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【大学】新しい体験、そして学び会う喜び
菊田 大学生活のなかで日々、支援の内容が充実して支援自体が成長していくようですね。
律くん そのときどきで先生との間でオーダーメイドで。例えば体育はフットサルの授業を取ったんですけど、雨の日は外でやれないじゃないですか。でも、体育館に僕は入れない。
菊田 音が共鳴するからね。
律くん はい。だから相談して、図書館での調べ学習で代替することになりました。運良く雨が降ることがなかったのでそういうことはなかったですが。
菊田 じゃあ、フットサルにも参加していると。
律くん この学校には屋外フットサルコートがありますので。
菊田 すごーい。共鳴しない環境でスポーツもできている、と。
光さん なかなか体育は難しいんですよね。奥行きが見えなかったり、大勢の人数でやるものはちょっと音がきつかったりとかで、できるものが少ないんです。
律くん フットサルはちょうどよいです。
菊田 大きさが? 人数はどれくらい?
律くん 20~30人くらい。5、6人のチームを4チーム作って、二つのコートで5人5人です。なのでそんなに多くない。
光さん それくらいだと見えやすいんです。ビブスを着たりはするんですけど、相貌失認だと敵味方を見分けるのがやっぱり難しいらしくて。
律くん 人がごちゃごちゃしているとたいへんなので。
光さん 体育は配慮がけっこう難しくて、高校でもたいへんでした。
律くん 例えば野球はできない。それこそ奥行きが大きいので。あと用具の問題もあります。とてもじゃないけど、利き手じゃない方の手にあんなでかいグローブをしてボールを取れる気がしません(笑)。
光さん 協調運動障害があるので「投げる」とか「走る」という動作が苦手なんです。それをやると疲れてしまいますから、なるべくやらないようにしています。
律くん 「蹴る」「打つ」はなんとか。だからラケット競技もできなくはないんですけど、バトミントンと卓球は体育館でやるから入れないんです。
菊田 あら~。じゃあフットサルはすごい良かったんですね。
律くん そうです、非常に。チームでできますし、フットサルを続けてできたのは良かったです。
光さん いっぱい科目があったおかげでヒットするものがあったのも良かった。
菊田 スポーツが楽しかったってことですよね。やってみたら楽しかった。他にもこの大学に入ったらできた、という体験はありますか。
チームでの共同作業
律くん 基礎ゼミナールっていう必修の授業があるんですが、これは班ごとに分かれて調査や研究をしてプレゼンテーションまでやるんです。
菊田 けっこうな人数なんですか?
律くん 1班4人で、6班24人です。学部が違う人たちが集まってるんですが、発表のためには話し合いが必要ですよね。そのためには発言しなくちゃならない。24人がいっせいに話すところに僕はいられないので、うちの班だけ場所を変えてもらったりしました。それ以外のときにはアプリで話し合ったり。
菊田 へええ。
光さん 先生が紹介してくださったアプリでログを取りながら話し合いをしたり、プレゼンのスライドを一緒につくったりしてました。
律くん テクノロジーの進歩ですね。聴覚記憶が良くないので普通の話し合いだとぽろぽろ抜けていくんですけど、アプリを使うとログが文字で残るので。先生が紹介してくださってありがたかったです。
光さん おかげでできたんじゃないかな。どういうわけか、律が班の筆頭になっちゃってますけど。
律くん 良くあることです。なぜかいつの間にか筆頭になっている。
光さん 考えることがちょっと違うからかな。ふつうは先生が話されたことを元に発表するじゃないですか。でも、律はチョイスの仕方がちょっとずつ変なんでしょうね。他とかぶらない(笑)。それで筆頭になったみたいです。リアルにやっていたら筆頭なんてとてもできなかったと思いますが、アプリを使えたので。先生がそういう方法を紹介してくださってよかったです。本当にそういうことをしてもらえるんだなって、ありがたかったです。
菊田 本当ですね。
光さん 高校でも発表はしたんですけど、チームではなく個人の発表でした。ここで初めてチームでさせていただいて。おかげさまでいろんな経験をさせていただいております。
三田さん 後期についても演習の授業はTAの学生(院生)さんが必ずつくことになっています。
律くん 講義には演習で事前に解いてきた問題の解答を書き出すっていう授業があるんです。前に出て、僕が書かなくちゃならない。
菊田 それを代筆してもらうんですね。
律くん それも、先生にではなく生徒にしてもらいます。
三田さん 前期は同じクラスの子に書いてもらっていましたね。
律くん そうですね、クラスメートに。その辺にいる生徒に依頼して書いてもらったり。
菊田 じゃあ、誰でも書いてくれるっていう感じですか?
