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一般社団法人読み書き配慮
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困難さを可視化できる?
菊田 読み書き障害は、日本語特有の困難さもあると思いますが、配慮に関しては、海外の方が進んでいる印象があります。実際、どうやって配慮を決めているのでしょうか。
高橋先生 イギリスの例なんですけれども、イギリスは、いわゆる大学入試に必須の全国テストの配慮を受けるためのリストの中で、必ずしも診断が必須じゃないんですよ。
leaning difficulties、つまり学習困難、読み書きですけど、difficultiesでも配慮対象となり得る。どういうことかというと、例えばさっき言ったような、何とか頑張ってがんばって、平均的な読み書きのスピードを保っているような人であっても、検査をやると必ずどこかには苦しいところが出てくるはずなんですよね。それこそ、元筑波大学教授の宇野彰先生の検査とか、速く読む課題とか、図形の認識みたいな課題とか、ひらがな、漢字・・・「どこかで大きく落ち込んでいるという指標があれば、配慮が受けられる要素が出てくる」というのがイギリスのやり方みたいです。ですから、さっき息子さんの例で話されたように「脳の検査はできないけれど、いろんな検査をやった中で指標を示す」というのは、アプローチとしては正しいやり方だと思います。
菊田 なるほど。いわゆる”検査バッテリー”ですよね。
高橋先生 そうですね、はい。
音の記憶が苦手とか、たくさんの細かいものを目で見て、区別するのが苦手とか、それで検査で本当に極端に落ちていれば、「やっぱりこの人は文字を認識すること自体に困難がある」ということなので、「これは配慮に値する」というやり方はあるかなとは思っています。
菊田 なるほど。数ある検査の中で、いっぱいメニューを揃えておくことによって、どこかでの落ち込みを拾って、それを根拠に支援、配慮を進めていこうということですよね。そうするといろんな検査のメニューがある方がいい。それからもう1つ、親が思うのは、やっぱり検査をたくさん受けるのは大変だから、ある程度「もしかしてこの辺かな?」という見当がつくといいですよね。できるだけ、検査の数が少なくて済むような。
高橋先生 そうですね。必ずその種類の検査を全部受けなきゃいけないとなると、時間も大変なことになります。
菊田 検査を受けると考えるだけで、家庭は大変です。検査によって疲れてしまうので、その疲れた子ども・・・みんながおとなしいわけでは決してないので、疲れたら色んな不具合になって、生活の中では、もうスッチャカメッチャカになってしまうので、検査を受けただけで、あとの何週間もが家庭は大変なことになるんです。
高橋先生 検査を受けて、疲れて、イライラして、そのイライラが色んな所で爆発するみたいなね。
菊田 それです。それで全部をかき集めて、なだめたり謝ったりして回るのが家庭の役目ですから大変なんです。それを考えるとおおよその見当がついて、この辺っていうので、できるだけ凝縮した検査ができるとありがたいですよね。
高橋先生 それを目指して作ったのが、さっき話したRaWFと質問紙尺度なんです。尺度の方は最低7項目と言いましたが、最大93項目あるんです。それぞれに「こういった能力の機能が落ちていたら、これに引っかかるはずだ」みたいな項目の仮説のようなものが並んでいます。だから質問項目で当てはまるパターンによって、「だいたいこの辺だ」という目処が付けられるような、そういう質問になっています。
菊田 なるほどー。すごいっ!
武井 ちょっと、受けさせてみたいです。
菊田 そうすると見える化のいろんな手立てや検査を使いながら、その子の困難をどこかの角度から見るっていうことですよね。すごい。やはり、先生のご研究は結果にコミットしているから。
武井 実践に則している検査ですね。
読書はオーディオブック
菊田 私たちが聞いていても、全然違和感がないです。子どもと家庭は常に「解決」を目指しているんですけれど、その私たちがまさにが求めている事っていうか。先生の視点の背景には、先生が困難を持っている学生の言葉をよく聞いて、素直にそのままうけとめてくださっているんだろうな、と感じます。
高橋先生 正直なことを言うと、学生の話ももちろん聞きますけど、結局自分がそういうところがちょっとあるので。それで「なんとかしなきゃ」という思いで、やってきている感じなんです。私は本を読むのが苦手なんですよ。
菊田・武井 そうなんですか?!
高橋先生 なので、私の読書はオーディオブックなんですよ。
菊田・武井 えぇーーーーっ!?
高橋先生 論文とかで必要な情報を見つけるとか、そこだけ読むのはできますが、やっぱり分厚い本とか、長いと本当に頭に入ってこないので。だから論文なども、タブレットでダウンロードした論文を読み上げで聞いたりとか。結局、それが、こういうことに興味を持ったきっかけなんです。
菊田 研究者や支援者が、困難の当事者や家族としての視点を持っているって、実は重要だと思うんです。その困難の真実が分かっているからこそ、目指すべき解決がわかってるっていうか。
先生、あのオーディオブック、私も試してみたことがあるんですが、どうもうまくいかなくて。先生は普段どうやって聞いているんですか?
