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菊田:私は親ですけど、親だからこそこの分野を諦めきれない、だから関わり続けるっていうところはあるんです。でも加藤さんみたいに「親ではない」人がこの分野にそこまでこだわり続ける「理由」って何なんだろうなってずっと思っていました。
加藤:先ほど、色々ネガティブなことを言われた、と言いましたが、いっぽうで「熱心だね」「また来てよ」と好意的な声かけをくれたり、私のような存在を面白がってくれた親御さんや先生方がたくさんいたのは大きいかもしれません。僕は基本的にほめて伸びる子=おだてられると木に登る子なので(笑)。菊田さんも私を面白がってくれたお一人ですね(笑)。感謝しております。
あともう1つ、印象深い出来事があります。ある福祉施設に行った時に、その施設の玄関に、知的発達の遅れを持っている自閉症の青年が職員さんと一緒にたまたま立っていたんですね。それで、僕がそこに入ろうとしたら、その青年が近づいてきて、突然、僕が着ていたジャケットを掴んできたんです。当時何も知らなかった僕は、そこで一瞬「殴られるのかな!?」と思いました。そうしたら、その青年は、僕のジャケットのボタンを1つ1つ留め始めたんです(笑)。
菊田:胸ぐらを掴まれたと思ったのに(笑)。
加藤:そう。それでボタンを全部かけ終えた後に、彼は僕の顔を見て「はめときました!」って満面の笑みで言ったんですよ(笑)。こっちは「ありがとうございます…」って言うしかなくて(笑)。その時の正直な気持ちは、「…負けた!」でした(笑)。
菊田:勝ち負けの問題じゃないですよね(笑)。
加藤:確かに(笑)。でもその時は本当に「負けた、そうきたか!」と……意表を突かれたというか、僕が知らなかった世界にいざなってくれたというか、そんな体験でした。
菊田:「人」と対峙したんですね。その青年、つまり「人間」と向き合った瞬間だった。
加藤:そうですね。その体験をしてからは、取材・見学のたびに「この子は何にこだわりがあるんだろう」「この人には世界のどこを注視しているんだろう」「この子に見えている世界はどんなものだろう」と、ますます気になってきて。小田実じゃないけど「何でも見てやろう」って感じです。「面白い!」というのと「そうくるか!」っていうのと。困っている本人や親からしたら「面白い、なんて不謹慎だ」と叱られるかもしれませんが、その「面白さ」に気付いたから、ここまでのめり込みましたし、同時にその世界に敬意を表することもできました。
菊田:その人が持っている宇宙に驚かされるっていうか、そういう感じですよね。親でもそういうことがあるんですよ。そしてその世界に魅了されますよね。
加藤:おっしゃる通りで……その子たちの持っている世界に魅了されたんですよね。
菊田:新しい洞窟を発見するような。
加藤:手を伸ばすと「ここ、スポって抜けるんだ!」「こんなところに道があったのか!」みたいな。子どもたちに関心を持っていなければ見えなかった世界がどんどん見えてきた。
菊田:われわれの「想像力の貧しさ」ですよね。
加藤:ASDのある人たちの特性を「想像力の障害」ということがありますが、「想像力の障害」は多数派の側にもありますからね。自覚がない(自分には「想像力の限界」がないと思っている)分、多数派の「想像力の障害」の方が深刻かもしれません。
そんな感じで、子どもや若者たちと出会っていくほどに、どんどん深く深く入り込んでいったんですが、後日、ある懇親会の場で石井先生にお会いしたら「加藤さんも自閉症の世界に頭までどっぷり浸かったねぇ」とニコニコしながら言われまして。「いや、あなたのせいでしょうが」とちょっぴりツッコミたくなりましたが(笑)、引きずり込んでいただき、本当に感謝しています。
菊田:TRPGの研究を始めたきっかけも、その時の体験ですか?
加藤:TRPGについても、きっかけは「現場」での「出会い」でした。「アスペの会・東京」という、東京都発達障害支援センター柏木理江先生がファシリテーターをされている、ASDのある青年・成人たちの支援団体があるのですが、ある時(これも石井先生に勧められて)そこの余暇活動を見学に行ったんです。その時に、活動の場の一角でTRPGをやっている青年たちがいたんですね。僕は元々TRPGのプレイ経験があったので「あそこでやっているのはTRPGですかね?」と聞いたら、そこのスタッフさんに「加藤さん、TRPGご存知なんですか? それならぜひあちらのテーブルに参加してください」と言われて、活動全体をざっくり見に来たつもりが活動に参加することになりました。で、活動が終わってから、一緒にTRPGを遊んだASDの青年たちが、とても嬉しそうに「次回も来てくれますか?」と言ってくれましたので、「あ、じゃあまた来ようかな」と。それで何度か通っているうちに、会のボランティアスタッフになっていました (笑)。
菊田:それが研究につながっていったんですか?
加藤:いえ、最初は研究などとは思っていなくて、一緒に遊んでいるのが楽しいだけでした。あと、ボランティアを通じて発達障害のある青年たちに関わったり、柏木先生やスタッフさんと話をしたりすることで、多くのことも学べましたし。
ただ、ある時ふと気づいたんです。
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次回は、5月15日公開です。
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