【1】マネジメントメッセージ
一般社団法人読み書き配慮
代表理事 菊田史子
日本学生支援機構は毎年、障害のある学生の数を集計しています。令和3年度の報告によれば、大学・短大・高専に在籍する学生数は3,233,301人で、そのうち障害のある学生の数は40,744人です。障害種別に見ると、学習障害の人の数は実に243人です。これを全学生数で割返すと0.0075%になります[1]。一方で、小・中・高校に対し、文部科学省が実施した「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」(令和4年度実施)によれば学習障害(LD : Learning Disability)が疑われる児童生徒は6.5%と推定されています[2]。
この調査は標本となる学校の先生の回答から算出された推定値で、6つの領域について回答されており、「計算する」など読み書き以外の困難も含まれています。「読み」「書き」だけに限っても発生率は7~8%とする研究もありますので、10年前と比較して2%も上昇したとはいえ、学校の把握数には今後の伸びが予想されます。
さて、高等教育における0.0075%と初等・中等教育における6.5%。この比較から、我が国のLDの子供たちが高等教育への進学を果たせていない現実が見えてきます。2021年から当法人で始めた読み書き苦手な子供のスクールKIKUTA(KI:機器も KU:駆使して TA:楽しく学ぶ)では、読み書きが苦手な子供達に、ICT(情報通信機器)を活用しながらピアサポート(仲間同士の助け合い)によるエンカレッジ(勇気を育む)教育を行っています。
基礎講習ではICTの活用法から配慮プレゼン作成までの指導を行いますが、KIKUTA卒業生に対しては、ホームカミング・デイと称し、サイエンスを題材に思考や発想を育む『高次の学び』としての講習会も開催しています。『高次の学び』では、子供たちが読み書きの困難さから解き放たれ、自由に思考や発想を巡らせる環境の中で、通常級か特別支援学級かといった在籍の学級の種類によらず、それぞれの独創性を発揮し、難解なサイエンスの課題を次々にクリアしていく姿が見られます。
読み書きの困難さゆえに気づいて来なかった思考力や判断力・表現力を働かせ、秘められていた創造力が堰を切って溢れ出すかのようです。
聞くところによれば、京都大学に留学して来られる障害学生の多くはLDなのだそうです。日本でもLDの子供達を高等教育に繋げていかなければなりません。読み書き配慮では、読み書き困難を1.知る(理解の普及)、2.調べる(検査の普及)、3.支援する(支援法の普及)の3つを柱に活動を進めています。2023年3月現在に着目すれば、理解の普及としてデータベースの公開やメディアへの露出・オンライン講演は前年度に引き続き継続しているほか、コロナ禍で減っていた対面での講演受託件数も回復・増加傾向にあります。URAWSS講習等の読み書き検査養成者数は250名を超えてきました。子供を直接具体的に支援する場としてのスクールKIKUTAへの参加者数は60名を超え、効果を示すエビデンスも明らかになってきました。さらには、URAWSS講習参加者の協力のもと、KIKUTAの開催地は地方へも広がりはじめました。2023年3月には神戸で開催、夏には仙台での開催も予定しています。そしてスクールKIKUTAに参加したお子様の一人ひとりとご家族が、在籍の学校で理解普及の鋒となって、未来を切り拓いておられます。
さらに前へ前へ!会員や参加者の皆様のお力を巻き込み、これまでの何倍もの力で前に進んでいく読み書き配慮に、これまで以上のご期待をお寄せください。
一般社団法人読み書き配慮 代表理事
菊田史子
[1] 日本学生支援機構:『令和 3 年度(2021 年度)大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査』令和4年8月 https://www.jasso.go.jp/statistics/gakusei_shogai_syugaku/__icsFiles/afieldfile/2022/08/17/2021_houkoku_2.pdf
[2] 文部科学省『通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査』令和4年12月13日
https://www.mext.go.jp/content/20230524-mext-tokubetu01-000026255_01.pdf
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【2】事業の状況
1. 理解の普及
(1) ストーリーバンクとあるよセレクト
当法人は設立以来、読み書き等に困難を持つ子供に関する事例のデータベースとして、あるよ「ストーリーバンク」を公開してきました。また読み書きに困難を持つ当事者、教員、療育関係者、大学関係者や保護者の声を「あるよセレクト」として伝えてきました。法人設立から約5年が経過し、今後はより社会的意義の面から情報の活用に努めて参ります。
(2) メディアや受託講演の拡大
本年度は7月に開催されたNHK厚生福祉事業団による「ハートフォーラム」への出演、11月にAbema TVで放映された当法人に関する特集の他、講談社様からお声がけを頂き漫画新連載にコンテンツを提供するといった新しい取り組みも行いました。またこれまでお声がけのなかった地方(兵庫・岐阜・埼玉・鹿児島県等)の大学・医療・教育関係機関等から講演のご依頼を頂きました。またこれまで通り都内の公立学校からもご依頼を頂き講演会を開催しました。
(3) 専門家による講演・講習会の実施
