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今回は、SBプレイヤーズ株式会社が運営するハイブリッド・キッズ・アカデミー(以下、ブリキッ)の経営企画部CSRグループのグループマネージャーである佐藤里美さまにお話を伺いました。
佐藤 今日お越しいただいたハイブリッドキッズアカデミーのことを、略して「ブリキッ」と呼んでいます。ここでは、テクノロジー(パソコンやタブレットなど)を活用して、読み書きなどの学ぶ上での困りごとを解決する学習法を教えています。良く間違われるのですが、教科学習や勉強を教えるところではありません。困りごとに合わせたテクノロジーの使い方を指導しています。
菊田 どのような子ども達が通ってきていますか?
佐藤 生徒は、読み書きに困難がある学習障害(LD)を抱えているか、あるいは、診断はなくても読み書きにつまずきを感じているなど、困り方はそれぞれ異なりますが、なんらかの困りごとがあって通ってきています。
菊田 困りごとは、とりわけ「読み書き」に関しては本人も保護者も気づきづらいところがあるように思いますが、ブリキッでは困りごとに対して、どのようなスタンスでおられますか?
佐藤 理由はいろいろあるにしろ、読み書きだけではなく、学ぶ上で困りごとがある子たちがいますよね。
たとえば、近眼で視力が元々あまり高くないっていうお子さんとか。
そういうお子さんは、矯正して初めて標準的にこのぐらい見えてるんだって分かるわけじゃないですか。でも生まれつき視力があまり高くないとしたら、それがその子にとって見えにくいという状態がスタンダードなわけで、それで本人は、「みんなも同じだろう」という風に思って進んでいくわけですよね。だけど、他の子にはできることが、その子にはできないということになってしまって、その時に違いが分からないから、「何とかしよう」と本人はすごく頑張っちゃうんです。ですが、「頑張ってなんとかなることと、なんとかならないこと」があります。そういったことが、読み書きとか学ぶ上でも、残念ながら出てしまうんです。
先生たちが標準に合わせて授業をされていても、たとえばクラスに35人いたら、同じ指導では、それでいい子も、どうやらダメな子も出てきますよね。そこで、「一体何がダメな原因なんだろう?」ということをちゃんと見極めて頂いて、それに対しての対応をして頂けたら一番良いんです。ただ残念ながら、「努力が足りない」とか、「怠けている」とか、指導法ではなくて子どもに問題(原因)がある、そういう方向になってしまう。あるいは、「それがその子の実態です」というような、「能力としてそこまでなんです」みたいになってしまうことが、残念ながらあります。
そういう意味で、ブリキッでは「学校の中では得られないことは、どこにあるんでしょう?」ということを評価させて頂いています。また今は、テクノロジーがとっても発達してきて、身近なものにもなってきました。なので、それで補えるところは補っていこう、と。そういったことをさせて頂いているのが、ブリキなんです。
菊田 どういった経緯でブリキッができたのですか?
佐藤 もともと、東京大学先端科学技術研究センターの人間支援工学分野の中で、そういった読み書きについての相談室がありました。読み書きに困難を持つ子たちがいるということと、じゃあそれをどうしたらいいんだろう、というところに、テクノロジーが作用していくんじゃないか、というベースがあって、私も長年その研究プロジェクトに関わってきました。
ブリキッは、その研究プロジェクトがきっかけで誕生しましたが、2013年から本格始動し、全国から生徒が受講するようになってきている現在、ブリキは独自に学び方への支援を提供できているところがあるのかな、と思っています。
苦手の部分を補うということは必要だし、その補いはその子自身ができることにしてあげた方がいいので、それにテクノロジーを使うことまでは一緒なんです。ただ、そこで終わりじゃないんですよね。
なぜなら、「学ぶ」というのは、単に読めればいいとか、書ければいい、要は出力入力ができればいい、ということではなくて、その子自身の学習観を養うことな気がするんです。「どういう風に、何から、どんな順番で学んで力をつけていけばいいのか」ということ。それをどんな風に子供たちに与えるのか、という時に、先生がその単元の学習の目当てを話して解説をし、それをノートテイクして、それがちゃんと理解できたかどうかの確認を行う――この流れというのは本当に良いものであるし、今の学校制度のように、一定のニーズを大多数に満たすためには、とても良くできたものだと思うんです。だからこそ、日本の学校、たとえば小学校を見た時に、どことどこですごく差がある、とかではなくて、一定の水準以上であるっていうものだと思うんですね。
ですが、学習障害のように、学び方に困難さがあって「そのやり方ではないやり方をする」という風になっていった時に、他の子とは違うその子なりの学習観、「こうやったらできる」というものを作ってあげないといけません。「音で聞けば読むよりも理解が早い」といったことだけでは無理だと思っています。なので最終的には、「こうやればできるんだ」というものを自分で持てること、そこまでをやりたいなと思っています。
ただ、ブリキッは学習塾ではないので、たとえば4年生の数学とか指導要領に沿った各単元の習得度をあげる、というようなことはしません。ですがそれに近いこと、たとえば「ここから重要事項をどういう風に把握するのか」とか、「それを自分の中でどうやって理解して残していくのか」といったことについてはサポートをしています。
