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菊田 ポニーキャニオンさんが障害のある人でも使用できる読書支援サービスを始めたと聞きました。で、読み書き配慮で早速お話を伺ってみたい!と、開発者にお越しいただきました。
黒澤 ポニーキャニオン、経営企画部プロジェクト推進グループ、黒澤と申します。この読書支援サービス YourEyes(ユアアイズ)の開発担当をしております。よろしくお願いします。
菊田 ポニーキャニオンさんと言えば、私たちの世代にとってはレコード会社ですよね。フジサンケイグループの大手映像・音楽ソフトメーカー。それが障害のある方向けの読書支援サービスって、意外な感じですが。YourEyes(ユアアイズ)っていう名前なんですね。あなたの目になりたいっていう想いが込められている感じがしますが。では早速、このサービスを手掛けられたきっかけから教えてください。
黒澤 はい。私が所属しているプロジェクト推進グループというのは、弊社の中では新規事業を担当するグループなんですね。 ”ポニーキャニオン”と言うと、大体イメージされるのが、”aiko”さんや”Official髭男dism”さんが所属している音楽事業があります。あとは、昔からある映像・映画関係のイメージがすごく強いと思います。例えば、 VHS とか DVD とか、レンタルビデオ屋さんに映画や映像をご提供したり、あるいは、セルビデオという形で販売したりというのが、かなり大きな事業だったんですね。
そういった音楽も、CDから配信になったり、2010年頃から映像・映画も DVD から、SVOD(Subscription Video On Demand)と言われる、例えばネットフリックスのような、ご家庭で楽しむというのが、パッケージメディアからどんどん変わってくるという流れの中で、新しい事業を開発しなければならないということで、私のいる部署ができたんです。私は2017年にこの部署に来たんですけど、ちょうど2年前、2019年にとある事業、それまで、新しくチャレンジしていた事業が、撤退することになりました。まあ当然、新規事業ですから、そういうこともありますよね。 せっかくだから、次に何か新しいものを立ち上げたいと思って、色々アンテナを張っていた時に、ふと、ある一本のニュースを目にしたんです。 それは、神奈川県藤沢市にある NPO 法人で、『耳から聞く図書館』というボランティア団体がボランティアさんの高齢化によって、活動を継続できなくなって、47年間の活動に幕を降ろさざるを得なくなったというニュースでした。 その団体は、主に視覚障害者などご自身の目で本が読めない方に向けて、ボランティアさんが”点訳図書”とか、”音訳図書”とかを作ることに加えて、ピクニックに行ったり懇親会を開いたり、利用される方にすごく寄り添った活動をされていたんです。 そういうすごく重要な、絶対的に必要な団体が、ボランティアの高齢化によって活動を継続できなくなるっていうのは、「すごく寂しいな」と思ったんです。その記事は、今まで作ったその音訳図書の引き取り手を探しているという内容で、最初は、ポニーキャニオンは音楽とか音にも関係する会社ですから、「そういったものを何か生かせないかなあ」と考えたんですけど。ふと、「いや、そんな世の中に必要な団体、必要な作業が行き詰まっているっていうのは、一つの大きな社会課題だ」と思ったんです。調べていくと、どうやら点字図書や、音声図書っていうのは、主に点字図書館というところで貸し出されている。 「じゃあ、ちょっと行ってみよう」ということで、西早稲田にある、日本盲人会連合、(※現在は日本視覚障害者団体連合)の点字図書館に行って、現状を色々ヒアリングしたんです。そしたら、やっぱりそこでも点字図書、音声図書っていうのはとにかく作るのに何ヶ月もかかると。音訳図書のブースがあって、やっぱりご高齢の方が吹き込みの作業やってる。
そこで全盲の方から話を聞いたら、「読書が困ってる」と。そういうボランティアの方々に支えられていても、「視覚障害者は自由に読書ができない。例えば発売日に、本を読みたい!と思っても、それが叶わないと。それはすごく社会的な課題だし、なんとか解決したいなと思ったのがきっかけです。最近では音声合成=テキストから音声化する技術というのが、ものすごく進歩していて、実際にナレーターさんがしゃべっているみたいにすごく自然になってきているので、OCR (光学文字認識)―文字を認識する技術と組み合わせれば、本がすぐに読めるようにできるんじゃないかと。
菊田・武井 へえ、素晴らしい。黒澤さんご自身が思われたということですか?
黒澤 はい。正直実際にどこまでの物ができるかは分からないとしても、弊社でそういうものをご提案するということが、いろいろな波及を生むんじゃないかなと思いました。
菊田 すごくSDGsの発想ですね。持続可能な社会を創っていくために今ある課題を解決しようとしている事業。
黒澤 そうですね。笑。その時は、「SDGs」とは全く意識はしなかったですがね。私はずっと映像畑で、それまでは映画とか映像とかを作ってきたので、音声技術とかOCRとか、そういったことは全く詳しくなかったし、初めてだったんですけど。 「せっかくだから、何かを形にしたいな」と思って、「何とかやり遂げてみようかな」というふうに思ったんですね。はい。
菊田 それで企画されて、動き出した。
黒澤 はい。企画がO Kになって、事業が始まったんですけれども、やっぱりこう日本語の限界というものをすごく感じるようになりました。日本語ってすごく複雑で、OCRには限界があるんですね。アルファベットは、OCRでほぼ100%認識出来るんです。でも、 日本語って、今世界で一番性能が高いOCRのソフトでも、95%くらい止まりなんですよ。95%ということは20文字のうち1文字間違えるということですよね。それを読み上げると、実はもっと間違えているように感じるんです。重要なところで間違えたりすると、やっぱり気になっちゃう。それで、なんとかそれを修正できる方法がないかなと考えて。それで”ボランティアツール”という発想に行き着いたんです。
武井 ボランティアツール?