北陸大学教授の河野俊寛先生には、後述するセミナーに加え、読み書き困難な子供たちの支援に「なぜICTを使うのか」と題した講演会を開催しました。KIKUTAでもICTを活用していますが、ICTを使う意味とメカニズムはこれまで判然としませんでした。その意味で本セミナーは画期的な試みと言えます。また同先生には、ICT指導者向けの講習会を8月に2日間にわたり開催して頂きました。読み書き困難の解決策としてICTの使用が有用だとわかっていても、有用さを引き出す具体的な使い方を教えてくれる場所や機会はこれまでなかっただけに、講習会には定員を超える申し込みがあり、受講生には大変好評でした。
また、読み書きの発達障害研究で活躍され、STRAW-Rの開発者である宇野彰先生による講演会を実施し、150名を超える方が聴講されました。
2. 検査の普及
読み書きの困難さを可視化する検査は、読み書き困難の状況の把握と、配慮の訴求のためには不可欠です。当法人ではKIKUTAに通う生徒を中心に、個別で検査を請け負ってきた一方で、検査を普及するため、専門的な講習会を実施してきました。
その中心となるのが、北陸大学教授の河野俊寛先生によるURAWSS II講習会です。URAWSS IIは同先生が開発した検査法であり、教員、特別支援教育士、スクールカウンセラー、医師、公認心理士、臨床心理士、言語聴覚士、支援者等向けに、読み書き困難のメカニズムと検査法を教授し、アセスメント結果の判定練習や検査所見作成練習などを通じて即戦力を養成するものです。7月と11月に開催され、何れも盛況でした。
また9月と3月には信州大学教授の高橋知音先生をお招きし、国内初の大学生を対象とした読み書き検査法を中心としたRaWF(ローフ)講習会を開催しました。
3. 支援の普及
(1) KIKUTA
昨年度に第一期が開講し、無事に9日間の日程が成功裏に終了しましたが、読み書きに困難を持つ子供たちに対するスクールKIKUTAの効果は明らかでした。これを受け、本年度は第二期、第三期、第四期と3度にわたりKIKUTAを開催し、3月には初の試みとなる神戸での短期集中開催を実施しました。全ての機会においてほぼ全ての子供たちが前向きに変化して行く様は、私たちにとっても想像をはるかに超えるものでした。KIKUTAに通う子供たちの何人かは発達関連の医療機関にかかっていますが、複数の担当医よりは、医療や薬だけでは解決のできない問題に対し、医療とは異なる切り口で取り組み効果的な解決を示したKIKUTAに対する賛辞のお声を頂戴しています。東京の医療機関から当法人に来るよう勧められた保護者の方もおられました。またKIKUTAでは平行して数学[MOU1] 教室クラブを実施していますが、こちらも発達に特性のある子供たちに適合した方法を採っており、取り組む子供の数も増えつつあります。他方、KIKUTA卒業生に対してはマネジメント・メッセージでサイエンス・スクールに言及したように、継続的にその可能性を支援する活動を行っています。
(2) ペアレント・トレーニング
本年度からは子供だけではなく、保護者への支援として、応用行動分析理論を基にした、ペアレント・トレーニングを行っています。応用行動分析(ABA)とは、行動の前後の環境を操作して 良い行動を増やしたり、不適切な行動を減らしたりする方法です。このテクニックを、日々の子育ての中で実践していくには練習が必要ですが、それがペアレント・トレーニングです。
(3) 相談事業
設立当初から実施してきた個別相談事業ですが、本年度は相談内容も多様化してくると共に、対応する私たちも様々な活動に取り組むことを通じ、提供できるアドバイスもより的確性を打ち出せるようになってきました。学習障害の疑い、進学、果ては大人本人の発達の問題に至るまで、より多様な相談に対応できるようになってきました。コロナ禍沈静化に伴い対面での相談日を設定するなど、より相談に応じやすい体制を整え、これまで以上に丁寧に個別の相談に対応して参ります。
【3】当法人の事業体制と運営状況
当法人の本年度における事業体制と運営状況につき、以下の通りご報告します。
1. 業務の適正を確保するための体制と運用状況
(1) 業務の適正を確保するための体制
当法人の理事の執務が法令及び定款に適合するため、また業務の適正を確保するための体制は
以下の通りです。
・理事会は、法令、定款、社員総会決議に従い、経営に関する重要事項を決定すると共に、
理事の職務執行を監督しています。
・代表理事は、定期的に、自己の職務の執行状況を理事会に報告しています。
・社内規定を整備し、恣意性を排除した上で、コンプライアンスに則り、当法人を
運営しています。
・監事は、重要会議へ出席し、理事から必要に応じて報告を受け、監査の職務の実行性を
確保しています。
(2) 業務の運用状況
当期の業務の適正を確保するための体制の運用状況は以下の通りです。
・本年度は理事会を7回開催し、代表理事が業務執行の状況を理事会に報告しました。
・法令や個人情報保護に関する社内規定に則り、情報を管理・整備しています。
・実開催のセミナー等ではコロナウィルス感染状況に対応し、安全・衛生面での対策を
施しました。
・監事はすべての理事会に出席し、理事の職務状況を聴取し、関係資料を閲覧しました。
・5月に事務所を高田馬場から西早稲田に移転しました。これまでスクールKIKUTAの会場
として利用していた場所にオフィスを構えることで、より業務活動が合理的になりました。
2. 役員に関する事項
2023年3月31日現在
氏名 役職
菊田 史子 代表理事
河野 俊寛 理事
武井 夏野 理事
武井 典明 監事
【4】財務に関する事項
尚、補足すべき重要な事項はありませんので、附属明細書は作成していません。
以上