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菊田 個別の支援計画と指導計画はどうされていますか?
高橋 ぼくはちゃんと作っているけど、もともと個別の指導計画は反対派なんだよ。それはなぜかっていうと、もともとアメリカのIEP(individualized education program)から始まっているんだけど、あの頃、東京都の指導主事がこれからはIEPだ、個別の指導計画やるよ。ってね。でも、個別の指導計画を作って出されちゃったら、障害のある子は不良にもなれないじゃないか、それはおかしいだろう。って。
個別の指導計画書には、目標を具体的に書きなさいとか書いてあるわけ。調理をする、じゃなくて、Aさんは何を作って、Bさんは何を作ってって書きなさいとなってて、でも、となりのBちゃんの方がおいしく見えて内容が変わるっていうのもありじゃんと思うわけ。「キャッチボールを楽しむ」じゃなくて、「AちゃんとBちゃんとふたりでキャッチボールをする」という目標にしなさいとかなっていて、そうなると嫌がるAちゃんを無理やり引っ張ってきてキャッチボールやれ!ってそういうことなのか!!そんな個別指導計画なんていらねえよ!って言ったら、「個別の指導計画は、親の要望なんだと。」って言うから、「いやいや、親のニーズはね、ちゃんと授業やってくれ、っていうことであって、個別の指導計画をちゃんと作ってくれってことじゃないだろう。」って議論になった。
個別の指導計画は立派で、授業はボロボロっていうケースはいっぱいあるわけですよ、だから、僕は基本的に反対派なんだけど。
でもね、一番納得したのは、特別支援学校の先生たちが、要するに、考え方がいろいろ違う中で、チームを組んでやっていかなくてはいけない時に、この子は、こういう方針でやるんだ、っていう共通のツールとしての個別の指導計画は使える。っていう話、それは僕にはなんとなくわかる。そういうのはわかるよね。
それから、あとは、特別支援教育の推進調査の中に、個別の指導計画、個別の教育支援計画が作られているというのが、ひとつのキーワードになっているから、そういう意味では、 特別支援教育を見る視点としてあるのはありかなとは思うけれど、そういう見方をしているから、一方で、あればいいんでしょ、となっちゃっているところはない?っていうのがある。校内委員会は、推進調査によるとほぼ今は100%あるんですよ。だけど、いろいろ話を聞いていると、校内委員会をうまく仕切れないんだよ。
菊田 形骸化している?
高橋 うちは、校内委員会は僕がやるから、最終的にみんなの意見を聞いた上で、最終的な結論とか方向を指し示すからいいけど、他の学校では、なんとなくたらい回しになっちゃっているから、最終的に誰がこの子を誰が見るの?って、なっていて。うちでは、全部僕が見るという切り札がありますから。
菊田 私たちが個別の指導計画や個別の教育支援計画が欲しいと言っているのは、進学の時にどういう支援をしてきたのかを引き継いでほしいからなんですよ。
高橋 どちらかと言うと、それは個別の教育支援計画の方だよね。
都の支援シートか。あれをちゃんと使っていくというのがひとつ大事かなっていうのはある。
菊田 先生の学校に、読み書きに困っている子はいますか?
高橋 読み書きに困っている子ね、LD的な様相を呈している子はそんなにいないんだけど、相対的に読む力、書く力が弱くなっているというのはある。これは、読解力がおちているというのはまさにその通りで。その点については、危機感を感じています。これは、大人もそうだし、教員だって本を読まないからね。読めよ、お前ら!って。
書く力は、やっぱり書き順とか学校文化はうるさいじゃない。日本特別ニーズ学会(SNE学会)というのがあって、10年ぐらいやっているけど、そこでもカミングアウトしたけど、ぼくは、書き順はよくわからなくて、箸の使い方もできなくて、人の名前も覚えられないんです。教員としての資質がないんですけど、それでもやっています。って。
うるさいんだよ。初任の頃、「も」ってどういう書き順で書いた?とか、そこ?って。
作文でも、「“だども”はダメだ。指導が入っていない。“けれども”にしないと!」とかね。
最近は、「そういうところにひっかかっちゃっているんだよね、この人は」って思うようにしてるけど、こういうレベルで見ると、ダイレクトにぶつかるのではなくて、この人はそこにこだわる人、この人はこだわらない人って見ていくのが大事なのかなと。
だから、そこが、「どっちが正義なんだ!」みたいな議論になっちゃうからおかしなことになっちゃうんだよ。「書き順が正しく書けるのが正義だ!」と皆思っているわけですよ、じゃあ、書き順を正しく書けない子は生きていけないの?って話じゃない。
菊田 書き順って、こう書けばスムーズっていうもので、日本文化だと思うんだけど、知っていればいいってことだと思うんですよね。
高橋 漢字は、書けなくても読めればいいんじゃない!っていうのが僕の考え。
あとは、人に応じて調べればいいんだから。
菊田 伝えたいことが伝わって、相手の伝えたいことを受け取ることができるっていうことが究極の目標とすれば、必ずしも手で書けなくてもPCやスマホで表せればいいですからね。
LDに保護者が気づかれるケースと先生が気づかれるケースがあると思いますが、実際はどうですか?
