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加藤:最初は「『ASD×TRPG』なんてニッチなテーマでは流石に博士論文は書けないよなぁ」と思っていたんですけど、周囲の応援もあって、「すごい研究だよ!」「面白い!」とか何人かに言われて調子に乗った所もあって(笑)、東京学芸大学の連合大学院の博士課程を受験してしまいました……「しまいました」って言い方もないですが(笑)。
研究テーマとしては、余暇活動の場でのASDのある子どもたちのTRPGを通じた相互作用の促進を観る…というものでした。視点としてはSSTのような「挨拶の仕方を教える」などの訓練的なアプローチではなくて、あくまでも余暇活動という場で、本人の興味や関心を大事にして、子どもが楽しみながら他者とのコミュニケーションを学んでいく(表現していく・体験していく)。その結果として、子どものコミュニケーションやQOL(クオリティ・オブ・ライフ)にどんな変化が起きたのかを研究しました。その博士論文での研究が起点となって、今も「余暇活動支援」というものが僕の研究と実践のテーマになっています。
菊田:それで博士論文を書いたのはいつですか?
加藤:博士論文を書き上げたのは2017年の3月ですね。博士課程の入試は調子に乗って受けて(奇跡的に)受かりましたが、博論執筆は調子や勢いではできなかった。研究の作法だけではなく、研究者の基礎基本を修士論文の時以上に叩き込まれ、「Ph.D」の「Philosophy(哲学)」として教育や支援の研究を考えることについて徹底的に鍛えられました。博論を書き終えた直後は疲労困憊で、「論文というものは、自分で書くより人に書いてもらったのを受け取るほうが楽だわ…」とつくづく思いました(笑)。いや、先生方の原稿を待つ編集稼業も決して楽じゃないですが(笑)。
菊田:分かります!(笑)。博士号を取得された後も編集者は続けられているんですよね。
加藤:悩みながら編集者の草鞋を履いております(笑)。でも悩みながらも編集者(出版人)を続けているのは、自分が応えたい様々なニーズに対する情報発信ができるから、なんですね。僕が発達障害のある子の余暇支援の研究者・TRPGの研究者として伝えたいことは山ほどあります。ただ同時に、僕個人が研究者・実践者として発信できるものは、心理や教育の世界の中で観たらごく一部、とても狭いです。ですが、自分の中で「これは世の中に伝えなければ」と思うこと、たとえばASDに関わる感覚特性や運動を含む身体機能についての様々なこと、いまなお注目を集めているニューロダイバーシティや教育のユニバーサルデザインのこと、成人期の発達障害のある人たちの支援の問題、引きこもりや不登校の背景にある発達の問題、そしてディスレクシアや読み書き支援のこと……色々伝えたいことがあり過ぎます。編集者をやっていれば、そういったテーマについて最先端で活躍されている人たちに執筆やセミナー講師をお願いして、本として出したりWEBで発信したりできるんですよね。問題意識を共有できる人と一緒に本を作ったりセミナー企画をするのは、編集者として今後も続けていきたいと思っています。
菊田:なるほどー。ハブとなって書籍を世に現していくということね。読み書き配慮も学習障害のハブとなって研究や実践を促していこうとしているんですけど、その考え方に似ていますね。
加藤:そうですね! 形は違えど同じことをしているかもしれないですね。
菊田:それではいよいよ「TRPGとは何か?」について具体的に教えていただけますか。
加藤:はい、では……。TRPG、正式名称は「テーブルトーク・ロールプレイングゲーム」ですが、進行役である「ゲームマスター」1名と、物語の主役であるキャラクターを担当する「プレイヤー」複数名に分かれて、紙や鉛筆、サイコロを使用して、決められたルールに準拠して、コミュニケーションをしながら架空の物語を進める「卓上会話型ゲーム」です。
でも、この説明だとピンと来ない方がほとんどなので、「いわゆる『ドラゴンクエスト』とかのロールプレイングゲーム(RPG)を、紙と鉛筆とサイコロ、会話で遊ぶゲーム」とか、「大まかな「ルール」とか「あらすじ」がある”ごっこ遊び”」「サイコロの目や発言で物語の展開がどんどん変わっていくのを楽しむ卓上の即興劇」などの補足説明をしたりしています。
TRPGそのものは、1970年代頃、アメリカで生まれたゲームです。日本に本格導入されたのは1980年代になると思います。
菊田:カードですか?
