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18歳以上の読み書き検査を開発
菊田 前回、大学での障害学生支援についてお話を伺いました。その中で、見えてきた課題として、「18歳」を超えてしまうと、現状では読み書きの困難さを示す検査がない、ということでした。そこで、先生のご研究で、そこを対象に測れる新しい検査を作られたのですね。
高橋先生 成人期に使える言語系の検査となると、失語症の検査はありますが、それは、「言語機能が失われている人でどのくらい失われているか」という検査ですので、とても「大学生の読み書きが平均的な人に比べると遅い」ということを示せる検査ではなかったんです。それで、まずは最低限、「本当に読み書きが遅いのか?遅くないのか?」それを見ることは必要だろうということで作ったということです。
菊田 検査の名前はもう決まっているんでしょうか?
高橋先生 「読字書字課題」、略称「RaWF」という名称で作っています。ローフ。
菊田 「RaWF」は速さと正確さについて調べるということですか?
高橋先生 はい。テストは基準値を作るために、その基準値を作る集団が必要なんですけれども、その集団が18歳から26歳で取りましたので、18歳から20代くらいの学生さん、教育機関に所属している人ということになりますね。専門学校とか大学院生からもデータを取っていますので、いわゆる学生と言われる人達であれば、対象にできるという検査です。
菊田 検査を見ると対象年齢が書いてあると思いますが、対象は18歳以上?18歳にならないと使えないってことなんでしょうか?
高橋先生 はい、18歳以上です。正確な基準値、要するに平均と比べてどうか、ということですが、じゃあ「その平均って誰の平均なの?」といった時に、18歳以上の人ということですね。開発段階でいろいろやってみる中で、高校生を対象としてやった例もありますが、要するに”配慮を求める根拠”ということでいうと、それは使えないかなと思います。
経過を見ることはできますが、「この人は平均に比べてこれだけ遅いです」というその”根拠”としては、やはり18歳以上ということです。
菊田 ああそうか、検査ってそうやって作っていくものなんですね。では先生の新しい検査は、大学に入ってから使う検査ということになるでしょうか。
高橋先生 「18歳」という言い方をしたのは、例えば、予備校生、浪人しているとか、そういう場合、大学生でしか使えない検査だと、使えなくなってしまいます。だから「学生」という言い方をしてますけど、予備校生でもいいかなとは思います。だから「18歳以上で大学受験を目指す人」ならOK ということです。
菊田 そうか、浪人生にも必要ですものね。浪人しても配慮申請は当然出すべきだし、その検査があったら出しやすくもなる。なんか期待が持てますよね。
今度は、大学に入ってから「なんか読み書きに困難があるのかな」と思って、相談に繋がってくる方っていうのは、どんな感じなんでしょうか。
私たちの子ども達は、割とちっちゃい頃から、ほとんど書けなかったという子ども達ですので、支援がなかったら、次の学びには繋がりませんでした。けれども、大学生って、そこを何とか頑張って乗り越えてきたお子さん達ってことじゃないですか。たぶん、大学入試って、すごく読み書きに力がいったと思いますが、そこを何とか乗り越えて、そして大学に入ってきたけれども、入学後につまずいてしまうというのは、どのような状況なのか教えてください。
大学に入ってからつまずくこともある?
高橋先生 はい。大学で読み書きにつまずいている人は、だいたい2パターンあるかなと私は思います。1つは、高校時代も読み書きに苦戦していたんだけれども、最近は大学入試も多様化しているので、 AO入試のように、いわゆるたくさん読んで、たくさん書くような試験を受けなくても入れるようなルートでの入学というのがある。もう1つの方は、一応試験も受けていますが、高校までも読み書きに苦手はあったけれども、非常に優秀で、なんとかそれをごまかして、というか、苦手さが目立たない形で、がんばってクリアしてきた人達。それも、自分なりの工夫とか、7割くらい読めたところでもう分かってしまうような、むしろ優秀な人達です。しかし、大学に入ってくると、同じ学力水準の人たちが集まっているし、学科によっては、読み書きの課題が多かったりするわけです。そこでもう、そのごまかしがきかなくなる、と言いますか、他の学生と同じようにやっていけなくて、苦しくなってしまう。後者の場合だと、読み書き障害とか学習障害っていう意識はあんまりない。けれども「なんで自分はこんなにうまくいかないんだろう」と、大学に来てから困ってしまうタイプですね。そういう学生は一定数いるみたいです。
菊田 そうなった場合に「これって自分は障害かもしれない」という本人が気付いて、それで相談に見えるんですか?
高橋先生 時々あるのが、読み書き障害の専門の先生が、授業で学習障害の話をするわけです。「それってなんか障害なの?」自分が困っていたのが、「え?そういう障害もあるんだ。」みたいな。それで授業が終わってから相談に来たりとか、ということはあるんです。
菊田 なるほどー。じゃあ私たちが「LDってこうなんですよ」と話すことが、もしかして誰かの気づきになることがあるってことですね。ということは、私たちのやっていることも意味があるかな。
高橋先生 結局本人の、例えば見え方とか、文字認識のしんどさみたいなものって、生まれながらにそうなので、自分が他の人と違うということが分からないんじゃないかなと思います。だから「読み書き障害」というものがあるんだと言ってもらえると「他の人はこんなに苦労していなかったんだ」と初めて分かったり、「別のやり方もあるんだ」と気付いたりする。それで気づいて、必死に読み書きを補う方向にエネルギーを費やすんじゃなくて、本来の能力をもっとクリエイティブな方向に使ってほしいな、という思いはありますね。
菊田 そうですよね。本当にクリエイティブな方向に彼らの能力を使ってほしいと思います。ある学会で高橋先生とご一緒にシンポジウムをやらせていただいた時に、会場からの質問の中に「うちの大学は英文学部で多読させる学部なんだけれども、そもそもLDの人に多読は向かないから、入学の前に受験をあきらめてもらう方がいいんじゃないか」という話が出たことがありますよね。その時に、「多読させることによって、もっと発想とか、思考とかっていうのを高めて、そして社会に送り出すのが先生方の使命じゃないですか?」ということを高橋先生がおっしゃいましたよね。親としては、大学とは、子供たちに困難があったとしても、それぞれが持てる能力を存分に高める場であってほしいなと思います。
高橋先生 「多読の目的って何ですか?」ということですよね。要するに大量の文字を速いスピードで認識する能力を身につけるのが、大学教育の目的なのか、ということなんですね。そうじゃないですよね。多読を通していろんな知識や考え方を学ぶことで、また新たなアイディアが出てきたりとか、考え方を学んだりすることがポイントなわけで、それを文字認識のところだけを求めるというのは、本質とはズレていると思います。
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次回は、11月1日会員限定公開です。
=第3話=
「困難に気づいたら」
「大学への学びにつなげるには」
どうぞお楽しみに。
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