高橋先生 私が普段、本当にオーディオブックとして聞くのは、オーディブルっていうものです。アマゾンのオーディオブックのオーディブルと契約して、ダウンロードして、買って読んでます。論文はipadで、論文の中でもE-pub形式っていうんですかね、ダウンロードできる形式もあって、それなんかだと比較的簡単で、範囲指定すればそこはかなりスムーズに読んでくれます。
状況を理解するための検査と位置づけ
武井 先生の新しい検査というのは、具体的に発表されたら、どんな感じで使えるものなんですか?医療機関じゃないと使えないとかありますか?STRAW-Rは学校の先生ができるとかありますが。
高橋先生 知能検査みたいな検査ではないので、資格がないと買えないとか、そういうものではないんです。金子書房から一般の書籍として出版されます。書籍としてのマニュアルが出ます。マニュアルですが、読み物的に読める形で書いてます。質問紙の方は、本を買った人はサイトから項目をダウンロードできるようにしたいと思っています。
今回出す本は、どちらかというと専門家の方が、そういう相談を受けたときにちゃんと対応ができるように、しっかり学生さんを理解できるようにというのが主旨なんです。だから、かなり内容的にもテクニカルというか、難しい統計のようなことも一部入ったりしてるんですよ。
菊田 つまり大学の現場で使ってもらうということなので、大学の現場で使うにあたっての手引書みたいな感じなんですね?
高橋先生 そうです。こういう検査があるんだということは、多くの人に知ってほしいし、質問紙は自己チェックでやっても、なんとなく傾向は分かるようなものにはしています。もちろん学生さんに読んでもらってもOKです。
菊田 どの学校でもこれは備えてるよっていう状況にしてほしいです。
武井 うちの息子は19歳で大学生なんですけど、「中高生の時に受けた検査はもう古いから、今もう一度受けたい」と言ってるんですよ。でも18歳を超えると、知能検査はWAISがあるけれども、ほかのはどうなんだろうねっていうところで今止まってるんです。当事者からもそういう声があるので、ニーズとしてもすごく有効な検査だと思います。
高橋先生 ぜひやってみてください。それこそ質問紙の方だったら、すぐにでもやっていてもらったらいいかもしれない。どのくらいになるかっていうのを。
武井 感覚的に読み書きができなくても、年齢を超えたらもう一度検査受けたいって気持ちになったりするんでしょうか。
高橋先生 たぶん、自分とまわりとの関係性って変わってくるんじゃないですか?小中高の時は、同じような試験でみんながテストされて、その点数で順番が決まってという感覚で来ていたものが、大学に来ると、色んな教科のすべてのものを求められるわけではないので。読み書きにしても、非常に範囲が限定された中で聞かれますし。その中で「自分は、ほかの人と比べてどうなんだろう」ということを再認識したいという思いは、やはりあるんじゃないかなと思います。
武井 先生がこの研究を始めたきっかけは、先ほどのご自身のことがきっかけだったということでしょうか。ほかにもあったんですか?
高橋先生 やっぱり、本を読む苦手意識がずっとありましたし、あと大学院で留学したんですが、留学した時に課題でいっぱい英語の教科書を読まなきゃいけなくて、頭に入ってこないんです。もちろん外国語だからというのもありますが、それにしても、全部単語の意味は分かっているのに、読んでも頭に入ってこない・・・この感覚なんだろう。と思いまして。それで、発達障害には興味がありましたが、「やっぱりLDをやろう」って思ったんです。アメリカに留学した時に、アメリカでは、発達障害の一番大きい問題がLDなので、それをやろうって思ったんです。もともと「言葉」には興味がありました。「言葉の問題」から「発達障害」、「LD」という方向で興味がいきました。私が日本に帰ってきてから、もう23、4年になりますが、日本の国内では、まだあまりLDが注目されていなくて、それで一度LDの研究から離れて、ASDとかADHD関係の研究をやっていました。でもやっぱり、「言葉だな、読み書きだな」と思って・・・うん。ここ5年くらいでこの研究に戻ってきたんです。
菊田 じゃあちょうどいいときに、私たち出会えてうれしいです。
戻ってきてくださって、本当に良かった。解決を追求してくださる研究者がいないと、子ども達は本質の学びを得られないまま、挫折感だけが大きくなっていくという状況になってしまうので。
高橋先生 そうですね。だから、私の研究の方向性としては具体的に解決策というよりも、いかにその状況を理解するかという方向がウェイトが大きいとは思います。結局、ただ読むのが遅い、書くのが遅い、というだけではなくて、「何で読むのが遅いの?」とか「何でうまく書けないの?」というところが分からないと、より効果的な対処法も考えられないんですね。そこを何とか分かるようにやっていきたいなっていうのが、研究として考えている事なんです。
菊田 今日はとっても心強い味方がいるなってことを実感しました。
本来の力を発揮するために
武井 先生のご研究の今後の展望などはありますか?LDの子たちへこうなってほしいとか。
高橋先生 はい。そうですね。とにかくまだまだなので。本当に最低限のものー読み書きが遅いことだけが分かっても、「何で」ということはまだまだですし、大人が使える検査も限られているので、やっぱりもっと自分の状態を正しく理解するためにどうしたらいいかな、ということを、もう少し考えていきたいなと思います。
菊田 LDでも失望しない社会というか、先生の力で、そういう方向になっていきそうと思いました。
高橋先生 思うのは、「本来の力が出せない」というのが一番つらいと思うんですよ。さっきLDとして相談に来る学生はあまりいないけれども、メンタル的なことで相談に来るという話をしたと思いますが、結局それって、違和感があるということなんだと思うんですよ。「自分はもっとできるはずだ」という感覚。「もっとわかる気がするのに、できないし、認めてもらえない」という感覚が、やっぱり気持ち的に苦しくなってしまうということだと思うんですね。ですから、そういう人達は、「あ、自分ってこういうちょっと弱いところがあるけど、こういういい所があるぞ」「こんな強みあるぞ」という感じで、そういうところを出していける、そこが目標ですかね。
菊田 子ども達が、いかんなく能力を発揮して、明るく生きていってほしい。思う存分生きてほしい、活躍してほしいと思います。そうなりますように。先生今日は、貴重なお話をありがとうございました。
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