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一般社団法人読み書き配慮
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美保さん 大学受験で苦労したことや、こうすればよかったということはありますか?
貴子さん 特にありませんでした。センター試験までもつれこんでいたらすごくたいへんだったと思いますが、8月のうちにAOの結果が出たので。でも4月くらいに検査を受けてセンターに申請する準備だけはしていました。
ただ、いろんな大学を見に行って感じたことはあります。「ディスレクシアなんですけど受験についてちょっとお伺いします」みたいな感じでお話したんですけど、「いや、そういう人は今のところいません」とか「きっとそういう人は受からないですよね」みたいな言い方をされたりしました。とにかく入ってもらわないと話はできない、みんなと同じ条件で受かったら話をしましょう、というところばかりで。ふつうに受験するのはちょっと難しいなという印象でした。
美保さん 実際に受験した大学はいかがでしたか?
貴子さん 相談会で「ディスレクシアなんですけど」って言ったら、「ああ、ディスレクシアなんですね」ってすぐにわかってくださいました。
「うちの大学の方式はディスレクシアでも関係なく受けられると思うので受けてください」。そして、有名な建築家の名前を何人も挙げて、「この人たち、みんなディスレクシアなんです。建築家にはすごく多いので、建築、いいと思いますよ」という感じのことを言ってくださったんです。
「優れた建築家はみんなそうなんですけど、もしかしたらあなたもそういう才能があるかもしれないですね」、「そういう話は知っていましたが、本物は初めて見ました。ぜひ来てください」。そんな対応だったので、娘はとっても気を良くしてました(笑)。
夏野さん それは入試担当の方が?
貴子さん いろんな人に言われました。建築デザインの先生方にお話を聞いたんですが、そこの先生はほとんどの方がそうおっしゃってました。建築の世界では有名みたいで、業界にはたくさんいます、という反応でした。
美保さん じゃ、入学後の勉強に関しては全く問題なく?
貴子さん 入学前に配慮のことを相談するために娘と2人で大学に伺ったんですが、お部屋に先生方が7人、集まってくださって、「この7人のチームでこれから4年間サポートしていきます。よろしくお願いします」と挨拶してくださいました。そして私たちの要望を聞いた上で、「わかりました。ご要望は全部やろうと思います。それ以外にも、うちの大学には学習サポートの教室とノートテイクのボランティアがあるので、この二つを提案します」って逆に提案してくださいました。
美保さん 大学での配慮は満足できる内容でしたか?
貴子さん 行き違いやうまくいかないこともたくさんありましたけど、体制としてはかなりいい方だったと思います。履修登録は間違えるし、点数は取れないしで本人はたいへんでしたが。
ただ、大学の授業はノートテイクも課題も基本的にパソコンなんです。だからサポートがなくてもそれほど困らない状況でした。
夏野さん 確かにそうですね。工学部の学校案内には「入学後はパソコンを保有し勉学に活用する教育が行われています」という一文が書いてあります。だから大学ではその点についてはあんまり心配要らないのかな、という感じがしました。
貴子さん レポートを出すのも全部、パソコン提出なんですよ。パソコンで作成したものをサイトに提出するので特に困ることもない。レポートの締め切りとか、各種のお知らせも全てサイト経由でチェックする方式です。だから、大学生になると紙がほとんどいらなくなってきます。
美保さん 海外では小中学校からそれにちかい感じですが、ディスレクシアがある子にとってはすごく向いているというか、楽ですよね。
貴子さん そうなんです。とにかく高校までがたいへんでしたね。あれだけサポートしてもらってもたいへんでした。
美保さん 大学になれば楽になるって小学校のときから言われてたけど、でも、そこに到達するまでの小中高時代があまりにも…。そこがうまくいかなかったら大学までいけないじゃない?(笑)
一同 そうなんです!
美保さん もう本当に、小学校1年生のときから、「息子さんは大学に行けば大丈夫よ」って言われ続けてきたけど(笑)。
夏野さん そこまでが遠いんですよね。しかも、高校受験がいちばんたいへんで。
美保さん いちばんハードルが高い!
貴子さん 高校の3年間もすごくたいへんだし、そのあとの大学受験の過程までもたいへんでした。
美保さん 大学受験でも「高校で配慮を受けていたかどうかを元にします」って言われませんでした? この前、大学に相談に行ったときにそう言われました。
夏野さん 少なくともセンター試験は「状況報告書」等で学校生活でどういう配慮を受けてきたかを聞かれますよね。高校までの配慮の実績が問われるんだな、と思いました。
美保さん だから、その実績がどこかで途切れてしまうと、大学でもう1度配慮を受けたいと思ってもうまくつながらないんですよね。高校は配慮無しでがんばりました、という人は、配慮が途切れたことになってしまう。結局、途切れなく配慮を受け続けられるかどうかが重要なんだと思います。
貴子さん でも、うちの子のように、「全員にこの形式で問題出しますよ」って変更してくれた場合、逆に配慮を受けていないことになってしまわないかしら。
夏野さん 配慮がつながっていかないという不安は常にありますよね。
美保さん 夏野さんは今回、大学受験のための配慮申請をされましたが、3年前の高校受験のときと何か違いはありましたか? 高校と大学の違いもあると思いますが、3年間の変化というか、配慮についての理解が深まってきたといった感じはありました?
