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ペアトレとは?
菊田 ペアトレとは?どんなものなのか、はじめての方に向けてご説明をお願いできますか。
米田 ペアレントトレーニングというのは、いくつかある保護者支援の中の1つの方法なんです。
日本のペアレントトレーニングには、ひとつには肥前式というのがあります。肥前療養所でやっていた、どちらかというと自閉症が強いお子さんに対する親の関わり方。
それからふたつめが、岩坂先生がアメリカから持ち帰ってきた、奈良方式。私はそれをずっと継いでやっています。
それから3つ目が、井上先生のグループによる方式。これは、どちらかというと”ペアレントメンター”という所を中心にやっておられるように感じます。
全部のペアトレに共通するのは、問題行動をなくしていくためには、何かをするというのではないということです。応用行動分析(ABA)と言われますけれども、問題行動そのものをなくすという取り組みではなく、行動の前にある状況、あるいは行動を起こした後の大人の対応の仕方に焦点を当てて、その前後の状況とか対応を変えることによって、子供の行動を良くしていくという考え方です。
どうしても、私たちは”問題行動をなくす”という方向で、問題行動そのものをターゲットにしてしまうことが多い。そうなると結局は、怒ってやめさせるというふうになる。でも問題行動というのは、子供にとっては絶対に原因があるわけなんです。
まず、本来的にやっている”良い行動”についてはいわゆる「正の強化」で、どんどん強化して”自己達成感”を高めていく。次に、問題行動にターゲットを当てたときには、それをなくすのではなくて、状況や後の対応を変えることでより良い行動へ持っていくという考え方です。
子供にとっては「あなたが我慢しなさい」とか「あなたのこれが悪いからこうしなさい」ではない。子供はありのままで受け止められる。これは子供にとってはすごく安心できるものかなっていうふうに思います。ペアトレとはそういう感じで説明されているかなと思います。
ペアトレの効果
菊田 ペアトレの効果を教えてください。
米田 ペアトレを受けた方が言う1番の大きな効果は、「子供に対する見方が変わった」ということなんです。私は、ペアトレをやっていて、「”親の価値観”を変えていく作業をしているな」と感じています。これまでは子供に焦点を当てて、大人の考えで「子供をこうしよう」という風な療育とか教育とかが多かったと思います。そうではなくペアトレで親の技術が高まっていくと、子供自身に目を向けて、「なぜこうするのか」という視点で解決していくようになります。どうしてもお母さん方って、自分自身が受けてきた教育というのがありますね。「頑張ればできるんだ」「頑張らないとダメなんだ」という”精神主義的な教育”を受けてきている。それしか知らないわけですもんね。だからそれと同じように、「頑張ったらできるんだから」と子供に接してきている。けれども、決して子供は頑張ったらできるという子供たちばっかりではないわけです。むしろ、頑張れないところで色んなしんどさというのを出しているわけなので。特に、発達障害と言われるお子さんは、「しんどさが外から見えにくい」というところが、一番大きな課題です。
それは、「こうだからこうですよ」という説明だけはなかなか実感を持って子供を見ることができない。でも実際に困っている行動を挙げていって、「この子はこの行動を、どんな思いでしたんだろう」と考えると実感としてわかるようになるんです。
結局ペアトレでやっている事は、ずっと子供の気持ちを考えることなんですね。ティーチャー・トレーニングもそうです。
例えば、計算ドリルをしていたけど、途中で立ち歩いてきた。そこでお母さんが「座ってやりなさい」「最後までやりなさい」と言った。「じゃあ、その子が立ち歩いたのはどうして?子供の気持ちになってみたら?」と。それで、その前の行動を見ていくと、「あ~。わからなかったのかなあ?」「ちょっと集中が途切れてきたのかな?」と。日常の子供の様子を見ていたら、その原因が脳裏に浮かんでくるんです。私はその瞬間に「お母さん、それだよ!そのことを解決しないと!」と言ってね。笑。
これっていうのは、実際のお子さんの行動をお母さんが見ているからこそ分かることなんです。子供を実際に見ないで「こういう子供たちは、こうですよ」と言われたって、普段の子供の姿とピタッと合う事はないですよ。ペアトレでは、子供の行動を記録してきて話をするので、子供のことを目の前に置きながら、考えていくことができる。そこが1番大きなところなんですね。