子どもたち自身が、「自分にはこれが必要であって、このやり方であれば出来る」ということを見つけていただくこと。次に、「じゃあ、それをどう使う?」といった点が重要です。たとえば、いきなり学校に持ち込むのではなくて、自宅の学習で使ってみるとか、あるいは宿題で時間がかかったり、これではあまり意味がないな、というようなものを、違うやり方でやってみたりとか。またお子さんによって異なりますけど、「必要な部分にどんなふうにICT機器を持ち込んでいくのか」ということをやって頂きます。
またお母様たちには、「ブリキッで教わったことは本人が選び取っていくので、教わったからやれ、と強制するのはやめてください」ということをよくお願いしていますね。それと、「ちょっとできるようになったからと、それをすぐ学校に持ち込もうとするのもやめてください」とも言っています。ただでさえ大変なところに、あれもこれもと持っていくのは良くありません。そういうのは自然な流れで、他の子がやっているのとほぼ同じようにできるようになってからでないと。
菊田 同じ思いです。私たちもご相談に乗る時には、全く同じようなことを答えさせていただいています。
佐藤 そこまでいって、こんな時にこんな風に使うので、というのを学校にご相談したあと、学校で持ち込みOKというのを取ればいい、というだけではありません。「その使い方についてコントロールを先生がするのは避けてください」というお願いをしています。
菊田 「黒板のここだけは写真に撮ってもいい」とか、「社会の時間だけ使っていい」とか、そういうやり方ですよね。そうすると鉛筆とノートの代替としての意味がない、ということになってしまいますからね。
佐藤 もちろん、学校側にも色々心配することがあると思います。無くなったらとか、壊れたら、とか。ただ、文房具も同じように無くしたり壊したりすることもありますよね。だから、そういったことは出来るだけ無いようケアした上で、自然な形でその子の学びの道具として、必要な時に必要なだけ使っていただくようお願いをしています。
佐藤 その次の段階が、試験なんです。試験は、その本質のところになります。
菊田 その試験で何を評価するのか、というところですよね。例えば文字を手で「書く」というところを問いたいのか、理解度を問いたいのかといった、その試験の本質。
佐藤 そうです。なので、その本質を念頭においた上で、その子が使うテクノロジーの初段は、試験を受ける上で使うことの公平性がどうなのか、どういうやり方ならできるのか、現場での折り合いをつけていくということになります。通常はタブレットを使っているのだけども、「タブレットを使ったということだと、評価ができない」というような問題があるのだとしたら、あるいはそれを他の子と同じやり方でできないのだとしたら、「どんなやり方だったら可能なのか?」という折り合いをつけていただきたいです。いつもはOCRにかけて読み上げを使うけど、テストの時には先生に読んでもらうとか、そういったところも含めて方法はひとつではありません。その子に必要な支援ができさえすればいいので、「何がなんでもタブレットを使う」のではなく、「何が必要でどこまで折り合いをつけられるのか」というところを粘り強くやっていただかないといけないんですね。
菊田 それがまさに建設的対話ですよね。
佐藤 小学校だと先生はお一人だから、「じゃあ、やりましょう」となってあっという間に上手くいったりするんです。だけども、中学校になると先生が各教科ごとに違いますよね。なので、この先生はここまでやっていいと言ったけど、この先生はまったく受け入れてくれないとか、そういうグラデーションが残念ながらできてしまうこともあります。また、中学校は小学校と違って集中的な試験があります。その準備をしなければいけないのに加えて、そういった個々の教科での違いというところにも対応していかなきゃいけないのは、本当に大変だと思います。
菊田 そうですよね。確かにそういう建設的な対話を粘り強く続けていくというところが、まさに両者にとっても根気のいることです。けれども、私達はまた一方で、建設的な話し合いをしていく過程そのものも子どもの学びかな、と思っています。子供たちは、大きくなって社会に出た後に、セルフアドボカシーをして建設的対話をしながら、自分への支援を求めていくんだと思いますから、そこの建設的対話の経験そのものが教育かな、という風に私たちは思っているんですね。学校は、「そこまでが教育である」ということの認識を持っていただきたいな、とも思っています。
佐藤 そういう所も含めて、その子のアイデンティティが出来ていくと思っています。
菊田 おっしゃる通りです。
その前提として、「その子のありようを、そのまま受け止める」ということが、「その子の尊厳をそのまま認める」という事だということに、ぜひ学校は気がついてもらいたいですよね。簡単に「ダメ」と言うことは、その時点でその子の尊厳を否定しているんだ、ということに気がついてもらいたいな、と私たちは思っています。
佐藤 ただ残念ながら、担任の先生も管理職の先生も、そういったところに対してのご理解が低いという場合があって…
菊田 学習障害は意外と知られていない部分もありますからね。読み書きへの困難とか、「これが障害である」ということの知識さえ無い先生方が、まだ大多数でいらっしゃるので。
ブリキッでは近々成果発表会もなさると伺いましたが?
佐藤 はい。11月23日、仙台で『読み書きが苦手な子どもが楽しく学ぶにはータブレット活用の最前線―』と題して、平林ルミ 先生(ハイブリッド・キッズ・アカデミー講師/東京大学先端科学技術研究センター人間支援工学分野特任助教)に講演していただきます。
詳しくはこちら↓
お近くの方はぜひお越しいただければと思います。
菊田 さて次回は、ブリキッで受けられるアセスメントのお話やその子の課題の見つけ方など、具体的な内容についてお伺いしたいと思います。
佐藤 はい。
菊田 次回、ぜひ詳しく教えてください。
次回は、11月10日公開予定です。(あるよ会員限定)
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