加藤:いえ、冊子です。ルールブック(冊子)とサイコロ、筆記用具があればできるゲームになります。80年代くらいに日本でTRPGのブームが起きました。小説や映画、アニメなど違って、TRPGは自分で作ったキャラクターを物語の中で活躍させることができるというところが魅力の一つだと思うんです。
菊田:クリエイティブな部分があるんですね。
加藤:そうですね。プレイヤーたちが作ったキャラクターと、ゲームマスターが用意した物語が融合することによって、他にはないオリジナルな物語がそこで生まれるんですね。
菊田:その日にそこでしかできない、たった一つの物語ですよね。そういうところが、子どもたちをすごく魅了すると思うんですよね。
加藤:今は優れたTRPGルールやシナリオ(TRPGの物語)が市販されたりネットに出回っていますが、ゲームや物語そのものは決して複雑でなくても個人的には良いと思っています。どこかで聞いたようなベタなシナリオだったりしても、そこに参加したプレイヤーが操るキャラクターの動き方や、振ったサイコロの出目によって、全然違った話になったりする所が、遊んでいる子どもたちを魅了するポイントの1つかなと思います。またTRPGは基本的には協力プレイです(ルール・システムによってはキャラクター同士が争い合うようなものもありますが、それも「1つの物語を創り上げる」という意味で協力プレイだと思います)。キャラクターにそれぞれ長所・短所といった特性があって、ロール(役割)があって、それを仲間同士で補い合いながら、一つのチームとなって物語を進めていくという感じです。
菊田:加藤さんのTRPGはそこ(協力)を大事にしているってことですよね。
加藤:そうですね。TRPGの中で「大事にしているところ」はプレイする人によりますね。即興劇的な部分(ロールプレイ)を大事にする人もいますし、戦略や戦闘、交渉などの要素を大事にする人、世界観やリアリティを大事にする人もいます。僕の場合は、初心者のお子さんを対象にすることが多いので、なるべく参加しやすい方法の1つとして協力プレイ重視でやっています。
菊田:私たちが加藤さんにTRPGをお願いしたいのも、その“協力”の部分ですね。KIKUTAには配慮を求める子どもたちが来るんですが、いつもはその子たちは学校で一人で闘っているけれども、このKIKUTAをホームにしてみんなで協力的しながら闘っていこうっていう気持ちを育てたいから。KIKUTAでのTRPGもすっごく盛り上がっていますよね。アイディアが次々と出てきて。
加藤:そうなんですよね。僕自身がTRPGをやっていてすごく楽しいのが、「そうきたか!」っていうアイディアを子どもたち出してもらえる時なんです。そこでは本気で意表を突かれるし、本当に面白い。
菊田:加藤さんはTRPGのときに「そうきたか!」「そうくるか!」ってよく仰っていますよね。そうすると、子どもたちがものすごく喜んで、また新しいクリエイティブな発想をどんどん加藤さんにぶつけていく。
加藤:そうですね。その原点というか…先ほどお話した、ジャケットのボタンを丁寧に留めてくれた青年のエピソードじゃないですけれど、世界が広がっていくんですよね。彼らの中にある「ああ、そういう世界を持っているんだ」というところを、子どもたちが表現してくれる。それが僕の中ではたまらなく楽しいんですね。
菊田:想定外のことを発想できる子どもたちなんだから、想定外のことをどんどん社会に生み出して活躍してほしい。ところが、とかく学校という空間は子どもたちを想定の中に収めたがるところがあって。想定外のことを話す子どもは嫌われてしまうような文化があるように感じることもしばしばです。でもTRPGは想定外の発想が出れば出るほど面白くなるゲームなので、そこが、彼らに合っているなと思っています。
加藤:そうですね。同時に「自由に決めていいよ」って言うと、困って何もできなくなってしまう子が出てきたり、そもそも活動への参加モチベーションが低い子――特に思春期くらいの子どもに多いですが――で、キャラクター名前を「匿名」「無名」とかにしたり、ゲーム中も「別に」「なんでもいい」とか言ったりする時もあるので、TRPGのルールによって行動はサイコロを振って決めますし、キャラクターの色んな設定をサイコロで決められるようにもしています。それは、彼らの想像力に制限を与えているんじゃないかと思われるかもしれないですが、実はその制限というか「枠組み」があるから想像力が生まれるっていうことなんですよ。
例えば、キャラクターの背景設定をサイコロで振って決める場合、金髪・美少女のサムライだけど出自が「風呂屋」とか。栗色の瞳の小柄でかわいい魔術師だけど性格は「腹黒」とか。「なんでそうなった?」っていう意外性が面白い。もちろんそういった設定は本人(プレイヤー)が嫌ならやり直しをしてもらいますけど、サイコロという本人たちが操作できない所で想定外のキャラクターが生まれる。そして、そのキャラクターを通じて、何ができるか、どんな物語が生まれるか、っていうことを子どもたちがまた彼らなりのユニークな発想で広げていく。また、プレイ中も、本人がめっちゃカッコよく「俺の必殺の一撃をくらえ!」とか言ってサイコロを振ったら出目が悪くて必殺技が空振りしたり、逆にボソボソしか喋らない子が降ったサイコロの目が良くて強敵の怪物を一撃で倒してしまったり、そのたびに子どもたちが「ええー!」って叫んで笑い出す。偶然生まれるユニークさと、子どもたちが思いつくユニークさが、どんどん連関して広がっていくっていう所が面白いですね。
菊田:相乗効果っていうことですね。想定外が想定外を生むっていう。
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【予告】
次回は、6月15日公開です。
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