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律くん 受験では1回すべって浪人しました。でも、もう1回こちらの大学で、となって、そのときも高校の先生にはだいぶ協力していただきました。
光さん すべった理由が、実は「問題が見えない」ということだったんです。
律くん 数学の図形の問題が、空間認識能力の低さから認識できませんでした。要するに、どういう図形か理解できていなかったんですね。
光さん 律は視覚過敏もあって、立体図形を認知できないんです。立体図形の線が全部、ただの線の重なりにしか見えないんですね。
律くん もともと遠近感がほとんどないので立体図形のイメージを思い浮かべることができない。
光さん きっと律は生まれてこの方、立体図形というのを見たことがないんですよ。というか、立体として見ていないんです。
律くん (自分の中では立体図形は)存在しないんです。立体図形のイメージを頭の中に思い浮かべることができない。だから立体図形の問題が出たら計算だけでどうにかしなくてはなりません。
菊田 へええ!
光さん 見たこともないものを下敷きにして考えることはできないですから。でも、とりあえず計算式、というやり方をずっとしてきて、高校時代も図形の問題はそうやって解いてきたらしいんです。
律くん そういうわけで図形の問題がちょっと読み切れなくて、1回すべってしまったと。
菊田 では、2回目の受験のときはどんな配慮を?
光さん 在籍校だった高校の数学の先生にもご協力いただいて、「図形が見えないので、そういう問題については免除いただけるようにならないか」といってお話し合いをいっぱいしていただきました。結局は「そういう免除はできません」っていうことにはなったんですけど。
菊田 でも、お話し合いは何回もされたんですね。
律くん 2年2回分なので、かなり。数学の問題だけでもけっこう多いです。
光さん 今お話しした数学の図形認知の問題については、1年目の受験中に初めてわかったので2年目からだけでしたが。
菊田 多くの事例を見聞きしますが、入試の配慮申請をしてから話し合いをもつということがそもそも難しいんです。配慮申請しても却下されるとか、申請しても一部しかOKをもらえないとか。話し合いにすら至らないというケースが大多数です。
本当は合理的配慮というのは、こっちができることと先方ができることのすり合わせというか、建設的話し合いの部分がいちばんの味噌なんだけれど、入試ではほとんどの事例で建設的話し合いの部分がゼロっていうのが実情です。
なので、2年にわたり建設的な話し合いが行われてきて、その結果、律くんにできるだけフィットした配慮が行われたってことは奇跡にちかいと思います。だからぜひ、そこを伺いたいです。具体的にはだいたい何月くらいからどういうアプローチをされましたか?
光さん 最初は2年生の春休みにこちらに伺ったんです。
菊田 そのときこちらの大学に決められたんですか。
律くん 実際には他にもいくつか大学を見て回りました。でも2年間見て回って、配慮OKと言ってくれたのはここだけです。最初に受験相談で「こういう障害をもっていますけれど、受け入れる準備はありますか」と聞いたのですが、ここ以外はNOでした。
菊田 わかります。うちも高校入試がそうでした。受けさせてくれたのは2校だけでした。
光さん 実は高校は3年で卒業するつもりはなかったんです。睡眠障害があって午前中の授業は出席できないので単位数が足りないだろうって思ってましたから。入学したときも高校側から「6年をめどに出ましょうね」と言われていましたし。
律くん ところが統廃合で高校の在籍学科がなくなることになり、3年で卒業しなくちゃならなくなってしまいました。それで、2年の春休みに急遽、大学を回ることにしたんです。厳しいのはわかっていたので、手当たり次第じゃないですけど、とにかく行けそうなところ。感覚過敏でも使える路線の沿線にあって、何分以内に行けて、そして理系で、って探して。
菊田 探し方がうちと同じ。電車にあんまり乗らないで、通学の負担が掛からないようなところですよね。
律くん それで、「こういうふうな者です。こういう障害があります。受験相談に行きたいです。よろしくどうぞ」とメールを出します。まず最初は春休みに3件くらい。
光さん で、レスポンスがいちばん早かったのがこちらの大学で。ものすごく早かったです。3日くらいで返信が来ました。他の大学はやっぱり、そういうメールが来ると慌てられるんだと思うんです。「障害か。字が書けない子が受けるって言ってるけど、どうする?」って感じだと思う。
菊田 「わわわ!」ってなるんですね。
光さん そういうのがピリピリ伝わってくるんですけど、首都大さんはすぐに入試課からメールで返信が来て、「じゃあ、いつ相談にいらっしゃいますか?」っていう感じでした。
菊田 どう思いました?
