【お問い合わせ先】
一般社団法人読み書き配慮
〒169-0072 東京都新宿区大久保3-14-4毎日新聞社早稲田別館5階
あるよ相談についてお問い合わせ
その他サービスのお問い合わせ
オーダーメイドの合理的配慮と指導の大切さ
高田 文部科学省の調査では、学習障害(LD)の子は4.5%いると言われています。だいたいひとクラス40人として、1人か2人はいる比率になります。
大阪医科大学 LDセンターの奥村智人先生が、ディスレクシアを含む読み書きに困難さがある子どもたちを対象に「主観的な読みやすさ」と「客観的な読みやすさ」の検証をしてくださっています。
「主観的な読みやすさの検証」では、 読み書きに困難さがある小学生26人を対象とし、「UDデジタル教科書体」を含む4種類の教科書体で組んだ文章をタブレット上に左右にランダム表示し比較検証しました。 縦組み・横組み共に「UDデジタル教科書体」が最も読みやすい書体として子どもたちに選択されました。
「客観的な読みやすさの検証」では、読み書きに困難さがある小学生33人を対象とし、問題を読んで、ことばの意味を理解し、正誤を答える問題を36問で1セットとし、難易度をそろえた2セットを作成。制限時間を1分とし、Windows 10 に搭載されている「一般的な教科書体」と「UD デジタル教科書体」で読み速度を比較しました。 課題文の違いや検証順の統制を図るため、セットと書体の組み合わせや、検証を行う順番も半数ずつ均等にしています。
読み課題の文字数を換算すると、「一般的な教科書体」は約 230字/分に対し、「UD デジタル教科書体」は約 250 字/分となり、読み速度が 9% 改善されることが分かり、奥村先生も「ここまで違いが出ると思わなかった」と驚かれていました。
菊田 奥村先生の検証では、「一般的な教科書体」より「UD デジタル教科書体」のほうが、平均正答率が高いですが、中には「一般的な教科書体」のほうが、正答率が高くなる子もいるのですね。
高田 はい。 UDフォントは、より多くの子どもたちに読みやすいことを目指して、ヒアリングや開発途中の検証結果を参考にしてデザインしていますが、全ての子どもたちに読みやすいわけではありません。 今までの慣れた教科書体が良い子もいますし、ゴシック体が読みやすい子もいます。
フォント選択を含め読みやすい環境を整えることが重要で、ひとつのフォントに決めつけるのでなく、それぞれの子どもたちが読みやすい書体を選択できること、その上でオーダーメイドの合理的配慮や指導を行うことが大切であると、中野先生も奥村先生もおっしゃっています。
菊田 メディアでは、奈良県生駒市の検証が話題になっていましたが、詳しく教えてください。
高田 生駒市では、市内の小学生116人を対象に、奥村先生の「客観的な読みやすさ」の検証方法を参考に、「一般的な教科書体」と「UDデジタル教科書体」の問題を用意し、36問を1分間でいくつ回答できるかを比較したそうです。 全問の回答者が、「一般的な教科書体」では4人だったのに対し、「UDデジタル教科書体」では30人だったとのこと。生駒市のサイトにも詳細が上がっていますよ。
https://www.city.ikoma.lg.jp/0000016969.html
また生駒市での学習障害の取り組みも素晴らしいです! 自治体広報誌 『いこまち 9月号』の特集は「読み書きバリアフリー」で、奥村先生のインタビューも掲載されています。
https://www.city.ikoma.lg.jp/cmsfiles/contents/0000004/4970/190901_all.pdf
先日、学習障害のイベントでお会いした保護者の方が、ディスレクシアの配慮がなかなか進まない自治体から生駒市へ引っ越したいと話されていました。 自治体に理解があると心強いですよね。
菊田 読み書きに困難さを抱える子どもたちの学習に理解のある自治体は、本当に頼もしいです!
当事者の子どもたちや保護者は、「皆と同様に学べる」という当たり前のことを、学校や先生や周りの方に理解してもらうのにとても苦労していますから……。
高田 私もこの仕事を通して、保護者の方々から色々な苦労話を聞き、社会の配慮のなさから未来ある子どもたちに「自分はバカだ」と思わせてしまっていることに胸が締めつけられます。 どの子も辛い思いをせず、当たり前に学べるように学校現場の理解が進むことを願っています。
アルファベットの読みやすさとは
ところで、2020年から小学校で外国語教科として英語の読み書きの学習が始まりますよね。英語の読み書き学習は、今まで中学からだったので2年早まります。
日本での学習障害の割合は3~5%と言われていますが、英語圏では10~15%と跳ね上がります。 この差は言語的な違い(音素の多さや、音韻体系の複雑さ)によることが大きいと言われていて、今まで日本語の読み書きには問題がなかった子たちが英語学習でつまずくという可能性も高く、学習障害を見抜けず子どもの努力不足とされ、間違った指導で子どもたちを追い詰めるのではないかと専門家の方々も懸念されています。
たとえば、この図は学習障害などで教室での学習が合わず登校拒否の子どもたちに英語を教えている先生から頂いたスライドです。 では質問です。 このスライドには何が写っていますか?
菊田 カメですよね?
5匹のカメ?
