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大学から就職というステージ
菊田 就職後に困るという話は先生のところに届いたりしますか?
高橋先生 読み書きメインの方で、就職の時に困ったという例は、まだあまり入って来ていません。いま、発達障害のある大学生の就職支援は、すごくいろんなところで取り組まれているんです。大学でも熱心にやっているところもありますし、あとは民間、NPOとか福祉法人等でやっていたり、企業さんでも。でも、メインは自閉スペクトラムなんです。だからどちらかというと、社会的なスキルとかマナーを主にやっている感じですかね。
菊田 そもそもLDが学生の中で分かっているケースが少ないってこともあるでしょうしね。LDって例えば日常的に読み書きにPCを使うなどしてカバーしてしまえば、困難を克服できる障害でもありますので、あまり就職後というのは問題になりにくいのかもしれないですね。
高橋先生 そうですね。特に企業なんかですと、がっちり筆記試験の点数で、1点刻みで、ということはないので、どちらかというとコミュニケーションスキルとか、自己アピールとか、結局そういったところが見られるかなとは思います。
職業、資格試験への対策は?
高橋先生 ただ一方で、資格試験を受けるような、例えば医療関係の仕事とか、国家資格の試験を受けて、受かってはじめて就職だという人たちは、やっぱりもう一度、その『読み書きの壁』というのが来ると思うので、そこはむしろ、大学時代に、読み書きに弱さがあると気づけば、配慮実績を盾に”資格試験でも配慮”となっていけるのかなと思いますね。
菊田 是非配慮をゲットしてもらいたいなって思いますよね!!
読み書き配慮でも、データベースの中にも【資格試験】っていうのを、しっかり設けていますので。もし配慮をゲットした子がいれば、ぜひ投稿していただきたいなと思うんですけれども。
高橋先生 司法試験でも、発達障害が理由で時間延長が認められた例があると聞いています。
菊田 それはどういうことですか?
高橋先生 多分その方は、ピュアなLDではなかったはずなんですけれども、発達障害と読み書きに困難があることを訴えて、それで大学時代にも配慮があったという実績を使って、司法試験での配慮を勝ち取ったという風に聞きました。
最近では、色々な資格試験や公務員試験でも、障害のある受験生の方に対して、少なくとも入口のメニューとして、「配慮しますよ」ということが明記される例が多くなってきたようには思います。
菊田 確かにそうですよね。”合理的配慮”という言葉が耳新しくなくなってきたと感じてはいます。一方で、やっぱり日本は協調性を重んじます。協調性と公平性がイコールで考えられがちで、みんな「同じである」ことが「公平である」というのが、どうしても大前提にある気がします。合理的配慮の中身そのもの、つまり「メニューが同じでなくてはならない」と考えられているんじゃないかな?と思われる節がありますね。例えば、今、都立高校の入試は、「LDです」というと、筆記の問題を選択式に変えるのが1つと、1.3倍の時間延長がなんとセットでついてくるみたいなんですよ。そうすると、時間延長がいらない子にも、時間延長が来るんです。時間延長を求めてないのに、配慮の回答紙を見たら、時間延長と書いてあって、「えぇ?」となることがあって、そんなところまで協調性なのかと・・・。
“合理的”という考え方
菊田 ”合理的配慮”の合理性の意味が損なわれ、非合理な配慮になってしまっているところがあります。”合理的”という考え方を、日本人の間に浸透させることが、なかなか難しい中で、やはりそこは検査が証明していく、”担っていく役割”というのが大きいなと、実感しています。そこで、高橋先生は、疲労についてもご研究されていますよね。時間延長にかかわる疲労度について、詳しく教えて頂きたいです。
高橋先生 そもそも何で疲労の要素を入れてきたかというと、最初は子供時代からの読み書きに関するエピソードを聞くと、「あ、これはLDあるんじゃないかな」「文字認識の苦しさとかあるんじゃないのかな」と思うけれども、いざRaWFをやってみると必ずしも読み書き速度は遅くないという方が、一定数いるんですよ。能力の高い方は、頭のなかでいろんな方略を作って、それこそ一字一句、全部読まなくても、半分くらい読めれば、だいたいの内容を把握してしまう。そういうテクニックを使って読めてしまう。でもそうすると、「遅くないからいいじゃない」となります。でも「相当、がんばってやっているんだ」ということが、あるんじゃないかなということで、そういったデータを取ったということなんです。
