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今回は、信州大学 高橋知音先生にお話を伺いました。高橋先生は、18歳以上の学習障害の検査RaWFを開発されています。RaWF開発に至った経緯、大学の現状、LDの大学生を取り巻く支援の“いま”について詳しくお聞きしました。
LDの大学生を取り巻く今
菊田 学習障害の子供たちの中には、漢字とか計算とかでつまずいてしまって、「学校に行きたくない」という子どもたちがいます。そういう子供たちって、得てして知識欲はものすごく旺盛で、「大学の学びと自分」というのは割と繋がりやすいのに、「小学校高学年の学びと自分」とか、「中学校の学びと自分」っていうのがなかなか繋がりにくいという風に感じます。つまり、小中高校時代の「学び」が読み書きの作業主体になっていると感じられるからなのですが。でもこの知識欲旺盛の子供たちを、なんとか大学の学びと繋げていけるような支援が必要だなあってこの頃考えています。その中で、高橋先生の研究が進めば、LDの子どもが大学に行きやすくなって、楽しい世の中になるんじゃないかなあ、と思っているんです。その辺の期待を込めて先生に伺いたいです。
ではまず、大学の実状から教えてください。
高橋先生 大学で障害のある学生はすごく増えていて、その中でも発達障害のある学生ってすごく多いんですね。ただ、発達障害の中でもASD、ADHD、LDと見たときに、LDのあるお子さんの数ってものすごく少ないんですよ。
菊田 へ~。つまり大学に繋がっていないってことなんでしょうか?
高橋先生 そうですね、これには2つの考え方があると思うんですけど。
LDのあるお子さんが大学に入りにくくなっているのか。LDがあるんだけれども、それが気づかれずに大学に来ているのかという、2つの可能性があると思います。
菊田 親としては、「どこかで挫折して大学には繋がっていないかもしれない」という可能性を感じますね。
高橋先生 読み書き、漢字なんかもそうですけれども、結局それは情報の出入り口であって、大学の教育で大事な部分というのは、入ってきた情報でどう考えるかとか、どうやって考察するかということが重要なので、情報の出入り口でつまずいているという理由で、大学で学べないとか、評価されないというのは非常にまずいと思います。なので、そこを何とかしていきたいというところですよね。
菊田 そうなんですよね。非常に発想豊かな、奇想天外な子ども達なのに、途中でつまづいて進学を諦めざるを得なくなってしまうと、思考を鍛えてやる場所がない。大学の学びでいろんなことに感化されながら新しい発想を展開していくことができたら、日本の社会にもっと面白い人材がどんどん現れて、世の中がもっと面白くなっていくんじゃないのかなって、期待しているんですけど。
高橋先生 そうですね、とくに海外、英語圏の国なんかではそういったところがしっかり確認されて、読み書きで苦戦しているんだったら、そこをバイパスして、いかにいいアイデアを出せるかという、そういうところで評価してもらえるので、そこに近づいていけるといいのかな、と思っているところです。
菊田 なるほど。先生のご研究は、日本も教育もそうなるようにとの思いで進められているわけで、すごく期待が高まるんですけれども。
大学での支援はどんな感じですか?そのあたりの実状を教えてください。
高橋先生 はい。大学によるんですけど、障害があることがはっきりしている場合には、障害学生支援という形で、専門の支援部署があって、かなり手厚く支援してもらえる状況は整ってきています。
菊田 多くの大学で障害学生支援が進められていると考えて良いということでしょうか?