律くん びっくりしました。
光さん 早っ!て(笑)。後になって他の大学がみんな遅いっていうのがわかるんですけど、首都大さんはとにかく早くてどんどん話が進んでいくわけです。
律くん トントン拍子でしたね。
光さん 「いつにしますか」「じゃあ、何時に話し合いを」ってトントントンって進んでいきました。他の学校さんは「まあ、来てもいいけど?」っていうところもありましたけど、なかなか具体的な日程調整に至らない、そもそも返信が来ない、っていうのが多かったです。
菊田 わかります。
律くん 「どうなってるんですか?」って聞いても、「今ちょっと他の課に回ってますんで」ってたらい回しにされて毎回、問い合わせ先が違うみたいな。でも首都大さんは「字が書けないんですけどパソコンで勉強はしてます」って話したら、「じゃあ、パソコン利用入試ですね」っていう感じで、さらっと。
菊田 ほんとですか!「さらっと」ってすごい安心感ですね。
律くん です!
光さん 「パソコン利用入試」っていうことばもふつうは出てこないのですが、こちらの大学ではさらっと入試課の方がおっしゃって。「ええ!」って。「していただけるんですか?」って言ったら、「もうやってますから」って。「実績があるんですか?」って聞いたら、「去年やりました」って言われました。
そして、「これがうちのパソコン利用入試のやり方です」って資料を持ってこられて、こういうふうにやります、って説明してくださいました。
菊田 それは2018年のことですか?
律くん 17年の3月。僕が高校2年生のときです。
光さん 「これでいいですか?」って聞かれて、いいですも何も、やらせていただけるんだったらって。「首都大さんを第一志望に考えます」ってなりました。
律くん その後2年間、他の大学を訪問して回ったんですけど、どこも受けてはくれませんでした。なので、2年連続で単願でした。
菊田 単願なんだ。受験させてくれるところが見つからなかったんですね。はあ~、わかります。
光さん 私立大学で「受けてもいいけどね」っておっしゃるところもあったんですよ。要するに、センター利用入試で受けてもいいです、っていうところはあるんです。でも、「自分のところでは配慮はしません」と。
菊田 ああ~。
律くん 「二次試験では一般入試を受けてもらっては困ります」って言われるんです。つまり、受けられる体制はないということです。センター利用入試は千人規模で応募が有りますが、枠は2~3人なので。
菊田 ほぼ受からないですよね。
光さん でも、「それしかないですよ」って言われるんです。「どこに行ってもそうですよ」って。確かにどこもそんな感じでしたけど、この大学だけは違いました。相談に伺った時点で、すでにパソコン利用入試の手順がフローチャートでできあがっていて、実際に受験したときもその通りに行われました。2年間受けましたけど、2回とも同じようにさせていただきました。一切変更はなかったですね。最初の打ち合わせ通りでした。もうすっかり固まってらっしゃる。
菊田 配慮はPCだけですか? 時間延長は?
律くん 高校のときもそうだったんですが、時間延長は数学だけもらいました。入力で時間がかかるのと、計算過程がないため見直しのときにもう1回計算しなくちゃならないので。
光さん メモがないので一からもう1回計算し直すんです。
菊田 計算は全部、頭のなかでするってこと?
律くん そうです。基本、暗算です。だって、メモできないじゃないですか。
菊田 できないですねえ。
律くん だから1.3倍の時間延長です。
菊田 それは申請も1.3倍ですか?