高橋 ぼくらは医者ではないから、診断を出すわけではないし、「なんとなく発達障害的な傾向があるよね」とか、「なんとなく持ってるよね」と感じることはあるけど、やっぱりその子自身が困り感を持っているかどうかというところが大きいかな。
菊田 保護者への対応はどうしていますか?
高橋 とりあえず保護者には、「何かあれば聞きますよ。」って伝えています。で、話を聞いて、「お父さん、お母さんの思いはわかりましたよ。」って受け止めたところで、「じゃあ、そこからはじめましょう。」って話します。
「ああしてください、こうしてくださいという要望があれば、できるだけそういう方向でやっていくようにしましょう。」っていう姿勢で。保護者の思いをまず聞くようにしている。
でも、大抵の学校は、その時点で、「学校は出来ません」とか言っちゃうから、そこがそもそも難しいところなんだろうな、って感じています。
たとえば、「幼稚園の時に支援の人が一人ついていたんです。」って保護者が言ったら、「小学校では一人付けられないんですよ」って言う切り口から入っちゃう管理職は多いからうまくいかない。そうじゃなくて、「ああ、そうなんだ。一人ついていたんだ。」「一人ついていると上手くいくかなぁ。」「幼稚園の先生はどう言ってる?」と受け止めてあげると、「だんだんと集団に慣れてきたから、そんなに四六時中つかなくてもよくなっています。」とか、「じゃあとりあえず最初だけつけてみるような方向で考えていこうか」とか、お互いの妥協点も見えてくる。最初の1週間だったら、補助教員つけたり、場合によっては管理職がついてもいいわけだから。
菊田 制度的にいうなら「合理的配慮に向けた建設的話し合い」の部分、つまりコミュニケーションの部分ですよね。心配な部分に寄り添ってもらっている実感を得られると安心するんです。
高橋 学校って、最初から「無理です!」って言っちゃうことが多くない?
「障害が重いけど、通常でやりたい」と保護者が言ってきたら、「それは限界はあるけど精一杯やるよ!」というスタンスが大事かなと。
菊田 就学相談で、就学指導委員会の判定がそのまま決定だと誤解されていて、つまり、親の意向を挟む余地はないという誤解があって、それがフルインクル議論につながっているところもありますよね。
高橋 就学支援委員会がどう言おうと、親がそうしたいと言えば、そうなる。
ただ、親には「就学支援委員会の判定は絶対ではないけれど、妥当性はあるよ」と話をするわけ。そして判定は判定として、物理的なことを考えた結果であることでもあります。つまり、特別支援学校だったら、子供6人で1学級で担任が2人つく。特別支援学級だったら、子供8人で1学級で担任が一2人つく。通常だったら、子供35人あるいは40人で担任が1人なわけですよ。そういう物理的な状況の中で、どこが手厚いかということを議論しているわけです。一方で、その子にとってみれば、家から1時間かけて通う特別支援学級なのか、家から5分で通える通常学級なのか、という選択になったりします。ケースバイケースなわけですよ。判定に妥当性はあるけれど、所見はそうだけれど、現実としては本人と保護者がどこを選ぶかだから。
菊田 学校としての取り組みで気を付けていることはありますか?
高橋 最近は親の方が勉強しているからね、だから、せめて先生もそのぐらいのことは知っておかないと。「最低限の知識は持っておけ!」とは言っています。
「親がこうしてください。」と言った時に、素直に受け取る学校と、「何、親が言ってるんだよ。」という学校とがある。それは学校が勉強していないというのがあるから。
一方で、親の方も「当然の権利なんだからやってください。」と紋切り型になりがち。それは、別にLDに限らず、保護者の姿勢がそうなってきちゃっているから、それは良くない傾向だなと思います。
菊田 やりにくいと言ったらやりにくいですよね。
高橋 そういう感覚で、「当然うちの子はこういう障害があって、こういう支援が必要なんだからやってください!」という文脈で言われちゃうと、「えーそんなこと言われてもできないんだから、そういうのは専門の人に見てもらってください。」ってことになっちゃう。
菊田 売り言葉に買い言葉で。
高橋 そこらへんは、よくわかっている人が間に立ちながら、バランスをつくらないといけないのかなぁと。
うちなんかも、保護者と担任と僕でやるじゃない、担任からすると「なんでそんなわがまま言うんだ。」みたいに受け取る人もいるわけですよ。「でもね、親の思いになったら、そうなんだよ。」と話すこともあるかな。「だからといって、先生を責めているわけではないんだよ。」ということも伝えないと。
菊田 どっちも人間ですからね。お互いに尊重する関係でいないと話し合いがうまく進まない。やっぱりコミュニケーションなんですよね。
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