＃31 【応援】父から君たちへ

　『学びたい』をかなえる

子どもから「パパの仕事は、どんな仕事なの」と尋ねられて、「そうだな。学校のお手伝いをする仕事かな」「若い先生に、授業の仕方を教えることもあるな」と答えてきました。いつもうまく説明できないし、あまり理解してもらえないのですが、私の仕事は、教育委員会の指導主事です。

「教育」といえば、これからのキーワードに、「個別最適化された学び」というものがあります。一人一台のパソコンと高速大容量の通信環境を整えるＧＩＧＡスクール構想の中で、一人ひとりの学習状況や適性に合わせた学びを行うことです。障害や国籍に左右されず、多様な子どもたちが誰一人取り残されることがないようにすることが目的です。
パソコンや学習サービスに搭載されたＡＩ(人工知能)によって、算数・数学などの学習履歴を分析して、一人ひとりに合わせた教材を準備できるようになることも話題になっています。皆さんの中には、すでにパソコンが配られた方もいるかもしれません。

私には２人の子どもがいます。中学２年生の娘と小学５年生の息子は、それぞれ読み書きに困難を抱えています。娘は特に初めて見る言葉を読むことが苦手で、国語や英語の文章を読むことや黒板の文字を写すのにとても苦労しています。一方、息子は考えたことを文字にして書くことが苦手で、授業中のノートや読書カードなどは、45分間に２〜３行書くのが精一杯です。
事情を知らない人から見たら、２人とも、作業がゆっくりだな、やる気がないのかな、勉強が嫌いなのかなと思えてしまうかもしれません。でも、家庭での２人の様子はまったく違います。娘は、食い入るようにたくさんの本を読んでは、「この本面白いから読んだ方がいいよ」と教えてくれます。息子は、授業で聞いたことを、クイズにして質問し、学習したことをフル活用して解説してくれます。娘は知っている言葉を拾い読みしながら想像力を働かせて、息子は手の代わりに耳をたくさん働かせて、新しいことに出会ったり、知識を身に付けたり、活用したりして「学ぶ」ことを楽しんでいるようです。

以前、そんな２人が、本当にやる気がなくなってしまったと感じたことが、それぞれありました。その時のことを後で聞いてみたら、２人とも「自分はもっとできるはずなのに、どんなに頑張っても、みんなと同じようにできない」ことが苦しくて、悲しくて、「学ぶ」ことをあきらめてしまっていたようなのです。
「学びたい」という気持ちがあっても、どうすることもできないのは、とても辛かったのだと思います。

現在、２人は、「学ぶ」意欲を取り戻してきています。
娘は、受験に向けて中学校の先生方からたくさんの提案を受けながら、自分に合った学び方を探しているところです。息子は、クイズ係になり、「漢字の読み方クイズ」をたくさん作っています。２人に共通しているのは、学校でタブレットパソコンを使い始めたことです。デイジー教科書を使って教科書を読み上げて聞くことで理解を深めたり、キーボードを使って考えを書いたりしています。２人とも、タブレットパソコンのことを自分たちにとっての「勉強道具」だと言っていて、心配していた充電忘れもないくらい、毎日大切に扱ってくれています。
２人とも、自分に合った勉強方法を見付けることができて、とてもうれしそうで、学校の先生たちも、２人の変化にとても驚いて喜んでくれています。私も親として、とてもうれしい気持ちでいます。

今、私の仕事の一つは、「ＧＩＧＡスクール構想の実現」です。区内の子どもたち一人ひとりにタブレットパソコンを届けることや、タブレットパソコンを使った「学び」をどのように変えていくのかについて、日々、チームで話し合っています。
大事にしていることは、「子どもの『学びたい』をかなえる」ことです。
私の２人の子どものように、ＩＣＴ機器によって自分の学び方が分かって、『学びたい』気持ちをかなえられる子どもが、一人でも多くなるよう努力しているつもりです。

きっと皆さんのところにも、もうすぐ大きな変化が訪れるはずです。
ＩＣＴ機器の力を活用するなどして、本当の意味で「個別最適化された学び」が実現し、一人ひとりが「学びたい」をかなえられる未来が来ると信じています。
だからもし、今、障害などを理由に「学ぶ」ことを諦めてしまっている人がいたとしたら、この大きな変化を逃さず、自分の「学びたい」気持ちを取り戻し、かなえていってほしいと思います。

そして多くの読み書きに困難を抱えた子どもたちが、「学びたい」気持ちをかなえられる日が来た時には、私はきっと、自分の仕事をこんなふうに紹介したいと思います。

「子どもの『学びたい』をかなえるためのお手伝いをする仕事です。」