高田 そうですね。 誰に聞いてもそう答えてくれます。
高田 ではこれが文字だったら?
たとえばこんな風に……
ディスレクシアの子の中には、「カテゴリー化の困難さ」を抱える子がいるそうです。
こういったデザインの場合、どれも同じに見えてしまうということがあります。 一字一字 考えながらなら読めるけれど、時間がかかってしまい、意味理解まで結びつかないんです。
そして、2020年からの英語学習のアルファベットが、今までの丸と棒の組み合わせのデザイン「Ball & Stick体」(左)から手の動きを重視した形状(右)に変わることをご存知でしょうか?ほとんどの小学英語の検定教科書のアルファベットが右の形状に変わります。
上図の様に手書きの要素が加わることで、「b」「d」「p」「q」など左右対称の形を避けることになり、カテゴリー化が難しい子どもたち、反転して見えてしまうディスレクシアの子どもたちにとっても、違いがわかりやすくなります。 また、今は学校で筆記体を教えないので、なるべく少ない画数で書けるということは、どの子にとっても早く書けることに繋がりますよね。たとえば、「a」が「Ball & Stick体」では丸い部分と縦棒の2画なので、ロービジョンの子どもたちはいい位置で接して書くことに大変時間がかかります。 右の様な手の動きを重視した形状で、1画で書けるのなら、その負担も少ないことになりますよね。
既存の「UDデジタル教科書体」の和文とセットの欧文は、3年前にリリースされたので、残念ながら当時の英語教科書に合わせて「Ball & Stick体」ですが、文科省が公開した英語教材のアルファベット形状をうけ、急ピッチでUDデジタル教科書体の4つのウエイト(黒味)にあわせて、正体とイタリック体を制作・リリースしました。
それから、現場の先生方や教科書・教材メーカさんのヒアリングを元に、「書き学習用欧文」 も一番細いウエイト(R)で追加しました。
菊田 「書き学習用欧文」とは、他の正体欧文と何が違うのですか?
高田 下図のように、文科省の教材では、欧文のベースになる4線の比率が5:9:5です。英語表記は小文字がたくさん出てくることが多いので、真ん中のスペースが少し大きいと読みやすいのですが、
大文字を練習する時は、「E」とか「H」とかの横線がこのピンクの線にのらないんです。
ですが、子どもたちは自然と4線に沿って書いてしまう。 先生が「真ん中の横線は、もう少し下に書いていいよ」と教室で指導しても、市販のノートは、1:1:1ですから、市販のノートに書くときは線に沿って書くことになり子どもたちが混乱してしまうと、多くの現場の先生から聞きました。
そんなニーズに合わせて、4線の比率が5:6:5の、大文字の書き学習でも線に沿って書ける「書き学習用欧文」を追加しました。 そうそう、この小文字の「z」の右側にある赤字の4線もグリフとして用意されているんですよ。 キーボードの右上に円マーク(¥)のキーがありますが、 shiftキーを押しながら円マークを押すと、この4線が打てるようになっていますので、教材制作にも便利かと思います。
今ご紹介した「UDデジタル教科書体」の新欧文(正体、イタリック体、 書き学習用欧文)は、上の図のように Windows 10 標準搭載の和文の「UDデジタル教科書体」と一緒に使っても、書体名を変えるだけで、違和感なく美しい組版が実現できます。
正体とイタリック体が一列に並んでも、和文の間に新欧文が入って来ても、またこんな風に4線比率の異なる欧文が並んでも、違和感ないでしょう?
和文の中に別の欧文を持ってこようとすると、文字の高さや黒味や大きさが合わないことも多いです。 「UDデジタル教科書体」のランナップの欧文は、誰でもWordやPowerPointなどの使用で苦労することなく簡単に教材制作ができると思います。
菊田 イタリック体は斜めにしているのでなく、ちょっと形が違いますね。
高田 そうなんです。 ただ斜めに傾けたイタリック体の場合、文字が揺れたり動いたり見えてしまう子
には、どこがイタリック体なのか分からなくなってしまうことがあります。 だから、イタリック体はあえて脈略をちょっとつけた形状に変え、どこがイタリック体であるかを分かりやすくしています。
また、会話文では正体を使い、お手紙などの文章にはイタリック体を使う、という使い分けもできるかなと思います。
「UDデジタル教科書体」は「学習用記号」に関しても、小・中学校で使用する単位記号や学術記号などをリサーチして用意しています。 グラム記号や、数学の「x」「y」といったものもあります。
こちらも「UDデジタル教科書体」のランナップとして、和文や数字に合わせてご利用いただけます。
今回、ご紹介した「UDデジタル教科書体」のラインナップは、個人購入(月300円~)もできるので、もしご興味がありましたら、下記のモリサワサイトもぜひご覧くださいね。
「MORISAWA BIZ+」 https://www.morisawa.co.jp/products/fonts/bizplus/
――高田様、本日はありがとうございました。
★1話目のあるよセレクト『デザインが読みを可能にする!』はこちらからご覧いただけます★
【お問い合わせ先】
一般社団法人読み書き配慮
〒169-0072 東京都新宿区大久保3-14-4毎日新聞社早稲田別館5階
あるよ相談についてお問い合わせ
その他サービスのお問い合わせ