菊田 まさにそこ!保護者は「そこを言いたかった!」ってところです。
「遅くないからいいんじゃない」というのは、本当に今まで言われ続けていたところですが、子ども達が読み書きで疲労困憊すると、家庭では大変なことになるんだけど、家庭で大変なことになっている状況を外では見せないから、「いや、結構やれてますよ」と言われてしまう。能力が高ければ高いほどなんとかできちゃって、そのために頑張りすぎてズタボロになっていく。それで、はじめて学校が気づく瞬間はどこかというと、あまりにもヒートアップして、倒れてしまった時とか。気を失ってしまったのを見てはじめて、「あー、これはなんか障害かも」と、やっと学校に思ってもらえる。気を失うほどまでの疲労を、子ども達が強いられている現状というのは問題だろう!と。それには「疲労度を測るものはないかな」と思っていました。
うちの息子も中学校1年生の時に、手書きの1.5倍の時間延長だったんですけれども、すごく疲れて、帰ってきて泣きじゃくって。それで学校に行って「僕はどうしても疲れるから、時間延長じゃダメなんです。パソコンでお願いしたいんです。」と言ったけど、理解してもらえなかったので、今度は大学の専門機関に自分で電話をかけて、「僕の頭が疲れてるってところを測ってください」とお願いしたことがありました。その時は検査がなくて、いろんな組み合わせ「検査バッテリー」で、何らかの形で示してくださったんですけれども。だから疲労度が測れる検査が作られるってすごいことです。保護者にとっては「それですよ!」って感じがします。
高橋先生 ただ確かに、なかなか難しいんですよね。これは手軽にはできないので。要するに、パフォーマンスと言いますか、その行動としては遅くないんだけれども、「疲れてるから配慮してください」というのは、正直なかなか納得を得づらいんですよね。
ちなみに、研究では何をやったかというと、前頭葉という額の部分で測れる脳の血流と、心拍の変動を使って調べました。さっきの質問紙ーー質問紙では、内部的な感覚を書いてもらえるわけですがーーそこで、苦手意識を訴えた大学生が、RaWFの実際の速さ自体は遅くなくても、RaWFをやっているときには、やはり血流の増加が見られた。これはどういうことかというと、読み書きというのは、多くの人は自動化されているわけです。自動化、要するに、意識しなくても文字を認識して、意味を取るところまでは、がんばらなくてもできてしまう。ところが、そうやってがんばって読んでいる人たち、つまり”文字認識の部分で、スムーズに入ってこない人”は、相当がんばって、やっと何が書いてあるかが分かる状況だと、血流が増えるんですね。つまり、簡単な読み書きをやっているときには、多くの人は自動的にできるので、脳の血流が増えないけれども、がんばってやっている人は、血流が増えていく。そこにエネルギーを費やし、奪われたら、「考えるためのエネルギーは残ってないよ」という状態なんです。
菊田 子ども達が、そのようなことをよく訴えますよね。
「考えられなくなっちゃう」とか「何を考えてたかも分かんなくなっちゃう」って。まさにそこですよね。
武井 熱を出すっていうのも一つの血流の増加ですよね。笑。うちの子はよく熱を出すので。
高橋先生 なかなか難しいんですけどね。
菊田 それで私たちは、機械的にLDへの配慮が受けられたらいいなと思っているんです。「はい!じゃあこの配慮」という感じで、配慮メニューがパパっと出てくるようなそういう仕組みになったらいいなという風に。
武井 ある意味、事務的な感じなくらいに。
菊田 しかも、私たちが思っているのは、子ども達の「言い値」で配慮をくれたらいいのにな」と本当に思っていて。「疲れるから配慮ください」で配慮くれないかなって思っちゃうんですよね。笑。
要は、子ども達の脳の中を見える化するための、専門家の先生方の必死の努力にもかかわらず、なかなか全て見える化することは難しい。それで困難を見える化してもらえない子供たちが、自力ですごい努力をして、速さとか正確さを何とか追い付いていているのに、追いついたから配慮を得られないっていうのは、本当にかわいそうなことですよね。
高橋先生 うーん。そうなんですよね。
菊田 海外ではどうやって配慮を進めているのでしょうか。次回はそのあたりのこともお聞きしたいです。
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次回は、12月15日 会員限定公開です。
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どうぞお楽しみに。
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