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黒澤 この企画をうちの法務に相談したところ、「ちょっと著作権に問題があるんじゃないか」と言われたんです。一つは複製権の侵害です。サーバー上にデータを上げて、そこで書面画像をテキスト化・音声化するという点が、「それって複製じゃないの?それをデータとして引っ張ってくるのは、送信権の侵害になるんじゃないの?」と言われました。
これには昔々、ガラケーの時代に同じようなサービスで、問題なったことがあったんです。MYUTA(ミュータ)事件というんですけれども。当時、ガラケーで自分が買ったCDの音楽を聞きたいというニーズがあったのに対して、ガラケーは今のスマホと違って、簡単にそういうことができなかったんです。それでMYUTAというサービスができたんです。自分が買ったCDをパソコンで読み上げて、MYUTAのソフトを使って、音楽ファイルをアップロードすると、MYUTAサービスが、そのガラケーで再生できる形式の音声ファイルにして、聞けるようにしてくれるというサービスなんです。
菊田・武井 へぇ~。
黒澤 これが複製権と公衆送信権の侵害とみなされてJASRAC(日本音楽著作権協会)から「そのサービスはやめてくれ」って言われたんですね。この裁判は面白くて、「JASRACさんに我々のサービスを差し止める権利はない」って、MYUTA側がJASRACを訴えたんです。
しかし、結局東京地裁で、MYUTA側が著作権法の侵害として負けちゃったんです。本当はそこで、最高裁まで争ってもらいたかったんですけど。そこでMYUTAは諦めちゃってサービスをやめちゃったんですね。それでこの事件が著作権法の判例として、ずっと残り続けているんです。
でも今スマホで使える読み上げのアプリや音楽のアプリって色々ありますよね。この判例で日本の会社が萎縮している間に、結局スマホのサービスって、ほとんどアメリカ発のサービスになっちゃったんです。そのあと、日本でも著作権法の改正が行われて、「日本は著作権の縛りが大きいから、もう少し使えるように変更しましょう」となったのが、2019年。 その改正で、本を撮影したデータを、AIのディープランニングとして利用する、より良いサービスを提供するために軽微な著作物の利用っていうのは OKということになったんです。
この改正は、今回私がこの企画を立ち上げた、ちょうどその直前に行われました。
我々は、ボランティアに撮影して修正してもらったテキストデータをAIの学習データとして利用するので、この点については著作権法上は問題ないということになりました。
この規定には実は、著作権者の利益を不当に害する場合は除くという但し書きがあるんですけれども、このサービスは必ずISBNコードでデータを紐付けします。つまり、このサービスを使おうとすると、実物の本が手元になくちゃならないんです。つまり、「著作権者の利益を不当に害する」ことはないと言えるので、この点でも著作権法はクリアしていると考えています。
これまで、複製権については「視覚障害者等の福祉に関する事業を行う者で政令で定める者」に限って「視覚障害者等のための複製・公衆送信」を例外的に認める著作権法第37条3項が使われてきたんですが、去年の11月にこのサービスを発表した時に、これはかなり衝撃的で、それにまつわる記事も本ドット jpさんが書いてくれました。
著作権法第37条を使わない視覚障害者等向け読書支援サービス
「YourEyes(ユアアイズ)」の衝撃【追記有】
https://hon.jp/news/1.0/0/30131
武井 タイムリーでしたね。
黒澤 はい。すごくタイムリーでしたね。この法律構成を考えるまで、何人もの弁護士さんの意見を聞きました。
武井 頑張りましたね。
黒澤 はい。頑張りました。これだけは、本当にすごく頑張りました。
そこは「届けたい」という一心なんですよね。できるはずのものを、絶対に必要とされるものを、なんでできないんだ!と。何か壁があると、そこは何とかできるはずだと。じゃああの弁護士に相談してみる?とかこの弁護士に相談してみる?とか。そうすると、色々応援してくださる方が増えてくるんですよ。
黒澤 この合成音声修正用のボランティアツールは無償で配布します。ボランティア登録さえしていただければ、どなたでもダウンロードできます。
だから、お母さんが、「この子にこの本を読ませたい」と思ったら、すぐにできてしまうわけです。すぐできちゃう。
読んでもらう側のアプリはサブスクで、月々500円いただきます。 ただそれだけです。
例えば、この本は私が読み上げ修正したものなんですけれども。この本は、実はすごくOCRで読むのも大変な本なんですね。ひらがなで、切るところがすごく分かりにくいし、特に「(動物の)サイ」が出てくるんですけれども、修正する前の合成音声は「さい」を「(動物の)サイ」と読めないんですね。判定できないんですよ。
そこでひらがなの「さい」を漢字の「犀」に変換してしまうんです。そうすると AI がこれは「(動物の)サイ」だと認識するので、正しいアクセントで読んでくれる。
絵本「エルマーの冒険」
合成音声 読み上げ…
黒澤 例えば、この合成音声の設定は”リサ”という女性の設定でしたけれども、”ヒカリ”という女性に設定を変更すると、こう柔らかい感じになります。
それから例えば、こういうページ番号がないページでも、書かれている文字と登録されている文字とを照合して音声データを引っ張って来るので、ページ番号がなくても照合ができるようになっています。
それから、ページの最初のところが、こんなふうに文が切れていても、合成音声は前のページの最後から読み上げます。
合成音声 読み上げ…
黒澤 速くすることもできます。
合成音声 読み上げ…
という感じで…。
この修正作業する時も、すごく楽しいんですよ。自分で、 こういう感じで調整したら、こういう読み上げになるんだと思っしたりして。ここはちょっと文章と文章の間に間が欲しいなとか、より本を理解できるので。基本的には、ボランティアさんが読みたい本を読んでもらおうと思っているんです。こちらから「これを修正してください」と押し付けるつもりはないので、楽しみながらやっていただくという形でお願いしたいな、という風に思っています。
武井 意外とシンプルですね。 手順も難しくないし。
黒澤 はい。そうですね。なるべくシンプルにしました。
菊田 合成音声をクラウドにためていくときも、出して読み上げに使っていくときも、本のISBNコードに紐付けてデータを管理する。つまり読み上げて“あげる側”と“もらう側”が、実物の本を介して存在しているシステムなんですね。ということは今まで本を読まないから買わなかった方も、これがあれば本を買ってみようかなあと思うようになるかもしれませんね。
黒澤 YourEyesは、視覚に障害をお持ちの方ははもちろん、読み書きに障害をお持ちの方や、読書が好きだったけど最近本を読むのが辛くなって来た方など、多くの方に「読書の楽しさ」や「学習のサポート」をご提供出来るサービスだと思っています。是非、たくさんのユーザーさんやボランティアさんにご参加頂き、より良いサービスに発展出来ると嬉しいです。また、本以外の印刷物、例えば学校で配布されるプリントやチラシなどを読み上げるのも得意です。一度、ユアアイズにサービス登録して、まずは無料でご体験頂けると嬉しいです!
菊田・武井 今日は本当にありがとうございました。
黒澤 ありがとうございました。
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