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武井 中学校で配慮を受けるにあたって、最初に学年の先生みんなに集まっていただいて、授業をタブレットでノートテイクさせてもらいたいということを息子が説明したんです。そうしたら先生方で議論になってしまって。結局、4時間かかりました。
一同 4時間も?
武井 前向きに取り組むという意味での話し合いだったんですけど、いろんな意見が出ました。なかには「やっぱりそう思うんだ」というような意見もあって。
菊田 例えばどんな?
武井 衝撃的だったのは、「書くことをあきらめるんですか」って言われたこと。
一同 ああ~。
野中 それはありますね。
武井 あと、「データの管理はどうするんですか」とか、「他の子どもや保護者への理解はどうするんですか」とか。
菊田 学校は仮定の話を出してくるけれど、そうした一つ一つのことが保護者にとっては高いハードルになるんですよね。
武井 そうなんです。保護者の方には学年はじめの保護者会で時間をいただいて私が直接、説明しました。そうしたら質問があって、「一人だけタブレットを使っている子がいるんだけど、どうして?って子どもに聞かれたら私はどう答えてあげればいいでしょう?」って聞かれました。「自分のいちばん弱いところをみんなに伝えるのはとっても勇気がいることなんだよ、というようなことを話してもらえたらいいです」とお話ししたら、その方は「あ! わかりました」と言ってくださって。そんなふうに保護者の方はみなさん理解してくださいました。何というか、敷居が低かった。
野中 むしろ学校の方がいろんな場面を想定して警戒している気がします。
菊田 周りの生徒たちもそう。以前、息子がテレビの取材を受けたとき同級生がインタビューに答えてくれたんですが、番組を見たら「パソコンを使っていても別にずるいと思わない」、「障害者? そんなこと思ったことなかった」ってみんなが言ってくれている。「一人だけ使わせたら周りの生徒たちからずるいって言われますよ」と先生方は言うんだけど、実際に使ってみたら誰も文句を言わないんです。
武井 ただ、周囲に迷惑をかけないようにということは気を遣いました。パソコンだとカチカチ音がするからタブレットの画面をタッチして音が出ないようにしたり、トラブルを起こさないようタブレットの管理も徹底した。使わせてもらうためにはこちらも「配慮」が必要ですから。
武井 息子はずっとノートを取れていない状態でした。小学校3年生まで暮らしていたイギリスではノートテイク自体があまりなかったので気にならなかったんですが、4年生から日本の小学校に通い始めて。でも、最初はノートが取れていないということに私が気づいてあげられなかった。それが、中学校でタブレットを使わせてもらって初めて、「ノートを取る」という経験ができました。テストのときは「ノートを使って勉強するんだ」ということも、そのとき初めて知ったんです。
菊田 わかります、中学校1年生の頃、うちもそんなレベルでした。
武井 残念なことに高校では配慮を受けられなかったのですが、中学校での体験を通じて、ノートを取ることがテスト勉強に生きるんだということを知ることができた。だから、進学してパソコンを使えなくなっても、手で一生懸命書こうって思えたみたいです。それは、本人にとってすごく大きかった。
菊田 単に文字や文が書けるというだけではないんですよね。書く手段を手に入れられるかどうかは、人格形成にもすごく影響すると思う。「書けない」ということは、勉強だけでなく、生活のすべてにリンクしているんです。書けないがゆえに自分の能力を表出できなくて正当な評価を受けられなかったり、そのせいで友達との関係がゆがんでしまったり。もしも配慮を受けていなかったら息子は精神的に潰れていたかもしれません。あの頃は本当に本当に苦しかった。
野中 わかります。いじめとの戦いでもあったと思う。
武井 親も不安で、自信を無くしていくんですよね。タブレットやパソコンを使っていなかった頃はいくら勉強をやらせてもできなかったから、子どもの能力を信じることができずに「こんなものなのかなあ」って思ってしまっていました。
野中 それが書く手段を手に入れることで、いろんなことが変わってきますよね。選べる職業も変わってくるし、出会う人も変わってくる。人生が全然違ってくると思います。
武井 「書くことをあきらめるんですか」っていうことを私たちはよく言われるけれど、紙と鉛筆の代わりの代替の手段を使うことは、書くことをあきらめることではない。書く力を補強することではあるけれど、あきらめることでは絶対ないんです。
次回は「#1 設立の思い Part3」です
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