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【大学】毎日が楽しい。病欠以外の欠席はゼロです。
配慮は授業以外の場面でも
菊田 入学して半年、大学での生活はいかがですか。人混みがとても苦手とか、特別な部屋が必要だとか、いろいろ配慮が必要だと思うのですが、ふだん大学ではどんなふうにしてもらっているのかを教えてください。
律くん そうですね、授業での配慮については先生と話し合いながらになるので、授業によって変わってきます。参加する人数もまちまちですし、教室の大きさもそれぞれ。授業のスタンスも全然違いますから個別に対応しています。
数学だったら課題提出ですね。テフをコンパイルしてPDFにして渡すものと、そのままテフの形式のままで出すものとあります。iPadではコンパイルできないので帰宅してパソコンから送らないといけない。ですから、帰宅後では間に合わない場合はテフで提出します。
あと、「これ以上はちょっと危険だな」と思ったら待避できる場所を探しておくとか、休み時間にはちょっと静かなところに行くとか。
菊田 そうしたことは自分から先生にお願いされるんですか?
律くん 先生と話し合いです。でも、いきなり授業に行って「こういうふうです」って言うのはたいへんなので、「こういう障害をもった生徒が先生の授業を受けたがっています」というお話を最初に大学から先生方にしていただいています。授業については教務課がハブになっていて。
菊田 窓口となってコーディネートしてくださってるんですね。そのうえで必要があればご本人と先生とで直接お話し合いの場をもっていただく。そのあたりのお話をお伺いできればと、東京都立大学(*注)・学長室の三田祐樹子さんにお越しいただきました。どうぞよろしくお願いいたします。
三田さん よろしくお願いいたします。本学にはダイバーシティ推進室というものがあって、そこに障害をもつ構成員を担当する特任研究員がおります。相談等はその者が受けていて、私は事務的な面を担当しています。
(金坂さんについては)学期の始まる前に先生方に「こういう学生さんがいらっしゃって先生の授業を受けたいと言っています。これこれこういう配慮が必要です」という話を学長決定を取って文書を回しています。「金坂さんのアドレスに事前に資料を送ってください。配慮の内容については直接ご本人とコミュニケーションを取ってどんどん変えていってくださってかまいません」ということも年度当初にお伝えしています。
光さん 私達からすると教務課の方と三田さんと、窓口が二つになっています。授業に関することは主に教務課の方が、それ以外にサポートしていただく必要があるときは三田さんが担当してくださいます。例えば直近だと10月14日は祝日なんですけれど授業があって、そうすると最寄りの南大沢駅から大学に来るまでの間にアウトレットモールがあるんですが、そこが混むんです。
菊田 それはたいへんなことになりますね。
光さん 律は人混みだと通れないので車での送り迎えが必要になってしまいます。そのときに裏口から入れるようにしていただいたり、駐車場を確保していただいたり、そういうことを三田さんにお願いしています。
三田さん そういう細かいことを私のほうではしています。体育の授業のときの着替えの場所などもそうですね。
菊田 そうか、体育の着替えも配慮が必要ですね。
光さん ロッカールームは狭いし音もけっこうするので使えなくて。場所を貸していただいたりしています。
律くん 混雑して騒がしくなるので、今いるこの部屋で着替えさせてもらっています。
菊田 じゃあ、ふだんはこちらのお部屋で過ごされているんですか?
律くん ここはふだん授業を受けている1号館からちょっと遠いので、だいたい1号館の廊下辺りで待避していたり、「この辺は空いてるな」というところを見つけて過ごします。昼食の時間も人の少ないところへ移動して、そこで食べています。
光さん 基本的に午後から登校できるよう履修しているんですが、時間割の関係で週1回だけ学校で昼食を取っているんです。
律くん 今年は微分積分の授業が1個だけ午前中にあるんですが、今後の授業に関わってくる(必修)のでそれだけはどうしても取らなくてはいけない。そのために週1回、午前中から通っています。本当は午前中の授業がもっとあるんですけど、体調管理ができないということで履修を後回しにさせていただいてます。つまり、落とさせていただいてます。
三田さん 未履修の場合は来年か再来年その授業を受けるんですが、再履修のクラスは時間が午後になるところもありますので。
菊田 なるほど。1年生は割と午前に授業が組まれてたりしますものね。
律くん それで来年度の午後の再履修クラスを取ろうと思っています。
菊田 そういうことは最初に教務課と話し合って決めるわけですか。
律くん そうです。時間割を組む段階で(各授業の先生に必要な配慮事項を伝達してもらうため)他の生徒が履修科目を決めるよりも早い時期から相談しながら決めていきます。
授業が盛り上がりすぎたときは
菊田 今、何コマ取られているんですか?
律くん 前期は10個です。本当は13個あるんですが、午前中の授業を3個落としています。一応、戦略的にそこは休むということで。
菊田 10コマだと1日に2コマですね。登校はできていますか?
光さん なんとか。試験の日に熱を出した以外、欠席はゼロです。
菊田 それはすばらしいです!
光さん 楽しいんだそうです。
菊田 楽しい! そこが何より大事なことじゃないですか。その「楽しい」についてちょっと聞きたいな。
律くん 興味のある授業しか取っていないので、それがやっぱり大きいですね。
菊田 大学はそうですよね。学ぶっていうことが楽しいんですね。例えばどんな授業を取っているんですか? 何がいちばん好き?
律くん それがいちばん難しい問題ですけど(笑)、時間割のはじから行くと月曜日の3限目に言語と文化の授業を取っています。
菊田 どんなことをやるんですか?
