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野中 今日は読み書き配慮が提携させていただいている臨床心理士のお一人、川本恩(めぐみ)先生にお話を伺いたいと思います。インタビュアーはいつもの菊田と私、読み書き配慮で事務局を担当している野中聡子です。小学校・幼稚園に通う3児の母です。
今日は私の素朴な疑問を軸に先生にお話をお伺いしていきたいと思います。
川本先生は菊田ゆうすけ君の療育を担当されてきた心理士さんでもあります。
まず先生のこれまでのお仕事について教えてください。奇遇なことに金坂律君の療育指導をされていた内藤先生とご一緒に勤務されていたこともあるんですよね。
川本 はい。臨床心理士の川本恩(めぐみ)です。内藤先生とご一緒していたフトゥーロは大学時代、発達障害に関心をもった時にゼミの先生に紹介していただいたボランティア先でした。大学院修了後も非常勤として勤務し、一番長くお世話になった職場でもあります。内藤先生とグループ指導をご一緒したこともあり、色々教えて頂きました。また、大学院の実習先だった全国療育相談センターにも同時に勤務しており、そこで菊田君親子との出会いがありました。
療育って本当に、その子、その子に合った課題を準備したり、報告書を作ったり、かなり大変なことなので、週5日療育だけで仕事を埋めるとなると、かなりのエネルギーを使うんですね。そういうこともあって、その療育機関に毎日は勤務せず、プラスして東京都心身者福祉センターというところで、18歳以上の方の愛の手帳(療育手帳)の更新をしたり、知的障害に該当するかどうかの判定をするテスターのお仕事をしていました。
東京都心身者福祉センターで1日に2人ぐらい、しかも同学年の18歳のお子さんの検査を、毎回毎回取っていると、10分、20分雑談をしただけで「だいたい IQ このぐらい出るんじゃないかな」ということが分かるようになってくるんですね。「このぐらい質問して、このぐらい返してくれるお子さんだったら」とか「日常生活で、このくらいのお手伝いが必要なお子さんは、このぐらいの数値が出てくるかな」とか、予測ができるようになってくる。その辺はそこで鍛えられたかなという気はしています。
でも、手帳の判定だと”判定”をするために検査を取るのが目的なので、検査を取って、「あなたはこういう得意なところがありますね」とか、「こういうところが苦手ですね」というようなフィードバックはしないんです。判定したらそこでおしまい。そうではなくて「もう少し伴走したい、継続してサポートをしてあげたい」という想いがあって、判定の仕事は途中で辞めて、支援に関わる仕事を増やすことにしました。それまで18歳以上の方を見ることが多かったので、もう少し小さい時期に見て関わってあげたいなという想いがあって、療育機関では担当するお子さんの年齢がどんどんどんどん下がって、最終的には保健センターでの3歳児健診で問題のあったお子さんとか、幼稚園でつまずいて、先生に言われてきたお子さんとかの検査を取ったり、お母さんの相談を聞いたりする仕事をしていました。その後、私自身が出産を機に仕事を辞め出産し、今に至ります。
野中 では一番最近のお仕事は、小さいお子さんの発達を見るお仕事だったんですね。発達の気づきの最初の入口が、3歳児健診だと思いますが、3歳児健診では、具体的に何を見ているんでしょうか?
川本 そうですね。お子さんの発達に関して言うと、大まかに「運動面」「認知面」「言語面」を見ているかと思います。それらの発達の度合いを保健師さんが保護者やお子さんとのやりとりの中で確認し、発達がゆっくりな場合や、保護者の困り感や不安が強い場合には心理につながるケースが多いかと思います。1歳半健診でも、「ママ」や「ブーブ」等の意味のある言葉を話すかどうかの確認があるかと思いますが、3歳でもどの程度言葉が出ているか、コミュニケーションがとれているかの確認はあるかと思います。
野中 そうすると、”言葉”が一つの気づきのきっかけと言えるということでしょうか?
川本 そうですね。言葉だけでなく多動で困っている、他害で困っているという困り感から心理につながるケースもありますが、言葉が出ない、言葉が出ているがコミュニケーションがとりにくい等「言葉」の遅れを不安に思う保護者は多いですし、心理に繋がるケースも多いです。言葉の発達は個人差が大きいのですが、3歳になると多くのお子さんは自分の名前や年齢が言え、大小の区別や色名も理解できてきます。が、3歳の時点で有意語(意味のある言葉)が全く出ていないとなると、発達の遅れの可能性が高くなるので、言葉以外の部分も含めてフォローが必要となります。(療育手帳の判定をしていた時にも、初めて発達の遅れ、言葉の遅れを指摘されたのは1歳半健診や3歳児健診だったという方がほとんどでした。)ただ、性格的に恥ずかしがり屋だったり、人見知りが強くて、健診場面で課題に取り組む時に、お母さんにしがみついてできないという場合もあると思います。健診場面でできない場合、家でもできないのか、その場だけなのか、質問に指さしやジェスチャーで答えることはできるのか等を確認します。
お子さんの発達状況やお母さんの困り感や不安感などから総合的に判断して、保健師さんが必要性を感じると「個別に心理士に相談してみませんか」と勧めることが多いかと思います。
野中 心理につながると「検査」ということになっていくんですか?