律くん そうですね。テフの元の形式では読める人が少ないですから、コンパイルしたPDF形式のものを見せて、これを書いてくれ、と依頼してました。
光さん みなさん、書いてくれるようになったそうですよ。自分から「やろうか」って言ってくれる子もいたみたいです。
律くん (代筆が必要だろうなっていうのを)みんなわかっていただいて。
光さん 手を挙げて当たったら、「あ、あいつが書くから一緒に行こうか」って言ってくださる。相貌失認なので誰かわからないんですけどね(笑)。いつも同じ人がしてくださっているのか、違う人なのかはよくわからない。
菊田 律くんほどひどくはないんですけど、わたしも相貌失認なんです。名刺をもらうと名刺に人格が見える感じがするの。そうすると覚えていけるというか。でも、顔は覚えられない。会ってもわからないんです。
光さん 律は性別も怪しいみたいですよ。私も三田さんってどんな方?って聞いたんだけど、全然わからない。どのくらいの背格好? 髪長い? めがね掛けてる?って聞いてもいっこうに答えてくれなくて。…すみません、先ほどはご挨拶が遅れて失礼いたしました(笑)。
三田さん いえいえ(笑)。たまに律さんに学内で会ったときに挨拶しても、よくわからないみたいな感じだったので、あれ?って。急に声をかけてビックリしたかな、って思っていたんですが、顔がわからないんですね。
菊田 わからないんです、相貌失認って。会ったかどうかもわからないです。会って認識ができたら挨拶するけど、認識ができてないんで挨拶しないんですよ。
三田さん そこまでは聞いてなかったので(笑)。
光さん しかも、聴覚過敏で遠近もわからないので、どこから声を掛けられたかもわかってないんです。
菊田 だから後ろから声を掛けられても誰からかがわからないんですね。
律くん 方向はわかるんだけど、遠近がわからない。だから向こうの人が言っているのか、手前の人が言っているのかがわからないんです。
光さん となりでこんにちはって言われても、向こうの人がたまたま違う人に言ったのを拾っている可能性があるので返事をしないことが結構あるみたいです。
律くん (声をかけられても)確証がもてないのであいまいな返事になってしまうことがけっこうあります。
菊田 うちの息子は時系列についても同じことをいいますね。時系列がないんですって。全ての記憶が同じ濃さで並んでいるそうで、だからそれを時系列で追えないらしいです。
光さん 律もそうです。いつ何をやったかがわからない。すみません、律も三田さんとお会いしてたのに失礼をしていたんですね!
