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一般社団法人読み書き配慮
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貴子さんのお嬢さんは大学を卒業されましたが、社会に出られてどうですか? 学生時代とは違う難しさはありますか?
貴子さん 全く問題ないみたいです。やりたかった建築の仕事に就いて、今は技術職として施工管理、いわゆる現場監督さんと言われる仕事をしています。
唯一、ちょっと困るのが、朝礼のときメールで送られてきた連絡事項を読み上げなくちゃいけないこと。それ以外は特に困ることはないみたいです。漢字もいっぱい間違えるけどそんなには問題にならなくて、周りの人も「漢字、苦手なんだ」とか「ちょっとあわてんぼうなんだ」という感覚みたいです。仕事の書類も文字が多いとスマホをかざして翻訳ソフトで音声にして聞いています。
美保さん 紙の文書を読まなくても大丈夫?
貴子さん 大丈夫みたいです。基本的には声に出して読む必要は無いし、内容を理解すればいいらしいので。
美保さん 社会人になればスマホやタブレットを持つのは基本的に自由だから、そういうものをうまく使えば特別な配慮を受けなくても自分の工夫でなんとかなるということですよね。
夏野さん 自然と社会に溶け込んでいく感じがしますね。
貴子さん やっぱり専門に学んできたことなので知識的にも自信があるし、向いている仕事だったんでしょうね。同期で集まったときに、「こんなはずじゃなかった、やめたい」って言う子が多いらしいんです。何が辛いかというと、今までずっと机に向かって勉強していたのが、1日中うろうろしているというか、現場を歩き回らなくちゃいけない。いつになったら座れるのか、って思うんですって。でも、うちはちょっと多動傾向もあるので「うろうろしていてもいい」というのが、すごくいいらしくて。
夏野さん かえってよかった(笑)。
貴子さん やっぱり向いている仕事ってあるんだな、と思いました。
美保さん それを見極めるのも大切ですよね。
貴子さん 大学時代にいくつかアルバイトをしていたんですけど、バイト先ではとっても優秀って言われたり重宝されたりしたので、自分でも「就職は全然問題ないかな」という気分になっていたようです。仕事する方が向いていると思ったみたい。
美保さん うちは仕事は心配です(笑)。
夏野さん ですよね~(笑)。
貴子さん やっぱり仕事はコミュニケーションがあるのでたいへんですよね。でもアルバイトをすると様子がわかるし、向いている仕事というのがきっとあると思います。ただ、自分に向いている仕事と自分のやりたい仕事が違うという人はけっこう苦労しているみたいです。
美保さん 社会に出ても配慮を求めなくてはならない場面はありますか?
貴子さん うちの場合、ディスレクシアだけなのでほとんどないと思うんですが、あるとしたら、建築士の国家試験です。将来、受けなくてはならないのですが、それをどうするかというのが今、いちばんの問題です。
夏野さん それはmustで取らなくちゃならない資格なんですか?
貴子さん 一級建築士か一級施工管理士のどちらかを取らないとお給料が上がらない(笑)。というか、出世できないらしいんです。仕事をやめさせられるわけじゃないけど、昇級できないし、何よりも仕事内容が限られてしまいます。
美保さん そういうところに反映されてしまうんですね。試験は筆記?
貴子さん 筆記と実技と両方みたいです。運転免許すらなかなか取れなかったのに、一級建築士の試験になると普通の人でも合格率が10%くらいだから受かる気がしないって本人は言ってます。
夏野さん やっぱりなんらかのハードルというか、壁はあるってことですよね。
貴子さん ただ、入社試験に関しては今はwebテストが主流なので、進学のための受験に比べたらあまり問題はないかもしれません。
夏野さん 大学入試も出願はほとんどがweb登録ですごく助かってます。
美保さん 中学高校も増えてきていますね。
貴子さん 入社試験はwebで最初の仮登録をすると各社の情報が見られるサイトの案内が来るんです。受けたい会社が見つかったらエントリーもそこからできます。web上のシートに入力して送ると、今度はwebテストや面接の案内が送られてくる。テストは自宅で受けるタイプと、指定場所というかセンターで受けるタイプがあって、センターの試験は各社共通で他の会社でも使えるみたいです。いわゆるセンター方式ですね。
そんな感じなので、実際に紙に書くことはあまりありません。入社試験ではディスレクシアであることがあまり不利にならないように思います。
高校受験がいちばんハードルが高いとおっしゃる方は多いですが、高校受験を回避するために中学受験をするというのは有効ですか? それとも中学受験はまた違う難しさがあるのでしょうか?
貴子さん どうなんでしょう。ただ、中学受験の利点というか、よかった点があるとすれば英語がなかったことですね。
一同 ああ~(納得)。
貴子さん 試験に英語があるかどうかはディスレクシアの子にはとても大きいので、英語がなかったのはよかったと私は思いました。
夏野さん 確かに。うちの子は工学部を希望していて数学と物理はいいんですが、やっぱり英語がネックになってます。
美保さん 高校受験は内申も重要ですしね。
貴子さん 大学受験もAOとか推薦の場合は内申が関わってくるんですよ。「評定平均」というのがあって、3教科だったり5教科だったり、大学によって違うんですが、その点数によって受験資格の有無を判断されるんです。いわゆる足きりですね。娘もそれがいちばんの壁でした。
夏野さん そこで門前払いされることがあるわけですね。
美保さん 私は中学受験、本当はさせようと思っていたんです。公立の小学校であまりうまくいかなかったこともあるけれど、私立なら科学とか鉄道とか本人が好きな部活があるし、勉強が好きな子だから6年間勉強できていいんじゃないか、って。そうしたら、市の教育サポートセンターから反対されました。
夏野さん どうして?