律くん 社会言語学の話なんかです。世界にはどういう言語があって、どういうふうに使われているとか、社会における言語の役割とかそういう話をしている授業です。その次の4限はラテン語を取りました。
菊田 数理とはちょっと関係ない感じですね。
律くん そうですね。必修以外は理系の授業を取ってないんです。今年は理科、取っていないです。(実験などへの参加が難しいため)取らないで済むなら取らないで行きたい(笑)。ラテン語は第二外国語です。第一外国語は落としてますけど、英語です。
光さん どうしてラテン語かというと、発語しないから。
律くん 誰もしゃべらないじゃないですか、ラテン語。てなると、発音練習の必要がない。比較的、静かにやれる。
菊田 そうですね、聴覚過敏があるとみんなで発声練習やったりしたら、ちょっと耳にね。
律くん あと中国語、韓国語、アラビア語あたりと違う点として、パソコンやiPadに新しいキーボードを実装しなくて済みます。アルファベットですから。
菊田 なるほど~。
律くん そういう理由でラテン語を取りました。あと、こっそり言うと、人気もないだろう、あまり人も多くないだろうと。ドイツ語やフランス語だと人が多くなりますから。
光さん でもラテン語、楽しいらしいです。ラテン語は変化形が多いので途中で脱落していく方も多いそうなんですけど、律はそれも含めて楽しいんですって。もともと言語とかに興味があるので。
菊田 他にはどんな教科を?
律くん 数学は2個、微分積分と線形代数が必修なので取っています。意外だったのは、授業中けっこう生徒が騒がしくなるときがあるということ。今までは理数科といってもふつうの高校でしたから、数学を嫌がる人もいたりして授業は静かだったんですが、大学の数理科学科となると数学が好きな人しかいないから、ヒートアップするんです。
菊田 数学の話で盛り上がっちゃうわけですね。やっぱりそうなると音がきつい?
律くん そうですね。教室にいられない時間もあったりします。
菊田 盛り上がるのは盛り上がるので困るのか…。
律くん そうですね。そういうときはちょっと先生に注意してもらうとか、あるいは自分が外に出るとか。
光さん でも、あんまり出て行くと授業を受ける時間がなくなっちゃいますよね。それで頑張っていたら家でとうとう倒れたことがあって。
律くん それで、ちょっと困ってます、という旨の文章を先生に送り、対応していただきました。
光さん 先生は本当は盛り上がっているのを楽しく授業を進めていかれたいんですが、ご理解いただいて「少し注意する回数を増やすよ」っておっしゃってくださって。先生方はみなさんメールアドレスを持っていらっしゃるので、そういうところは個人的にやりとりをさせていただきました。
律くん 対話を含めた授業を、というのが先生の立場ですから。なので、ときどきヒートアップしすぎるときは外に出てしばらく待っていたりとか。解説だけ聞くためにするっと入ってまたするっと出て行ったりとか。
菊田 こっちもしのぎ方をだんだん身につけながら、という感じですね。
律くん そうですね。ここはちょっと外に出たほうがいいかな、という見切りというか見極めは重要になってきます。
菊田 それって生きていく力ですよね。
光さん 実際に倒れたのは学校ではなかったんですが、あまり続くと学校に行くモチベーションが下がってしまうので、たいへん申し訳ないのですが学校には細かく何回もお願いしました。
菊田 そういうことは早めに対応したいところですよね。
三田さん そうですね。私は間に入ってアレンジしただけなんですが、補助のTA(ティーチングアシスタント)の先生をひとり付けてもらったクラスもありますし、後期からは演習の授業にTAが入ってディスカッションが盛り上がって騒がしくなりすぎないように周りで見てもらったり、課題の解答の板書代筆をしてもらうことになりました。
光さん そうなんですか! ありがとうございます。授業の様子は律から聞き出せないのでそういうことは私は知らないわけです(笑)。
大学での支援の模索
〜三田さんからのコメントより
ご承知のように、合理的配慮は困難に向き合うご本人に対してのオーダーメイドの配慮ですので、提供する側とされる側の試行錯誤が必要になります。その点で、特に数学の演習の授業でのTAの配置の部分は、いろいろと試行錯誤を重ねた結果です。
もともと本学では障害者支援スタッフとして学生に有償ボランティアで車いすの学生の移動支援や、聴覚に障害を持つ学生の授業中のPCテイク等をやってもらっています。
金坂君は黒板に課題の解答を書くことができないため、当初は代筆する支援スタッフを手配することを予定していました。
ところが、金坂君の黒板の代筆はTeXのわかる学生が支援スタッフにいなかった上に、いつ先生に当てられて解答するかがわかりません。
そこで、苦肉の策として、同じ授業を取っている数理科学科の1年生に金坂君から依頼して代筆してもらうこととしました。
しかし、授業の中で金坂君がTeXを使って解答の修正をするときなど、その場でコンパイルできず学生の代筆が困難な場合は、担当の先生が代筆することになりますし、また、ディスカッション中は学生がヒートアップしすぎて大声を出したり、議論が脱線しないよう注意する必要もあり、担当の先生の負担が大きくなります。そのため、担当の先生からの要望もあって、TAの配置をすることになりました。
試験的に前期の1コマだけTAを配置してみたところ、ほかの先生方もぜひTAをと依頼があり、後期からは演習の授業2コマにTAを配置することとなりました。
TAは静かにするための注意だけでなく、黒板への代筆や、金坂君にかかる時間の分ほかの学生への指導が足りなくならないよう全体を見て授業の補助をしてもらうようつけています。
*注.2020年4月に大学名称を、「首都大学東京」から「東京都立大学」に変更しております。
次回は、今シリーズ最終回です。
5月1日会員限定での公開になります。どうぞお楽しみに。
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