菊田 よかったですね、ここでわかって(笑)。でも、伸びやかに学ばれていること、そして大学が楽しいっていうことが、何よりうれしかったです。
人との関わりのなかで学ぶこと
光さん 本当に毎日毎日、授業が楽しいようで、こんなことがあった、って話を聞かされます。
律くん とりあえず話しておかないと、自分で整理するために。
菊田 なるほど。今日どんなこと学んだとか、どんな学びがあったとか。
光さん 先生がこんなこと言ったとか。でも、けっこう授業と関係ないことをいっぱい聞いている気がします(笑)。
律くん 先生が授業で余談としてはさんだ面白話みたいなのも。
菊田 それ、同じことを言っていた子がいました。中学生で支援がうまくかみ合わなくて辛い時期があったんだけれど、それでも「僕は不登校になるつもりはない」って言うんです。なぜかというと、授業中の雑談を聞きたいんですって。雑談を聞くために学校に行きたい、ってその子は言ってました。
律くん わかります。高校に入って初めて授業で先生の余談を聞いたんです。やっぱりこれは他にはない。自分では考えつかないことですし、通信教育ではそういう話は絶対に聞けないし。
光さん あと、他の生徒の話っていうか、解いていったものとかを見られるじゃないですか、それも大きいようですね。
菊田 学び合いですよね。要は学生たちとの学び合い。
光さん 仲間って言う意識はないかもしれないけど。
菊田 ないかもしれないけど! でも、やっぱり集団の中で初めて学べることってたくさんあるじゃないですか。こういう子たちって一人になりたいかと思いきや、そうじゃないんです。好んで一人でいるわけじゃなくて、本当は学び合いたい。環境が整って、支援さえ得られたら、本当は学び合っていきたいんだ、ってことを社会に伝えたいんです。
光さん 感覚過敏もあるので、一人でいざるを得ないときもあるんですけど、いつもいつもそれを望んでいるわけじゃないんですよね。人との関わりのなかでいろんなものを刺激として入れていきたいし。
律くん 学校の授業で周りから聞こえてくるさまざまな情報、それは絶対に一人ではできない。自分だけで勉強していては得られないものですから。うまくいかないことも多いですけど、楽しく勉強していきたいですね。
障害の当事者として
律くん 学び合いと言えば、障害福祉論というのを取っているんです。
菊田 面白いんですか?
律くん ええ。社会福祉士の資格を取ろうっていう人が受ける授業だと聞いて、障害の実例として会いに行って見ようかと思って取ったんです。前期はたまたまその時間に社会福祉学教室の必修の授業が他に入っていて、社会福祉学教室の生徒がいなかったんですけど(笑)。
光さん でも、先生も初めて見る書字障害児だったんですって。それで律が前に出て体験を話して、先生がそれを補足してという授業をつくっていただいたそうです。
律くん 特別支援学級に小・中といて大学まで来た人を見たのは初めてだったそうです。それで先生も興味をもってくださって。自分が書いたものをレポートとして出したり、授業で他の生徒に向けて「こういうことがあるんだ」っていう話をしたり。
後期も続きの授業があるんですけど、今度は社会福祉学教室の生徒もやって来るそうです。そこに障害の当事者が一緒にいるのはどうだろう、って。
菊田 楽しみですね。それこそ学び合いができそう。
光さん 当事者として周りの人たちと積極的に話をして、そして実際にこうした分野に関わっていこうという人たちと一緒にやっていきたい。そんな気持ちが律にはずっとあったんですが、でもまさか、大学でできるとは思いませんでした。
律くん 数理科学科に入っておいて何ですけど(笑)。
菊田 いいと思いますよ! 私、律くんは希望の星だと思うんです。将来的にはどういう道を目指してらっしゃるんですか?
律くん 将来的には…さっぱりわかんないですね(笑)。
菊田 まだこれから?
律くん 知識を得たいんです。だから数学と一緒にそういう文系の講義を入れてみたりとか。一生そういうふうに学んでいけたらいいですね。
菊田 いつも知識を吸収できるような立場にいれたらいいなってことですね。
光さん 浪人していた去年は本当につらかったですよ。律はいつでも新しい知識を必要とする特性があるのですが、浪人すると受験勉強のやり直しでそれが入ってこないので。いちばんきつかったと思います。
律くん 1度で済んでよかったよね。
菊田 よかったですね、1年で終わって。そしてご縁があって 今、この大学で楽しく毎日をすごしていらっしゃる。
律くん そうですね。新しい知識をいろいろ得られて。専門の人たちが大勢いるわけですから。
菊田 夢は広がっていきますね。今日はすごくいいお話を伺うことができました。ありがとうございました。
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