美保さん 私立はその学校に合わない子は退学させられるから、息子の場合、退学して戻ってくる可能性が高いんじゃないかって言われました。
貴子さん それは学校によりますよね。私立は学校によって特色が違うし、いろんなタイプがあるから、ぴったりくる学校があったかもしれない。
美保さん よっぽど問題児だったのかな? 小学校の頃は授業でも、先生のねらいから外れたところに興味が向かってしまうことも多かったので。
最近も、小学生向けの算数の問題を見せたことがあったんです。金魚鉢が二つ描いてあって、それぞれに金魚が3匹と2匹入っている。次に、片方の金魚をもう一方の鉢に移し替える絵が載っていて、「全部で何匹でしょう?」。もちろん「3+2=5」が正解なんだけれど、息子は「この問題は駄目だ。こんなことしたら金魚が死んでしまう!」って。
夏野さん わかります、「え、そこなの?」っていう話ですよね(笑)。
なんというか、「手がかかる子」なんですよね、要は。
親が育てるのもきっと他の子より手がかかっているけれど、教育現場でも手がかかるんです。それを面倒だ、たいへんだ、って思ってしまったら、そこから先はサポートが行かなくなってしまう。実際にそういう現状があると思います。
美保さん 学校に行くことにで追い詰められてしまって、楽しい将来を描けなくなってしまう子も多いですよね。学校に行かない選択肢も増えていて、それはいいことだけれど、簡単なフォローがあれば学校で勉強できる子もいると思うんです。困難があるだけで学校の学びが続けられないって諦めないでほしい。本人も家族も先生も。
夏野さん たいへんと思わないでほしいですよね。中学を卒業したとき、先生に言われたんです。「最初は配慮って何かと思ったけど、たいしたことじゃなかったのよね。私も特に何もしなかったもの」って。
貴子さん 同じようなことを娘も言ってました。ゼミの先生から、「配慮配慮ってすごく言ってたけど、結局、何でもなかったよね。こうしてふつうに卒業できたし、お母さんが心配性だっただけだね」って言われたそうです。「お母さん、心配性だって思われてるよ」って大笑いしてました。
夏野さん 以前に比べれば配慮への理解は進んできましたが、協力的な人ばかりではありません。でも、学校にしても先生にしても、相手の考え方は変えなくていいと私は思っています。信念をもってやってこられた方に変わってもらうのは無理があるし、求めていない。そういう部分は自分たちで策を練って、点数にこだわらないとか、ある程度できていれば良しとするとか、どこかで折り合いをつければいいから。
貴子さん 娘も、大学に進学するという目標を達成できれば点数が悪くても一部の先生に嫌われても気にしない。目標達成のために必要な努力は一生懸命するけれど、流す部分があるのもしかたがない。そうやって取捨選択しながらここまで来た感じです。
美保さん 大学進学が必要かどうかは別にして、将来、やりたいことをやるとか、なりたい自分になるために、学びが継続できるかどうかが重要ですよね。最終的には自立しなくちゃならないし。
貴子さん 具体的な職業や仕事は変わるかもしれないけれど、どういう大人になりたいか、っていうところがはっきり見えている子は目的のための取捨選択もしやすいんじゃないかな。
元気に働いているとか、結婚して楽しい家庭を築いているとか、そういったイメージだけでも、もっていると違うと思います。例えばそれが「やさしいお父さん」像だったら、もしも今、勉強ができなくても、いつか、「いやあ、お父さんも成績、悪かったんだよ」って子どもとの話の種になる。そんな感覚は大事だと思います。
夏野さん すてきな考え方ですね。
貴子さん 目の前のことにとらわれるより、少し先の大きな目標を見た方が大切なことを見失わないで済むし、精神的にも健康を保てる気がします。
美保さん (ベトナムのインターナショナルスクールに在学中の)息子は日本にいたときに比べて学ぶことがとても楽になりました。じゃあ実際の成績はどうか、っていうと、化学とか物理はAが取れるけれど、英語はFとかEとか成績もひどい。でも本人は「相対的にはFとかEだけど、自分の中での学びが積み重ねられている。日本にいたときに比べて学習は進んでいる」ってとらえています。
夏野さん 配慮を受ければ成績がよくなるわけではないんですよね。結果はあとからついてくるもので、配慮がいい結果に結びつくかどうかはそれほど重要ではない。その過程というか、配慮によっていかに学びを重ねていくかということを見てほしいですね。
貴子さん 成績などの結果ではなくて、自己肯定感とかそういう部分でも配慮はとても大切です。配慮を受けることで、「自分はだめな人間だ」って思わずに済む。そのことに大きな意味があります。だから娘はずっと学校が好きで、いろんなところに感謝の気持ちを持って育つことができました。
「やりたいことがあるけれど難しい。でも、これさえ配慮してもらえばできる」
そんなとき、誰もが必要な配慮を受けて目標や目的に向かって進んでいける社会になるといいですね。
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