律くん センターでは今、1.3倍が最高なので、それに合わせて高校でも定期試験では1.3倍にしていただいてました。それで高校で実績をつくって申請しました。
光さん 高校に入学して最初の中間テストでは延長しなかったんです。そうすると最後まで解けないんですね。で、「最後の問題まで行かないんです」って担当の先生にお話ししたんですが、はじめはやっぱりご理解いただけなくて。「どの子もたいへんだから最後まで行かない子もいますよ」みたいなことを言われました。
菊田 そうなりますよね。うちも同じでした。
光さん けれども理由を一つずつ説明して、「全部計算し直します」「手数も見てください」「これだけのことをしなくちゃいけません」っていうのを見ていただいたら、なるほどこれは大変だ、ということになって。高校では1年前期の期末から1.3倍にさせていただきました。
律くん この問題が顕在化してきたのがその頃だったんです。中学まで、計算では特に問題なくやれていたから気がつかなかったということですね。
光さん でも難しくなってくるとやっぱり配慮の必要性が出てくる。ふつうの中学から理数科に入って、いきなり問題数も内容も濃くなるので、どの子もたいへんはたいへんなんです。律の場合はその上、手数の問題とかが出てきて、しかも同時に数学の先生からテフ(TeX。数式を書くためのソフト)も習っていたので。テフってとっても時間がかかるんですよ。
律くん テフはきれいに数式を書くためのソフトであって、手早く書くためのソフトではないですから。「1/2(2分の1)」って書くために、ふつうだったら3文字で済むけれど11文字必要です。「\、f、r、a、c、中括弧、1、中括弧閉じ、中括弧、2、中括弧閉じ」と書きます。
菊田 それでやっと「1/2」になるんだ。なるほど~。
光さん ノートを書くときもそんな感じ。高校では試験はワードでやってました。今、大学ではソフトは何を使っているんだっけ?
律くん (高校も大学も)入試はワードでしたが、大学に入ってからはすっかりテフだけになりました。ノートも試験もテフです。ワードでは書けるものに限界があるということで、高校1年前期の中間試験の後からテフを使ってきて慣れていたので使えています。(打ち間違いによる変換ミスや記述・変換に時間がかかるなどの理由で、高校の定期試験ではテフを使っていない)
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菊田 中学か、それとも高校かな、律くんを撮影した映像を見たことがあります。iPadで何か書いている姿を何回も何回も見ました。あれはフリック入力ですか?
律くん キーボードだと思います。僕、フリック入力はからっきしだめなんですよね。
菊田 数学の授業もiPadでノートを取ると思いますが、特殊記号などはどうされているんですか?
律くん それは、例えばルートだったら、こんなふうに数字や文字を入力します。【実際の入力例】このままの状態では数学の答案には見えないんですけど、これを「コンパイル」するとふつうの数式に見えるようになるんです。
菊田 ルートみたいな特殊記号がふつうの形に変換されるってことですか?
律くん 入力はテフ(TeX)という形式というか、文字の書き方を使っているんですが、それをテフのコンパイラ(ソフト)で変換すると、ガチャンと式になって出てくる。つまり、入力する文字や数字はプログラミングのコードみたいなもので、それを直打ちしてるんです。
菊田 今のお話をそのまま息子に伝えればわかるかしら? 息子は高校2年生なんですが、数学も物理も手で書いているんです。特殊記号がなかなか出せないので手書きなんですけど、いずれ行き詰まっていくだろうと思っていて。なかなかいいものにたどり着けなかったんですが、この話を教えていただけてよかったです。
ノートテイクや試験などにパソコンを使っていると、特に数式などで特殊記号の入力で壁にぶつかってしまうケースがあります。高校の理数科に進んだ律くんも、そのせいで高校のうちに行き詰まるだろうと言われたそうです。「そんなとき、先生がテフを教えてくれたんです」と律くん。1学期の後半くらいから先生についてテフを習い始めました。「高校は理数科だったので数学では毎週毎週、膨大な宿題が出るのですが、それを遅らせてでもテフをマスターしましょう、と専科の先生に仕込んでいただきました」。
現在、進学した大学でも課題などはテフで入力したものをコンパイルし、さらにPDFにして提出しているそうです。
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