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(転載)
第39回全国中学生人権作文コンテスト中央大会
日本放送協会会長 賞
大分市立竹中中学校 三年生 甲斐 潤樹
「読み書きが苦手なのでパソコンを使わせてください。聴覚が過敏なのでヘッドホンも使いたいです。」
初めて会う中学の先生たちの前で僕は勇気を出してお願いをしました。
僕には障がいがあって、苦手なことや出来ないこと、少し大変と感じる場面があります。
みんなと同じように学び、一緒に学校生活を送るために、中学に入学する時に合理的配慮を求めました。
「読むこと書くことは諦めたの?」
黙って聞いていた中学の先生が僕を見ました。「大丈夫ですよ。」その言葉を期待していた僕は怖くて何も言えなくなりました。
「読むこと書くこと、学ぶことを諦めないために配慮が必要なんです。」
隣で母が答えました。
こうして僕の中学校生活は始まりました。
授業中パソコンを使い、騒がしい時はヘッドホンを付けます。疲れた時は保健室で休むことも出来ます。みんなと同じように授業を受けて勉強できること、友達の中で生活出来ることがとても嬉しかったです。
けれど、いつも僕とみんなの間に目に見えない大きな壁があって、僕は孤独を感じていました。心無い言葉に傷つき、理解ない対応に心が折れそうになることもありました。みんなが頑張っている時に頑張れなくて罪悪感で惨めになることもありました。
そんな時は、信頼できる先生に何度も相談して助けてもらいました。それでもうまくいかない時は母に学校に来てもらい先生方と話し合いを重ねました。一緒に過ごして僕を見てもらい、心を割って話し合うことで、僕とみんなの間の壁は小さくなっていきました。
今では全く壁を感じることなく、僕は当たり前のように配慮を受け、みんなはそんな僕をそのまま受け入れてくれています。
中学三年になり進路を考えるようになりました。先生にお願いして、いくつかの高校に問い合わせてもらいました。
「配慮を申請している生徒はいません。」
「前例はないが前向きに検討します。」
その言葉を聞いた時、「また一から説明して何度もお願いしなくてはいけない。」と思いました。僕の言って欲しかった「大丈夫ですよ。」という言葉は聞けませんでした。「みんなは行きたい高校を目指して勉強を頑張ればいいのに、何で僕は配慮のことまで心配しなければならないのか。」イライラして母に八つ当たりをしました。
「もう面倒だからいちいち説明したくない。高校なんか行かなくてもいいや。」
そして、勉強する気にもならなくてダラダラしていたら一冊の本が目に留まりました。
「ぼくの命は言葉とともにある」福島智先生の本です。福島先生は、盲ろう者として初めて大学進学をした人で、今は東京大学の先生です。
僕は小学校の時、福島先生と会って話す機会がありました。先生の隣には指点字で僕たちが話している言葉を先生の手に打っている人がいました。見えなくて聞こえない先生と僕たちは向き合って普通に会話をしました。僕たちの間に壁はありませんでした。
「自分のやってみたいことは簡単に諦めないほうがいい。諦めずにやっていたら案外うまくいくよ。」
先生が僕に言ってくれた言葉です。目が見えなくて、耳が聞こえなくなった時、指点字という方法が見つかったこと、入れてくれる大学がない時も諦めずに挑戦したこと、先生は自分の経験を話してくれました。そして、「壁にぶつかっても打ち破る方法を見つければいい。」と教えてくれました。
僕にはやりたいことも将来の夢も、そのために行きたい高校もあります。僕もみんなと同じように行きたい学校に進学して、夢を実現したいと思いました。
高校の体験入学が始まりました。
「聴覚過敏があるのでヘッドホンを使用していいですか?」
受付の人に声をかけました。ヘッドホンを付けた僕に向けられる人の目が気になります。大きな壁を感じて怖くなります。
けれど、安心して中学校生活が送れるように僕を支えてくれた先生、いつも応援してくれる家族に見守られて、勇気を出して一歩を踏み出しました。
僕はこれからも必要な配慮を求めて、学ぶことを諦めない。行きたい学校に進学して夢を叶えたい。そこに壁があるのなら、僕を見て知ってもらって打ち破りたい。次に続く誰かが「大丈夫ですよ。」と言ってもらえるように、前例がないのなら僕が第一号になりたいと思います。諦めない心を持ち続ければ、わかりあうことは出来る、壁はなくなりきっとうまくいくと信じています。
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