夏野さん 社会的にはけっこう認知されてきたな、という印象があります。
息子が大学に配慮の相談をしに行ったときに、「読み書きが困難で」ということを節々で言っていたら、「つまり、それってディスレクシアってことですか?」と言われて、すんなり配慮の許可が出たんです。「話が早い!」って驚きました。センター入試の対応も柔軟になっているし、息子の高校受験は法律(障害者差別解消法)が施行される前の年だったのですが、その頃と比べると明らかに変わってきています。
でも実績という面では、高校での配慮や前例がないと判断できないんだな、というのを感じました。認知はされてきていますが、実績をつくりあげていくというのはまた別の問題で、そこがやっぱり難しいな、って思います。
美保さん 前例がないから、ってよく言われるけれど、じゃあ、だれが前例になって、どれだけ前例があったらスムーズに行くようになるのかな、って思いますね。
配慮の要らない環境
貴子さん 小学校のとき、うちの子はすごく忘れ物が多かったんです。それで個人面談でそのことを言ったら、先生が、「大丈夫ですよ。お嬢さんは忘れ物をしても自分で誰かのところに借りに行ったりしてちゃんと対処できています。そこが大事で、忘れ物をしたかどうかではなくて、どういうふうに対処するかが勉強なんです。その部分ができているので問題ありません」っておっしゃったんです。
美保さん その先生の受け取り方がいいですね。
貴子さん ディスレクシアゆえの難しさはあるけれど、困ったときに自分で考えて行動して、どこかでうまく帳尻を合わせて最終的にちゃんと形にできたらそれでオッケーなんだということを教えられました。
夏野さん やっぱり先生次第で変わりますよね。
息子は小学校のとき、イギリスの現地校に通っていたんですが、外国の学校はすごく合理的で、先生個人の考え方とは関係なく、その子に必要なことは取り入れるシステムになっているんです。何を相談しても、子どもの健康と生活を最優先して合理的に判断してくれる。それは当たり前のことで、特別な配慮ではないんです。
でも、日本では学校の理解とか先生の考え方などの環境によって、その子の勉強や進学に影響が出てしまう。それはちょっと違うような気がします。
美保さん それはすごく感じます。うちの子はベトナムでインターナショナルスクールに通っているんですが、ふだんの授業では配慮の必要がほとんどありません。先生からは「ときどきパニックを起こしてますよ」なんて言われたりするけど(笑)。
それと、息子は日本では何か聞きたいことがあっても先生が忙しすぎて声をかけるのが申し訳ないと思っていたのが、今は授業が終わるととにかく走って行って先生に話を聞くらしいんです。だから、私が学校に行くといろんな先生から「宏太郎はものすごく意欲がある。授業が終わったらわからないところを全部聞きに来る。こんな生徒は大歓迎です」って言われます。日本では「こういう生徒が学校にいると困る」って言われてたのに。
貴子さん 全然違いますね。
美保さん 本人としては、先生の顔を認識できないから授業の終わりに先生をつかまえるしかないだけなんですが(笑)。
でも、同じことをしても先生の受け取り方が全然違うんです。そしてその違いで暮らしやすさが変わってしまう。もしも息子が今、日本にいたらどうなっちゃうのかな、って考えてしまいます。
配慮についても、日本だと自分だけが特別な配慮を受けて申し訳ないって感じる子が多いと思うんです。でも、今の学校ではそんなことは全然感じない。なぜなら当然のことだから。必要なら誰もが受けられることで、誰もずるいなんて思っていない。息子も、「試験のとき僕が声を出してしまうと周りに迷惑をかける。だから別室受験するのは僕のためというよりも、みんなのためなんだ」なんて言ってます。
一同 (笑)
夏野さん 息子の高校では毎回、体育の場所が変わるのだけれど、いつもメールで場所と時間と持ち物を知らせてくれるんです。スマホをチェックして場所を調べて行くだけでいいから、すごく楽。仕組みや環境が整っていれば、配慮を求めなくていいんだということを実感しました。
貴子さん 確かに。娘は小学校から高校までまるまる「ゆとり」の時代と重なるんですが、そのせいか、特に小学校では配慮が必要だと感じたことはなかったですね。
美保さん 今は先生の理解が得られなかったとき、「アンラッキーだったね」で済まされてしまいますよね。先生によって差が出てきてしまう状態というか、仕組みはやっぱり違和感があるかな。
夏野さん 本当なら配慮は運不運に左右されずに、どんな条件でも受けられなくちゃいけないものですよね。もしうまくいかないのなら、仕組みそのものを変えられたらいいのに、と思います。それで学校生活がうまくいけばディスレクシアがあっても配慮はいらない。そういうふうに、配慮を受けなくても誰も困らないような環境を整えられたら理想的ですね。
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