高橋先生 そうですね。専門部署ということになると、どうしても規模の大きい大学ですとか、あとは国立と私立の大学でもだいぶ差があって、国立は3分の2くらいの大学で専門部署があるんですけれども、私立の大学ですと、2割にいかないくらいです。
菊田 なるほど~。
高橋先生 でも、何もやってくれないということではなくて、専門部署がなくても、学生支援の部署というのはありますし、少なくとも学生相談という形で、相談できるところはあります。ただ、専門的に読み書きのことについて配慮してくれるかっていうと、やはり専門部署があった方が、手厚くやってくれるかな、とは思います。
菊田 親同士の情報共有として、肌感覚で感じていることは、発達障害に対する理解はずいぶん高まってきたな、と考えています。例えば、起立性調節障害への支援であるとか、あるいは身辺整理ができないことへの支援であるとか、時間の組み立てができない事への支援というのは、だいぶ整ってきて、子ども達が生きやすくなってきたかなと。ところが、LDに関しては、やっぱり頑なに、「LDなんて存在しない」という大学の先生方もまだまだいらっしゃるんだなと感じています。そのあたり、先生はどうお感じになりますか?
高橋先生 そうですね。LDについて広まっていない1つの理由は、やはり医療関係の方も、専門的な視点からLDを見て頂ける医療機関が十分にないと言いますか――医療関係の方も、「LDが無い」と言っているわけではなくて、よくあるのが「LDは学習の問題だから、教育の問題として教育機関の中で扱うことじゃないか」という言い方をされる先生はいるかな、と思います。
菊田 学校から「診断書を出して」と言われると、診断書を書いてくれる先生がいないので、本当に困ってしまう、というのはありますね。確かに、LDは教育の問題と言われればそうなんですよね。でも当の教育界でL Dの存在そのものについての理解が進まないので、医療の分野に手伝ってもらいたいということかなとは思うんですけど。
高橋先生 そうですね。まだ教育分野の中でも、LDの本当の意味について、ご理解いただけていない場面もあるので、そういうところを医療の方からプッシュしてほしいですし、いざ試験の配慮ということになると、結局診断書を求められるので、現実には「診断書」として、学習障害、”読み書き”の言及がないと、なかなか配慮が受けにくいという現状はあるかと思います。
菊田 なるほど。じゃあ、教育界の実状も医療業界に伝えていけたら、もう少し診断書を書いてくださる先生方が多くなるかもしれないですよね。
信州大学と言えば、読み書き配慮は、本田秀夫先生に一番最初から応援して頂いているんですけど、本田先生は「8歳までにその傾向が見られたら、それはもう一生続くのだから、診断書は書いてあげるべきだ」とおっしゃっていて。教育界の窮状へ医療界が理解を寄せてくれたらいいですよね。
さて、大学の配慮に話を戻しますが、大学では専門部署があればだいぶ聞いてもらえるようになってきたということですね。
高橋先生 具体的な支援ということで言うと、実際に読み書きに困難があるという理由で、例えばノートテイク関連ですと、授業の録音を許可するとか、あとはパソコンを持ち込んでノートを取っていいとか、そういったことは比較的行われていると思います。それから、大学の中で、読み書きに関する支援を受けるためには、LDの診断が必須かというとそうではないです。ただその場合でも、発達障害などのほかの障害があって、かつ読み書きに困難があるということを、やはり何らかの形で示さなければなりません。現実にはL D以外の障害に付随する形でLD支援を受けているケースがあるということだと思うんですけど。
菊田 困難を見える化するのが検査だと思いますが、例えば大学で行われている検査が、どのように支援に組み込まれているのか?についてお聞かせいただけますか。
高橋先生 大学での障害学生支援に関して言うと、検査をちゃんとやってないところもある。
菊田 それでも支援が行き届けばいいのかなって思いますが。
高橋先生 ただそれでは、なかなか読み書きの支援が得られにくいので難しい。まあそこが、読み書き困難特有の実状ではあるんですけど。現状を申しますと、もう18歳を超えてしまうと、読み書きに困難があるとか、メモが遅いとか、そういったことを示す検査というのは全くないっていうのが現状です。
菊田 現状ではまったく無い。それで、先生のご研究では新しい検査を作られているんですね。次回は、その検査についても詳しく聞かせてください。
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どうぞお楽しみに。
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