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菊田 NPO法人フトゥーロの内藤良子先生にお話をお伺いしたいと思います。
内藤先生は以前あるよセレクトに登場してくれた金坂律君の療育指導をされてきました。現在東京都立大学3年になる金坂律くんは、小学校も中学校もほとんど学校に行かれなかったけれども、療育指導の中で配慮の仕方を確立してこられて、それが高校進学につながっていったと聞きました。高校の先生方がまた、一緒に非常に前向きに配慮を模索してくださる中で高校での学びが叶っていきました。そして大学も前向きで協力的だと聞いています。「大学に入って初めて体育やったんですよ~」って聞いて、すごいなと思ったんです。
内藤 高校の時も、体育は一応やってはいたみたいなんです。ただ、みんなと一斉にはやれないので、体育の先生や空き時間の先生が、マンツーマンでやってくれて、足りない所は机上の学習で足らせて、っていう感じで。
菊田 それが、今大学ではみんなでフットサルをやっているんですって。グランドで。フットサルくらいの人数だったら対応できるから。
内藤 ああ!!小さい頃からサッカー好きだったから。 ああ、でもそのくらいになったんですね。
菊田 体育だけでなく、どの教科でも、交じり合って学ぶっていうことがものすごい刺激的で楽しいって、おっしゃっていて。律くんの場合は非常に感覚の過敏をお持ちで、みんなと混じることはすごく大変だったと思うけれども、だんだん成長と共に許容範囲も増えていって。その成長の影には適切な配慮があると感じます。ひなが卵からかえるときに、殻の中から雛がつつく、その声に応じて親鳥が外からつつくことを啐啄(そったく)って言いますけれども、子供と大人が殻のうちと外からつつき合うような「配慮」と「成長」の過程を経て、今があるのかなと思います。
律くんのように、本人の求める配慮をどんな形で提供していくかっていうことは、周りの大人が寄ってたかって知恵を出しながら考えていく必要がありますよね。律くんの話を聞いて、学校での配慮の知恵を出し合うのは親や学校だけじゃなくて、内藤先生みたいないわゆる療育機関もその一つだなと感じています。
内藤 「フトゥーロ」は民間の療育機関です。多分みんなは「ちょっと変わった塾に来ている」っていう感じなんだろうと思います。
武井 頻度はどのくらいなんですか?
内藤 お子さんによります。個別指導とグループ指導があって。グループ指導は年齢だけで単純に分けているわけではなくて、心理検査の結果や行動観察などで把握できた特性でグルーピングします。概ね2学年ぐらいずつくらいで分けています。
菊田 グループ指導は何人くらいで?
内藤 学童は1グループにつき最大6人くらいです。近年、個別指導の希望が増えています。
個別指導は、基本50分。グループは基本90分。
菊田 個別指導ってどういうことをなさっているんですか?
内藤 お子さんによって対応を全部変えていくっていう感じです。
菊田 なんかその対応の内容がすごく特徴があると思っているんですけど、先生の資料をあらかじめ拝見させていただいて、臨床心理士が当たられているんですか?
内藤 はい。臨床心理士や公認心理士もいますし保育士だった人もいます。私なんかは教員免許と特別支援教育士で。
菊田 なるほど。教員資格をお持ちなんですね。
内藤 そうです。私は教員免許。とりあえず、全部あります。
小、中、高。それから養護。小学校がⅡ種なんですけど、中学校が社会で、高校は公民です。教えられることになってます。笑。あと、私が取った頃は養護学校教諭っていう名前だったんですけれども支援学校の免許。それとあとからとった特別支援教育士と。
菊田 質の高い療育指導は何年待ちとかなんですよね。うちもやっとつながって、小学の頃、他機関で療育指導をやってもらっていました。
当時通級にも通っていましたが、通級指導とは全く違いますよね。心理士の先生なんかが学問的アプローチからアセスメントを取られて、それに基づいて計画されていくので、教育現場での教育的指導とは違います。アセスメントは子供によって違うので、先生がさっきおしゃったように子どもによって、それぞれに違った計画になっていきますよね。
内藤 うん。そうですね。
菊田 当然ね。それは、心理士の先生方は医学的観点から知見を持っていらっしゃるので、その子の困り感は何で、どんなふうに適応したらどんなふうに生活が快適になるんだろうっていう風に考えられて計画されていきます。ただ、学校でどうかということへの結びつきが今一つ弱い面もあるんじゃないかと思うんです。生活面の補充はあるけれど、学習面の困難を解決していくってことは、療育指導ではなかなか進みにくい感じがしていて。
内藤 うちの場合は常勤のスタッフが教育委員会からの巡回指導をしているので、小中学校をしょっちゅう巡回していますから、現場の事情がよくわかっているということはあるかもしれません。今学校でこういうのをやっているっぽいよとか、掲示を見てきたよとかっていう話を聞くこともあります。