黒澤 はい。実際にちょっとお見せしましょうか。 本って、ISBNコードがついてるんですけれども。
菊田 ISBNコードってどういうものなんですか?
黒澤 これは本を出版するときに固有でついてる番号なんです。本の識別番号みたいなものです。この番号さえあれば、何の本なのかということが確実にわかるはずなんです。
菊田 そうなんですか~。ここですか?
黒澤 はい。ここのこと。この二つのバーコードの上のやつなんですけれども。
ISBNコードって、国立国会図書館にデータが入っていれば、検索できるので、基本的にはほぼ全て行けるはずではあるんです。ただ、コンビニ流通とか特殊なルートを通っていたりすると、認識できないものはあります。
で、このISBNコードがついている物に関しては、全て読みを修正できるというツールを作ったんです。これがボランティアツールなんですけれども。
実際にやってみましょうか。ここに「本を追加」というボタンがあるので、ISBNコードを入力していただくと書籍を認識します。認識すると、ここに一覧に出てくるんですね。
菊田・武井 面白いですね。
黒澤 次にカメラアプリで本のページを撮影します。例えば、ここの「まえがき」の部分をこうやって撮影をしてパソコンに送ります。
黒澤 撮影したページ画像をボランティアツール に取り込むと、一覧に先ほど撮影した「まえがき」のページが表示されますので、「編集する」というボタンを押します。すると画面の右にはすでにOCRされたテキストが並んでいるんですね。たださっき言ったように、これは誤変換もあるんです。ボランティアツール で読み上げてみましょう。
合成音声……「読み書き困難を抱えながらも‥‥~読み上げ~」
武井 これは音声合成なんですか?
黒澤 はい、そうです。これはいま、合成音声がいきなり読み始めちゃったので、まえがきの後に間を入れてみますね。その場合、ここにタグを追加して、ポーズというので、例えば1500っていうのを入れると1.5秒、間が空くんです。ミリセカンドなので、1000が1秒です。
合成音声 「まえがき—(1.5秒間を開けて)‐‐‐~読み上げ~)
菊田 へ〜。間が開きましたね。でも今の読み上げ、誤読がありました。「2E」は「に・イー」じゃなくて、「トゥー・イー」です。
黒澤 ああ、そんなふうに誤読があったとしますよね。「2E」が「に・イー」ではなくて「トゥー・イー」という読みだとすると、ここにカタカナで「トゥー・イー」というふうに入れます。そうすると…ちょっとここだけ再生してみますね。
合成音声…「トゥー・イー」…
黒澤 こんな風に、読み方を指定してあげることができるんです。例えばこれで何か文字を間違えて変換しちゃったという場合は、打ち直すこともできますし、あとは例えばセリフだったりすると、読みに感情を持たせたりすることもできるんですね。
合成音声…「彼らの苦手なスキルを保障するだけで良いのか」(ノーマル)
黒澤 ここを例えば、ちょっと悲しい感情‥‥強さ1段階から4段階までの”4”という風にやります。
合成音声…「彼らの苦手なスキルを保障するだけで良いのか」(悲しげ)
黒澤 これはちょっとやり過ぎですけれども。笑。
菊田 面白い。笑。
武井 ちょっとポジティブにしたらどんな感じになりますか?
黒澤 やってみますね。
合成音声…「彼らの苦手なスキルを保障するだけで良いのか」(語気強め)
武井 ちょっと主張してる感じになりましたね!
黒澤 そうですね。こういった色々なバリエーションで読ませることができるんです。これを、全ページ修正していただいて、最終的に「審査に提出」っていうボタンを押していただいて、Your Eyes 事務局が「承認」を押すと、次から Your Eyes がこのページを読む時には、この通りに読むんです。
菊田 すごい!
黒澤 図があったりしてもその解説を入れられます。例えばこの教科書の個々の部分に使ったとしますよね。するとアプリのここに、タブで「図の説明」というのがあって、「女の子が何か叫んでいる絵が入っています」と入れるとしますね。そうすると、入れたものをそのまま読み上げてくれる。
教科書には、いろんな情報があると思うんですけれども、「絵で縄跳びを飛んでる男の子がいます」とか、そういった全体の説明を入れられる、ということなんです。教科書自体も ISBNコードが付いているので、基本全部登録ができるんです。
菊田 すごいですよね。ということは、全国の誰かボランティアが手分けしてテキストデータをクラウドにアップロードして、音声データを修正すれば、教科書だって読み上げが可能になるということですね。
黒澤 そうです。 先生とかボランティアが、この本をこういうふうに読んでもらいたいというのがあったら、それを登録していただければ、全国でその通りに読んでくれます。
武井 その審査に通った音声データは、皆でシェアができるんですか。
黒澤 できます。全国でできます。
武井 では、自分の子供のためと思って、例えば6年生の国語の教科書の上巻を全部やったとしますよね。それが審査で通りますよね。そしたらその6年生の国語の教科書の上巻をみんなが共有できるんですか。
黒澤 はい。できます。皆が共有できます。
武井 すごい!!
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次回は、8月1日会員限定公開です。
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どうぞお楽しみに。
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