川本 それは、絶対にすぐに全員が検査ということでもありません。どのぐらい理解できているか、特性の理解は、自由遊びの中や、お母さんからの聞き取りからも、なんとなく分かってくる部分があるんですね。
例えば、自由に遊ばせていた時に、どのぐらい言葉に出てくるかとか、こちらが提示したものにどのくらい興味を示すかとか、共感性はどうかとか・・・。そういった観察や保護者からの聞き取りで、発達の遅れや偏りがありそうとなればフォローを継続し、検査をとる流れになることも多いですが、主訴に関することが成長に伴い落ち着いていくと予想されるケースに関しては、検査をとらず相談に応じて終結となることも稀にですがありますね。
川本 結局、「検査」は何のために取るかと言うと、子供の困り感、主訴の原因と対策を知るための材料の一つだと思うんですね。特に幼児期の場合は、お子さんの理解と関わり方のヒントをお伝えする材料の一つにするため、または療育機関など支援につなげる根拠の一つにするために検査をとることが多いかと思います。もちろん医療機関であれば、診断のためということも多いですが。
菊田 よく検査は”レッテル貼り”のような言われ方をしますよね。でも、本当は検査ってこまり感を見える化することなんですよね。検査を元に、心理職の専門の知識を持った人たちに介入してもらうことで、一つ一つを紐解きながらその子その子の発達に則した最適な育て方で、その子の力を育てていく。そのための検査だと思うんです。保護者が検査をレッテルのように感じてしまうと、「うちの子はちゃんとしてます!大丈夫です!」みたいな感じなることも。検査をきっかけに”障害”っていう”タイトル”がついてしまうと、劣っているように感じてしまいがち。でも “障害”っていうタイトルは劣っていることでもなんでもなくて、”注意をしながら丁寧に育ててあげる”ことに気づくことができる、ビッグチャンス!みたいな気がしてます。
川本 そうですね。保護者がみんな菊田さんのように「ビッグチャンス」と思ってくれたらこちらもお手伝いしやすいのですが、確かに「レッテルを貼られるのでは」という警戒心や不安をおもちの方が多くて。拒否的な方も多いので、なぜ検査をとるか…ということからお話して納得して頂く必要があります。
例えば内科だったら、「胃が痛いんですけど」とかかったら、「胃カメラ撮りましょう」となって、腫瘍があったら、「手術しましょう」となりますよね。もしくは、胃カメラを飲んでハッキリ痛みの原因が分からないから、もっと詳しい検査をしてみましょう、もう1つ、もう2つ検査をするかもしれないし、薬を飲んでみて結果を見るかもしれない。それと同じです。「先生の話を聞いていない」とか、「ノートが取れない」とか、何かしらの困り感があってから、知能検査を取ってみて、それで少し分かる部分があっても、困り感の原因が検査一つで分かり切らないかもしれない。その場合はより詳しくご本人の能力や状態を把握できそうな検査を実施することになります。
ただ、いくつかの検査をとったとしても、サイコロで言ったら、検査では1面か2面くらいしか、本人のことは分からないわけです。
もっと言うと、本人の全体像を一番分かっているのは、検査者ではなくて、お母さんであり、お父さんであり、学校の先生です。身近な人の方が、もっとサイコロのいろんな面を見ていると思うんです。なので、そこは日常生活の様子だったり、生育歴だったり、全部ひっくるめて検討する必要があるのかなと思います。
野中 保護者の立場からすると、問題は、検査を受けて結果を見ても、それを実生活にどう活かしたらいいか分からないということだと感じています。
川本 そうですね、検査は、お子さんにとっても親御さんにとってもエネルギーもいることなので、役に立てなければもったいないですよね。 医療現場も確かに忙しいので、”診断のための検査”を取って、「知的な遅れはなかったね」でおしまいになってしまうこともあるかもしれません。でもせっかく取った検査から見えてくるものは多々あると思うので、心理士やお医者さんの責任で、そこは大切にしてほしいな、ということはすごく思います。
検査を取るのは、お子さんはもちろんそうですけど、検査者も結構疲れるんですよ。笑。
そこで検査を取ったことにより、終わった時に「おぉ~!がんばったね!」というお互いの絆が深まるということも多々あって。笑。そのお互いの達成感をその後につなげていけたらいいんだろうな、と思いますね。
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どうぞお楽しみに。
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