菊田 それで、学校生活をバックアップするような指導っていうのがこちらで計画されている。
内藤 そうですね。あとは保護者の方がOKしてくださったり、ご依頼があって学校と連絡を取らせていただく場合もあります。学校の先生も、「うちはそういうのはいいです」っておっしゃることもあるんですけど、「ぜひ」っておっしゃっていただけるところもあって。「学校で何ができていないですか?」とこちらから伺って、マンツーマンなので個別の時に練習して、二人でまずできるようになったところで、また学校に電話して「ちょっとできるようになってます」とお伝えすると学校の方も「またお願いしていいですか」みたいな感じになることもあります。
菊田 なるほど。学校との連携をされているってことですね。律くんの今までの指導計画が、学校の入試をターゲットに、入試までに身に付けるべき力を、段階的に計画されていたんですよね。例えば、面白いところでは会話の練習とかね。
内藤 あ、でもそれは小学生の時だったんですよ。もともと感覚過敏で、部屋が広すぎてもダメ、狭すぎてもダメ、反響もダメだったので、律くんには決まった部屋があって。律くんが来るときは必ずその部屋を空けて何年も同じ部屋で指導しました。律くんが来ているときは掃除機かけないでくださいとかもありましたね。笑。エアコンも音の過敏があって使えないので、延長コードを延ばして扇風機を回し、うちわであおぎって感じだったんですけど。笑。向かい合わせに座ることも無理で、私と横並びの関係で。会話になるとちょっと話していても、私の話を勝手に話を切って、自分の話が始まっちゃうのが特徴的だったので、これはちょっと練習しないと、人と絡んでいきたいと思っても無理だぞと思ったので。一つの話題で話を続けていくっていうことを意識して、毎回毎回練習するっていうのをやってたんですよね。
菊田・武井 へぇ~。
内藤 で、中学に行く頃には、割と話を続けてはいられるようになりました。自分で話を切りたいときには「ちょっと話を変えてもいいですか」って前置きをする練習もしてたので、「ちょっと話変えてもいいですか」「ああ、いいよ。ああわかった。じゃあこの話じゃなくて?」みたいなのが普通にできるようになって。その頃になると、いちいち積み木積んで、はい、何回続いたねってことをしなくても、出来るようになっていました。
菊田 積み木を積んで?
内藤 はい、お題を貼っといて、その話題に沿って2人で会話をしながら、相槌でもなんでもいいから、「へぇ~」でも「へ」でも言えたら積み木を一個積んで。笑。
菊田 ラリーをしていくってことですよね。
内藤 そうです。今日15個積めたね。みたいな。笑。そういうことをやっていたんです。
菊田 それで。律くん会話がとっても上手ですよね。
内藤 うーん。上手になりましたかね。笑。
内藤 でも、上手になったことで中学の時トラブルになっちゃったので、練習してよかったのかな、としばらく考えた時もありしましたけど。
菊田 トラブルって?
内藤 律くんだけについてくれた先生が、やる気というか気持ちはとってもおありになったんだけど、律くんみたいな子を見たことがなかったんです。で、会話がちゃんと成立しているから、「全部ちゃんと話しました」とおっしゃって。でも律くんは、その段階だと会話してたことを覚えておくっていうのは難しかったんです。会話を続けていくことが、メインだったので、話し終わると記憶がすっ飛んじゃってて。「いやいや(会話)したんです。」「でも覚えていないです」「覚えていないわけないじゃないですか。あんなに流暢に、ずっと楽しく時間を過ごせたんですよ!」みたいな、トラブルがあったんです。それで本人が「もう嫌だ、信用してもらってない。嘘なんか言ってないのに、覚えてないわけないみたいなことを言われちゃって」って悔しがって。ああ、会話の練習なんかしてよかったのかなって考えたこともありました。
武井 その会話をした記憶がないっていうのは、本人の自覚もあるんですか?
内藤 うん。そうです。学校では今もチャットですよね。記憶飛んじゃうんで。
チャットにしてもらったおかげで、あとから見ても「ああこういう話をしたんだ」ってことが分かるから、すっごい楽だっていうのは、お母さんから伺いました。
武井 それって、会話のキャッチボールができるようになったから、わかったことで、コミュニケーションの不具合は「ああ自分は記憶ってものができないからなんだ」ってことに気付いたきっかけでもあったかと思うんですよね。
菊田 一つ一つ紐解いていって、困難を一つ一つ解決していくってことかもしれないですよね。
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次回は、5月15日会員限定公開です。
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どうぞお楽しみに。
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