私が、しんどくてもペアトレとティーチャートレーニングだけを続けてきたのはそこなんです。講演会で「こうですよ、ああですよ」と話をしたって、どれだけの人が帰って子供にやる?ふふふ。本当に虚しくなってしまうんですよ。やればやるほど。笑。
だから私は、講演会はもういいわって。笑。講演っていうのはね、聞けば聞くほど、みんな分かったつもりになるの。
菊田 頭でっかちになって。
米田 それで目の前の子供は?と言ったら、そのお母さんの頭で理解しているわけですよ。子供の本当の気持ちを理解しようとしない。それができるのは、ペアトレとティー・チャートレーニングだと思っています。
菊田 本当にそうですね。
米田 だからと言ってペアトレを1回目、2回目やっても、変わるもんじゃないんです。やっぱり変わりながら、戻りながら、変わりながら、戻りながら。8回目くらいになるとね、本当に子供が自らやりだすんですよ。今までやってない、いい行動を。そしたらお母さんが、「あぁ、本当にこの子変わった!変わってきてくれた」と言ってね、実感されるんです。この実感なしにはねぇ、このあとね、続かない・・・。
菊田 自分の行動が強化されないうちに終わってしまうという事ですね。正の強化なしに終わってしまうとね。
米田 そうなんです。だからお母さんもそこで達成感を感じないといけない。
先日、ティーチャートレーニングがあって新任の先生が1人来てたんですよ。どうも子供のことが納得できてなくて、「これでいいんかなぁ」という感じの発言が最初にあったので。
それで、ちょっとロールプレイを入れたんです。「計画的無視」と言って、注目要求が多いお子さんに効果を期待できる手法なんですけれども。
「休み時間に宿題やろうね、これクラスのルールだからね。」と言ってやらせるんだけれども、その子は「先生、これ家に帰ってやっていい?もう難しいししんどいし、家でやっていい?」とか言う。すると先生は「いや、頑張ってやりなさい」と、言えば返して言えば返してという状況。でも先生は「嫌でもがんばりなさい。いや、やりなさい」と言って。それでやっとその子は宿題を始める。
特に新任の先生にしてみれば、そのやり取りがもうしんどいんですよね。「じゃあちょっと『計画的無視』というロールプレイをやるから、先生が子供役になってみて」と言ったんです。それで他の先生に先生役をやってもらって、それでその子が「めんどくさいなぁ。邪魔くさいなぁ」と言ってるけれども、先生役は、「分からないところあったら聞いてね。やっといてよ」と言って、ずっと他の子に対応する。その子が何か言っても、もう全然言葉を返さなかったんです。それをその新任の先生に体験してもらいました。そしたら、その新任の先生は自分から「先生、わかりません」と言って、手を挙げたんです。笑。それで、「その言葉が出るまで、その子はどんな気持ちだった?」と聞いたら、「いや、先生に来て欲しいけど、先生来てくれへんし、どうしよう?どうしよう?先生どうしたら来てくれるのかな?じゃあ、手を挙げて言うしかないか」と考えて、手を挙げたそうなんです。その時に先生役は「ちゃんと手を挙げたね」と言って来てくれた。「どう?」と聞いたら、「あ、うれしかったです」と言った。笑。
じゃあ、この子は何を学んだのかというと、先生に来てもらおうと思ったら、「できへん、できへん」と言うんじゃなく、先生が言う”良い行動”をすれば、先生が来てくれるんだと学んだわけです。
本当に、その後からその先生の目つきが変わったんです。それで最後の感想で、「今度シール表を作るんだけど、この子は通級にも通っているから、通級の先生にもシールを貼ってもらう。他の先生にもシールを貼ってもらって渡します!それでいいですかね?」って言うから「それでいい!それやって!」と言って。笑。子供の気持ちに立って、実感できたから、「ああ、こうしたろう!」っていうのが、その先生も見えたんですよね。
菊田 理論だけじゃなく、実感されたんですね。
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【予告】
次回は、12月15日公開です。
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