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中嶋 配慮そのものにせよ、手続き面にせよ、学校は意外に知らないんですよ。LDへの 配慮の事例って。でも他の学校の事例を伝えると、学校も納得してました。
菊田 そうか。仮にその学校が子供を理解して、独自に配慮を進めたとしても、それが社会的に正しいかどうか、他の事例がなければ判断ができないということかなあ。他の学校の事例を知って、やっぱり自分たちの試みは正しかったのだと知る。逆に、他校の事例を知りにくいってことが、配慮実施に慎重な姿勢を生みがちなのかもしれませんよね。だとすると、学校同士も、是非事例を学び合って欲しいですよね。
中嶋 そうそう。読み書き困難そのものすら知らない先生方もまだまだ多いんですよ。
菊田 でも他校の事例を学校同士で共有できたら、自分の学校でも「この状態が読み書きの困難なんだな」ってわかって、その子への配慮が進められるわけで。
実際私も、中嶋さんと私の事例がつながって配慮が実現してきたこの経験があるから、この経験をその次にもに繋げていきたくて、この読み書き配慮をやっているわけです。
中嶋 そうそう、だから私は読み書き配慮の事例提供に協力しているの。
菊田 話が戻りますけど、入試についてお子さんの率直な感想は?
中嶋 子どもは、「配慮申請への回答を待つ時間が長かったから、もっと早く出してくれないと試せない」と思ったらしい。
菊田 なるほど。配慮が可能かどうか、どんな配慮になるのか、早く回答をくれないと、入試までに練習ができない。
中嶋 結局、時間配分の練習できなかったじゃん、って。
配慮申請は、あらゆる答えを想定して試験を受ける練習をしてきたわけ。それこそいろんな模擬を使って。時間延長や、読み上げ、読みなしバージョンと。そして配慮なしのバージョンも全部試した。でも、実際に出た配慮には「時間延長」があって、本人としては「時間延長こんなにいらないし」みたいなのがあって。申請しなかったことを、高校が配慮してくれるなんて思ってなかったから。
菊田 配慮というのは、こちらが求めたものに合わせて行うのが本来だと思うのだけど、今回中嶋くんは、配慮申請で求めてないのに時間延長がついて来たので、それが想定外だったわけですね。管轄の教委としては、大学入試センターの配慮に倣ったと言われていますが。
中嶋 そう。だから、傍から見たら、「えーすごい、ラッキーじゃん」と思われたかもしれないけど、配慮のある無いはむしろ2番目の問題で、試験の形態に合わせて対応する戦略をどう練るかというのが、合格するためには重要なわけであって。
菊田 じゃあ、中嶋くんとしては、中学の3年間は、高校入試を目標に、いろんな試験の形態を想定して配慮を試してきた感じなのでしょうか?
中嶋 それが意外に、高校入試のためとかではないです。やりたい分野である理数系に行けるかどうか、行くためには何を準備したら良いのかという点が重要で。文献をたくさん読まなくてはならないし、それに対してレポートをまとめる力をつけなくてはならない。本当に行きたい所ならば、なにを身に着けたら良いの?と。それで、まずはレポートを出来るようになること。あと、入試のためだけにしているのではなく、将来のために勉強しているわけで。
菊田 すごく分かる。自分の興味のある学問をやるためには、どういう学び方が自分にあっているかを模索していた、と。
中嶋 そうそう。そのために、必要な配慮を探したわけで。期末テストの点数を上げるためとか、入試に合格するためにやっているわけではない。
菊田 学問を極めたい、ということですよね。学びそのものを追求するために、学び方を模索している、と。
中嶋 そういうことです。
武井 実際に試してみて、本人はなんと言ってました?やはり中学校の先生たちの理解があったんじゃないかな、と思うのですが。
中嶋 理解もあったけど、たぶん私が知っている以上に、努力の形を見せていた感じです。あと、配慮されない状態を試している感じでもあった。本人は「自分だけで補えるようになりたい、といつも思っていたから、そこと葛藤して調整しながらやってきた」と言ってました。
武井 「自分だけで補えるようになりたい」と。「合理的配慮」って、どのラインが「合理的」なんだというのを、本人はずっと考え続けているということだと思うんです。自分の努力で上げていく部分と、配慮をもらう部分とで、そのせめぎあいの中で、どのラインが合理的かっていうのを。中嶋くんの場合は、本人の中で、「合理的」なラインはこの辺というのが根付いていった、という感じがあったのでしょうか?
中嶋 そうですね。これは過剰じゃないかな?と思うものは求めないですしね。
菊田 本人がフロントに立っているから、無理は要求しないものね。そしてその調整を自分でやっているということですね。
中嶋 見極めている、というのかな。「配慮を受けてどう思いましたか?何が身についたと思いますか?」と問われた時に子どもは、「いろんな視点で、この人はどう思ってるかな、とか、どういう考えで発言してるのかな、とかすっごい考えるようになった」と言ってて。
菊田 自分を客観的に見る力、ですね。「社会の中の自分」を見る力。
中嶋 そうそう。
菊田 親は学校に送り出したら、家で待っていることしかできないですからね。まだ12歳やそこら。そんな年端もいかない子どもが、健気にそうやって努力を積み重ねていると思うと、私、泣けて来ちゃうんだ(笑)
武井 空気読めない、とかよく言われますが、そんなことないんですよね。
中学校ぐらいって子どもが親の手を離れて、自立していく時。思った以上に子どもは、いろんなことを観察しながら、自分の行動や発言を抑制している。そうやりながら、調整して、交渉している。
菊田 親はそれに気づいてないから、「もっと配慮をお願いしたらどう?」と言うのだけど。でも子どもからしたら、「余計なこと言ってくれるな」みたいな。
中嶋 私、あの年齢であそこまで物事考えてなかった。
菊田 私もそう思う。もっと奔放だった。でも配慮を求める子どもたちは、配慮を得るために、自分の行動を律して、自分を客観的に見つめて、というのを3年間繰り返しているんですよね。
中嶋 空気読めないって言われているけど、むしろ「考えすぎでしょ」ってぐらい考えてますよ。
菊田 深い子になりますよね。当事者の人に会ったりお話を聞くことがあるのだけど、成年期になっていくと、この子たちは「人を受け止める力」を持つ深い子になるんだな、と。並大抵の苦労じゃないけど、それを 後ろから応援してやりたいなって。さっき中嶋さんが言ったみたいに、配慮は読み書きとか点数とか、そんなことじゃなくて、この子たちの人間性を育てる、という意味での配慮なんだな、と思いますよね。
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次回のタイトルは、「何から始める?学校選び」「中学校での配慮の状況」
9月1日会員限定での公開です。どうぞお楽しみに。
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