れの方がいいのかなとは思います。
菊田 うん。本当にそう思います。何か子供に不具合があると自覚した段階で、親はものすごく自信をなくすんですよ。どうしたらいいか分からなくなるというか。
先生が先ほど、「本当に本人のことを一番わかっているのが、検査者でもなくお医者さんでもなく、保護者だ」とおっしゃったじゃないですか。本当にそうなんですけれども、不具合を自覚した瞬間に、保護者のその自信が瓦解してしまう。検査者の方から「本当に分かっているのは親御さんですよ」ということを伝えてもらえたら、保護者は、自分の目に力を入れて、もう一度、子供を見られるんじゃないかと思います。
保護者の自信が揺らぐと、自分の目に自信が持てなくて、その目を人に預けてしまう所があると思うんです。だから、昔の私みたいに「何が悪いの?何が悪いの?」と検査ショッピングのようなことをしてしまう。そうじゃなくて「この子がうまく生きていくためにはどうしたらいいのか」ということを探さなければならない。そして、その子供を見る確かな目は決して他人に預けられるものではないんですよね。
もちろん、心理士の先生方が、的確な目でヘルプはしてくださるかもしれないですけど、主体となって見るのは、やっぱり親であり、あるいは担任の先生なんですね。なので私たちは「検査しておいで」とよそに送ってしまうのではなくて、自身の目でしっかり見ていきたいなと思います。
川本 そうですね。”数字がひとり歩きする”ってよく言いますけど、本当に数字って怖くて、成績もそうですけど、数字で出るとそれが全てみたいに思ってしまいがちです。でも、IQが100を超えていれば、全然問題ないのかと言えばそうではなくて、何か困り感があって検査を受けているわけなので、「全部が100を超えているけれども、困っている。じゃあ何でか?」という所に立ち返らなければならないんですね。
先日、ある先生に伺った話では、『発達障害って凸凹があるので、検査の中でも4つの領域の中で凸凹の数値が出るイメージがあるけれども、じゃあ、発達障害ではない子は凸凹がないのかと言ったら、全然そんなことはなくて、診断がついてない子でさえ、凸凹はするんだ。やっぱり得意・不得意はあるんだ』というお話だったんですよね。
私も大学院の時、当時まだWISC-Ⅲでしたけど、見事に全部が100というお子さんがいたんですね。100ということは、年齢の平均ど真ん中なんです。じゃあその子が、その年齢の平均的な子なのかと言ったら、全然そんなことはなくて、やはり発達障害の傾向がありました。そうすると「検査者としては、数値に出ない。困ったぞ。」となるわけです。特性のあるお子さんなんだけれども、残念ながら、検査上は凸凹が数値に出なかったから、この難しさ、困り感をどうやって伝えたらいいのか?と、凸凹がないと、むしろ困るわけです。
菊田 深い話ですね。
川本 残念ながら、アセスメント上は「問題ないです」「特に異常は見られません」で終わってしまっている方もいるので、それは良くないと思います。IQ100という数値以外の部分からその子の特性や困り感を紐解く所見が書けるか、書けないとしたら他にどんな検査をとったらよいか、それを検討しなければいけません。
菊田 先ほど言ったように、保護者もそうですけど、学校現場の先生方も「不具合があるな」と思ったら、自身の専門的な見方や眼力を信じて「これを生きやすくするためにはどうしたらいいのか」と考えてもらうって、大事ですよね。
学校の先生方は、自分の眼力を過信しないと常々おっしゃっています。確かに過信しすぎは良くないけれど、心理の先生方の知見も伺いながら、総合的に子どもをマネジメントしていくのは、家庭では保護者、学校では先生なので、ご自身の眼力に自信を持って進めていってほしいなと思います。
川本 そうですね。そして、せっかく取った検査結果なのに、それを持って保護者の方はオロオロしちゃうわけですよね。本当は学校の先生が所見を見て、そこからできる学校の支援を導き出せたら最高ですけれども、学校の先生がそこまでというのも、難しい部分もあると思います。また、「この子は注意力がないのでここをこうしてほしい」と、保護者からはやっぱり言いにくい部分があると思うんですね。
なので、理想を言えば、スクールカウンセラーとか特別支援コーディネーターとかが介入して、検査結果を持った保護者と集団の中で指導する先生の橋渡しとして、「検査の中ではこういうことが出ているから、教室ではこういうことができますか」とか「こうするともうちょっといいかもしれませんね」みたいなアドバイスをしてもらえたら最高かな、と思います。
菊田 文部科学省が描いている”チーム学校”というのはまさにそういう姿だと思うんです。学校の先生だけでなく、スクールカウンセラーが入り、ソーシャルワーカーが入り、ご家庭の状況なんかもウォッチしながらその子に合った教育は何かというのを考えていくというのが文部科学省がイメージしている姿なんですけれども、現場ではなかなか。スクールカウンセラーを活用できていない例も珍しくはなくて。
川本 ちょっと話が逸れますけど、検査を取れる場所の一つの選択肢として、臨床心理士養成講座のある大学院では、カウンセリングみたいなのもやっています。臨床心理士の資格を取るためには、大学院を出なければならないんですね。なので、大学院の中でカウンセリングルームを持っているんです。そこで、特に発達心理学のあるような大学院だとお子さんも受け入れていて、そこでも発達検査を取ることができます。
大学院生が実習として取るので、慣れていないと言えば慣れていないかもしれないけれども、スーパーバイザーの先生がついて、きちんと正確に検査を取るのと、報告書もしっかり書くので、臨床心理士指定の大学院で取るというのも、一つ選択肢としてあると思います。
大学院なので診断はできませんが、「特性を知りたい」とか「こういことで困っている」ということで行けば、もしも診断がつきそうだなという場合は、リファーと言って病院の方に紹介してくれるということもあります。
菊田 そういうところで読み書き検査にもつながっていくといいですよね。
川本 そうですね。
野中 やっぱり、検査は保護者も知っておいた方がいいですね。子育てをする際に、一つの指標として、頭に入れながら接することが、子どものためにもなるし、保護者にとっても助けになる気がします。
最後に、先生が伝えておきたいことはありますか。
川本 検査は、「主訴や困りごと」の「原因と対策」を考えるための、検討材料の一つでしかない。検査の数値だけに惑わされてはいけないということ。検査の結果から支援と対策を考えることが大事。その際、知能検査では苦手な面だけでなく得意な面も見えてきますので、「苦手」にばかり注目せず、「得意」を伸ばすとか、「得意」で「苦手」を補う方法を考えることも大事。ということが伝わればうれしいです。
野中・菊田 貴重なお時間をありがとうございました。
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